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プレスリリース
新しい結合形成戦略による高機能三次元多孔性材料の創製 ― アニオン性有機染料を高効率で除去可能な イミダゾール結合型COF ―

【発表のポイント】

  • これまで必要とされてきた複雑な多成分反応(デブス–ラジシェフスキー反応)(注1)を用いず、二種類の分子のみを組み合わせる手法により、イミダゾール結合の形成に成功しました。
  • 化学的安定性と分極性に優れたイミダゾール結合を三次元の高連結ネットワークへ導入し、イミダゾール結合を有する高連結三次元共有結合性有機構造体(COF)(注2)の合成に世界で初めて成功しました。
  • 得られたCOF(TU-123)が中性条件下でカチオン性を示す特性を活かし、アニオン性染料を選択的かつ高容量で吸着できることを明らかにしました。

 
【概要】
工業排水や染色工程から排出される有機染料(注3)は、水環境に深刻な影響を及ぼす汚染物質の一つであり、その効率的かつ持続可能な除去技術の確立が強く求められています。特に、化学的に安定で、選択的に有害物質を除去できる多孔性材料の開発は、環境浄化分野における重要な研究課題です。

東北大学多元物質科学研究所の根岸 雄一 教授、Das Saikat 講師らの研究グループは、分子を共有結合によって三次元的に連結した共有結合性有機構造体(COF)に着目し、従来とは異なる結合形成戦略を用いることで、新規三次元多孔性材料「TU-123」を開発しました。これまでイミダゾール結合を有するCOFの多くは、複数の反応成分を必要とする合成法に依存しており、構造設計の自由度や三次元化には制約がありましたが、本研究ではアルデヒドとアミンの二成分のみを用いる環化縮合反応を採用することで、これらの課題を克服しました。

得られたTU-123は、水溶液中の中性条件において表面が正に帯電する特性を示し、負に帯電したアニオン性有機染料を静電的に引き寄せます。実際に、代表的なアニオン性染料であるアシッドオレンジ7に対して、高い吸着容量(495.07 mg g⁻1)と除去効率(86.08%)を示すことが確認されました。

これらの成果は、高連結三次元COFの構造設計に新たな指針を与えるとともに、環境浄化材料としてのCOFの応用可能性を大きく広げるものであり、持続可能な排水処理技術の実現に貢献することが期待されます。

本研究成果は、2026年1月23日公開の学術誌Journal of the American Chemical Society に掲載されました。
 
【詳細な説明】
研究の背景と経緯

共有結合性有機構造体(COF)は、軽元素のみから構成される結晶性多孔材料であり、高い比表面積や規則的な細孔構造を持つことから、分離・吸着、触媒、エネルギー変換、環境浄化など、さまざまな分野での応用が期待されています。特に三次元COFは、構造的な剛直性や物質拡散に優れた特性を有する点で注目されています。

一方で、三次元COFの多くは、限られた結合様式や比較的単純な連結数に基づいて設計されており、高連結ネットワークを有する三次元COFの合理的な構築は依然として大きな課題でした。特に、従来広く用いられてきたイミン結合は、合成のしやすさという利点がある一方で、加水分解に対する安定性や機能性の面で制約がありました。

このような背景から、より高い化学的安定性や分極性を有する新しい結合様式を三次元COFへ導入することが強く求められていました。イミダゾール結合は、安定性と電子的特性に優れる結合として知られていますが、これまで主に多成分反応を用いた二次元構造への応用にとどまっており、高連結三次元COFへの展開は未開拓の領域でした。
 
研究の内容

研究グループは本研究で、イミン結合に代わる新しい結合様式としてイミダゾール結合に着目しました。イミダゾール結合は、芳香族性を持つ五員環構造に由来する高い化学的安定性に加え、π共役性や分極構造を有するため、水中環境における吸着機能の向上が期待されます。

また、従来の多成分反応ではなく、アルデヒドとアミンの二成分のみを用いる環化縮合反応を採用しました。この反応では、まずイミン中間体が形成され、続いて分子内環化反応と酸化的芳香族化を経て、イミダゾール環が直接構築されます。本手法は、これまで主に二次元COFの合成に用いられてきましたが、これを高連結な三次元ネットワークの構築へ初めて適用しました。

