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プレスリリース
窒化ガリウムの発光を阻害する原因を突き詰める! ー極低温下における発光効率計測に成功ー

発表のポイント

・極低温(約-261℃)下において、窒化ガリウムの発光効率の計測に成功
・発光強度と発光効率の温度に対する依存性の違いを明確化
・パワートランジスタや発光ダイオードなど、様々な半導体デバイスの省エネ化に寄与

概要

照明や通信、太陽光発電などの分野においては、電気エネルギーと光エネルギーとを相互に変換する発光ダイオード(LED)や半導体レーザ*1、太陽電池などが活用されています。これら半導体デバイスは、ウェハと呼ばれる結晶基板上に作られるため、デバイスの性能はウェハの構成材料となる結晶の品質に強く左右されます。なかでも窒化ガリウム(GaN)は、高性能な電子デバイスや光デバイスの製造に適する省エネ材料の一つとして注目されています。東北大学多元物質科学研究所 小島 一信 准教授、秩父 重英 教授は、浜松ホトニクス株式会社の池村賢一郎氏と協力し、全方位フォトルミネセンス(ODPL)法*2を用いて、極低温下における窒化ガリウム結晶の絶対発光効率計測*3に成功しました。
¬本研究は、従来手法では測定できなかった極低温下における発光効率の絶対測定を可能とし、GaNの発光効率を低下させる要因を明らかにするものです。
本成果は応用物理学会と日本物理学会との協同内部組織である物理系学術誌刊行センター (PCPAP)の科学誌Applied Physics Express誌にて9月11日にオンライン公開されました。
本研究の一部は、文科省の「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」およびキヤノン財団 研究助成プログラム「新産業を生む科学技術」、新学術領域研究「特異構造の結晶科学」の助成を受けています。
※ Applied Physics Express (APEX) “Spotlights” 論文に選ばれました。
プレスリリース本文(PDF)

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【参考画像】
(左) 極低温下にて結晶試料の発光量子効率を計測装置の外観
(右)内部量子効率(IQE)と、最低温度(約-261℃)にて100%と仮定したときの発光強度比(Rq)

詳細な説明

1.背景
価値観の多様化や経済格差の鮮明化など、先を見通すことが困難になりつつある現代において、持続可能な社会を実現して安心・安全な生活環境を構築することは、多くの人が願うところであると考えられます。このためには、限りあるエネルギー資源の高効率な利活用技術の開発が一つの方策と言えます。例えば、鉄道や電気自動車のような電力を強い動力に変換して利用する社会インフラ応用では、高耐圧かつ低損失にて電流の整流や電圧変換を行うダイオードやトランジスタといった電子デバイスが重要です。また、照明や通信、太陽光発電などの光応用分野においては、電気エネルギーを光エネルギーに変換するLEDや半導体レーザ、また逆に、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池のような光デバイスの高効率化が不可欠です。これら半導体デバイスは、用途に応じて様々な材料を用いて製造されますが、なかでも窒化ガリウム(GaN)は、高性能な電子デバイスや光デバイスに適する材料の一つとして注目され、国内外における各種デバイスの開発競争が激化しています。
GaNに基づく高耐圧トランジスタや高出力LEDの性能を支配する要因には不純物や原子空孔欠陥*4が挙げられます。不純物や原子空孔欠陥の中には、特有のエネルギー準位を形成することにより、光デバイスの発光効率を低下させるものがあります。また結晶に強い電界が印加されると、このような準位は電子の発生源として働くため、トランジスタがOFFの状態でも電流が流れてしまう「電流リーク」が発生します。さらにこのような不純物や原子空孔欠陥は、極めて微量であっても結晶の発光効率を低下させるため、高感度かつ高精度な検出手法が望まれています。
これまで小島准教授らは、半導体結晶の高精度な発光効率計測法(ODPL法)を応用することにより、積分球*5を核とする分光技術を駆使した、半導体ウェハの高速・高感度検査手法を確立してきました。本研究は、従来手法では測定できなかった極低温下における発光効率の絶対測定を可能とし、GaNの発光効率を低下させる要因を明らかにするものです。