その結果、12連結ノードと3連結ノードから構成される高連結三次元ネットワークを持つCOF「TU-123」の合成に成功しました。さらに、TU-123は水溶液中の中性条件において、イミダゾール環中の窒素部位がプロトン化されることで、カチオン性の表面特性を示します。この特性により、アニオン性染料との間で強い静電相互作用が生じ、高い選択性と吸着容量が実現されました。

実際に、代表的なアニオン性染料であるアシッドオレンジ7を用いた吸着試験において、TU-123は高い吸着容量(495.07 mg g⁻1)と除去効率(86.08%)を示し、その吸着挙動は速度論および等温線解析から、表面反応を伴う吸着過程に支配されていることが明らかになりました。
 
今後の展開

本研究で確立した二成分環化縮合反応に基づく合成戦略は、高連結三次元COFの構造設計に新たな指針を与えるものです。今後は、異なる分子設計への展開により、多様な構造・機能を有するCOFの創製が期待されます。

また、イミダゾール結合に由来する電荷特性や安定性を活かし、排水処理材料としての応用に加え、触媒、分離材料、エネルギー関連分野への応用も視野に入れた研究展開が期待されます。

 

図1. イミダゾール結合型高連結三次元COF TU-123を用いた、アニオン性染料分子吸着の概念図。TU-123は中性条件下で表面が正に帯電する(カチオン性)ため、アシッドオレンジ7などの負に帯電する(アニオン性)染料分子を静電相互作用により引き寄せます


 

図2. (a)二成分反応によるイミダゾール結合形成の模式図(b)二成分環化縮合による[12+3]連結型COF TU-123の構築概念図(c)得られたTU-123の三次元構造。


 

図3. (a)吸着過程におけるアシッドオレンジ7のUV–Vis吸収スペクトルの時間変化(挿入写真:A=吸着実験前の溶液、B=吸着実験後の溶液)。 (b)平衡濃度(Ce)に対する平衡吸着量(qe)の関係。カチオン性染料(メチルブルーおよびローダミンB)と比較して、アニオン性染料(アシッドオレンジ7およびメチルオレンジ)がより大きな飽和吸着量を示すことが分かる。

 
謝辞

本研究は、文部科学省 科学研究費助成事業「新学術領域研究(Aquatic Functional Materials)」(課題番号:JP22H04562)、日本学術振興会 科研費(課題番号:JP23H00289、JP23KK0098)、矢崎科学技術振興記念財団、ならびにフソウ革新的技術基金の支援を受けて実施しました。

用語説明

注1.デブス–ラジシェフスキー(Debus–Radziszewski)反応
アルデヒド、ジカルボニル化合物、アミン、アンモニアなど複数の反応成分を同時に用いてイミダゾール環を形成する古典的な多成分反応である。一般に反応設計が複雑になりやすく、生成物の構造制御や高次元ネットワークへの応用には制約がある。

注2.共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Framework)
COFは、有機分子同士が強固な共有結合によって周期的に連結された結晶性多孔材料で、規則正しい細孔構造、高い比表面積、設計自由度の高さが特徴。分子設計により官能基や配位部位を精密に配置できるため、触媒、分離、エネルギー貯蔵など多様な機能材料として注目されている。本研究では、複雑な構造のモノマーを用いて三次元高連結COFを構築しつつ、イミダゾール結合を構造内に含有させることで、染料分子吸着の最適化を実現した。

注3.有機染料
有機染料とは、炭素骨格を持つ有機化合物からなる着色物質の総称であり、発色団(光を吸収して色を生み出す部分)と助色団(その色を強めたり性質を調整したりする部分)を有して可視光を選択的に吸収する。繊維、紙、皮革の染色をはじめ、インク、顔料、分析試薬などに広く利用されている。水溶性・疎水性やカチオン性・アニオン性など多様な性質を示し、環境中での吸着や分解挙動が研究対象となる。

 

論文情報

“Beyond the Multicomponent Debus–Radziszewski Route: Two-Component Cyclocondensation Constructing a 12+3-Connected aea Topology Three-Dimensional Imidazole-Linked COF for Sustainable Wastewater Treatment”
著者:入江 司¹、佐々木 康貴¹、野崎 未佳¹、川脇 徳久¹、Das Saikat*¹、根岸 雄一*¹(1. 東北大学多元物質科学研究所)
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所 教授 根岸雄一
東北大学 多元物質科学研究所 講師 Das Saikat
Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c19590

東北大学
精密無機材料化学研究分野(根岸研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL:022-217-5604
Email:yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所
講師 Das Saikat
TEL: 022-217-5606
Email: das.saikat.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)