2.研究手法と成果
本研究にて着目しているGaNは直接遷移型半導体*6と呼ばれ、外部から励起を受けると特有の光を放出します(例えば、GaNにInNを混ぜたInGaNは青色LEDの発光層に利用されています)。この時、結晶欠陥の少ない結晶ほど強く発光するため、発光量もしくは発光効率を指標とすることによって結晶の品質管理が可能となります。光計測は一般に瞬時かつ感度が高いという利点がありますが、一方で計測者の技量によってその強度が簡単に揺らぐため、再現性に乏しいことが知られています。このため小島准教授らは、積分球と呼ばれる装置内に試料を配置して、結晶から放出された光を全方位に渡って集めることで発光量や効率を絶対測定する方法に着目し、評価技術の改善に取り組んできました。
本研究では従来手法を改善し、結晶を冷却しつつも積分球が熱的に分離できる温度可変ODPL装置を新しく設計・構築(参考画像(左)参照。装置作製は東北大学 多元物質科学研究所 機械工場による)し、絶対零度に近い極低温(約-261℃)下において、GaN結晶の発光効率の計測に成功しました。従来、極低温では発光を阻害する要因(結晶欠陥や非発光性の不純物など)の働きが抑えられ、発光効率はほぼ100%になると考えられてきましたが、実際には必ずしも100%にならないことが明らかとなりました。また、発光効率と発光強度の温度に対する依存性も異なることが明らかとなり、結晶の発光を支配する物理現象を、より正確に評価するために必要な測定手法が開発されたと言えます。
本研究成果は、ごく微量の結晶欠陥や不純物がGaN結晶に与える影響を明らかにするものであり、GaNウェハ上に作製されるパワートランジスタやLED、半導体レーザ、太陽電池など、様々な半導体デバイスの開発・製造を加速させるものと期待されます。

3.今後の展望
本研究で開発した計測法は、直接遷移型半導体であれば無機材料だけでなく有機材料にも直ちに適用が可能です。また、励起光の照射位置を変化させることにより、結晶全面を検査することも可能になると考えられます。

論文情報:
Temperature dependence of internal quantum efficiency of radiation for the near-band-edge emission of GaN crystals quantified by omnidirectional photoluminescence spectroscopy
K. Kojima, K. Ikemura, and S. F. Chichibu
Applied Physics Express
DOI: 10.35848/1882-0786/abb788

用語解説

*1. 半導体レーザ
光通信やCD・DVDなどの光メディアの情報読み込み・書き込みなどに利用される、指向性の高いレーザ光を放出する半導体光デバイスのこと。
*2. 全方位フォトルミネセンス(ODPL)法
積分球を使った分光法の一つ。基礎吸収端エネルギー以上の光の放出方向が決まっていることを利用し、結晶の発光効率を再現性良く測定できる。
*3. 絶対発光効率計測
発光効率とは、対象となる発光材料に(本研究では励起レーザによって)入力したエネルギーのうち、発光に利用される割合のこと。また、絶対計測とは標準試料との比較無しに、物理量を計測すること。
*4. 原子空孔欠陥
結晶を構成する原子が本来存在する位置に原子が存在せず空虚となっている欠陥。結晶の周期性は乱さないが、周囲の電気的なバランスが崩れており、結晶の特性を大きく変化させる欠陥。
*5.積分球
内壁が硫酸バリウムやスペクトラロンといった拡散反射率の極めて高い(つまり、真っ白な)材料にて覆われた球状の装置。硫酸バリウムは、胃のレントゲンで造影剤としても用いられる。
*6. 直接遷移型半導体
光を強く放出し、かつ、基礎吸収端エネルギーよりも大きなエネルギーの光を強く吸収する性質を持つ半導体のこと。

関連リンク:
量子光エレクトロニクス研究分野(秩父研究室)
東北大学ウェブサイト
Applied Physics Express (APEX)[SPOTLIGHTS]

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 小島 一信(こじま かずのぶ)
教 授 秩父 重英(ちちぶ しげふさ)
電話: 022-217-5363
E-mail: kkojima*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)