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プレスリリース
ヘテロ原子設計COF膜が切り拓く新技術 ―高効率CO2分離を実現する次世代混合マトリックス膜―

【発表のポイント】

  • ヘテロ原子(酸素・硫黄)を精密に組み込んだ共有結合性有機構造体(COF)(注1)を開発し、混合マトリックス膜(MMM)(注2)に応用しました。
  • 酸素含有COF「TUS-621」を高分子(Pebax)膜中に導入することで、CO2/CH4およびCO2/H2分離において、従来膜性能の指標であるロベソン上限(Robeson upper bound)(注3)を超える高性能を達成しました。
  • 理論計算により、酸素豊富な細孔環境がCO2との強い相互作用を生み出し、選択的CO₂輸送を促進していることを明らかにしました。

 

【概要】
二酸化炭素(CO2)の高効率分離は、天然ガス精製、水素製造、カーボンマネジメントなど、エネルギー・環境技術の根幹を支える重要課題です。しかし、従来の高分子膜では、「透過性」と「選択性」の間にトレードオフが存在し、両者を同時に向上させることは極めて困難とされてきました。

東北大学多元物質科学研究所の根岸 雄一 教授、Das Saikat 講師らの研究グループは、ヘテロ原子設計に基づく二次元π共役共有結合性有機構造体(COF)「TUS-621」および「TUS-622」を開発し、これらを高分子(Pebax)膜中に均一分散させた混合マトリックス膜(MMM)を作製しました。

特に酸素含有COFであるTUS-621を導入したTUS-621/Pebax-10%膜は、混合ガス条件下においてCO2透過係数433 Barrer、CO2/CH4選択性55.3を達成し、2008年のロベソン上限(Robeson upper bound)を超える優れた分離性能を示しました。また、CO2/H2分離においても高い透過性と選択性を同時に実現しました。

本研究成果は、細孔内ヘテロ原子化学を精密制御することで、分子レベルの設計を膜レベルのCO2分離性能へ直接反映できることを示したものであり、次世代高効率CO₂分離膜設計の新たな指針となることが期待されます。

本研究成果は、2026年5月21日公開の学術誌Journal of the American Chemical Society に掲載されました。

【詳細な説明】
研究の背景と経緯

二酸化炭素(CO2)の分離・回収技術は、天然ガス精製、水素製造、燃料電池、カーボンニュートラル社会の実現に不可欠です。従来のアミン吸収法や深冷分離法は大規模設備と高エネルギー消費を必要とするため、より省エネルギー型の膜分離技術が期待されています。しかし、高分子膜には「透過性が高いほど選択性が低下する」という本質的な制約が存在し、ロベソン上限(Robeson upper bound)として知られる性能限界が長年知られてきました。

共有結合性有機構造体(COF)は、規則的な細孔構造、高比表面積、優れた化学安定性を有する結晶性多孔材料であり、分子レベルで細孔環境を設計できる点が大きな特徴です。しかし、これまでCO2分離用COF膜では、細孔表面のヘテロ原子化学がガス輸送特性へ与える影響を系統的に明らかにした例は限られていました。

研究の内容

本研究では、D3h対称性を有し六つのアルデヒド基を有するHFPTPという有機分子と、二つのアミン基を有する酸素含有有機分子ODAおよび硫黄含有有機分子ASDを用いることで、同じ幾何構造を持ちながらも細孔の性質が異なる二種類のπ共役二次元COF(TUS-621、TUS-622)を設計・合成しました(図1)。

TUS-621では、酸素原子が形成する極性細孔環境によりCO₂との四重極–双極子相互作用が強化され、CO2吸着が著しく向上しました。一方、硫黄含有TUS-622では、より弱い局所静電相互作用が観測されました。

これらのCOFを高分子膜中に導入して混合マトリックス膜を形成した結果、TUS-621/Pebax-10%膜はCO2/CH4分離においてCO₂透過係数433 Barrer、選択性55.3を達成し、ロベソン上限を超える性能を示しました(図2、図3)。さらに、2–10 barおよび25–100 °Cの広範な条件下でも高い分離性能を維持し、30日間連続使用後も性能劣化がほとんど見られない優れた耐久性を示しました。

密度汎関数理論(DFT)計算より、TUS-621の酸素サイトがCO2とより強い電子的相互作用を形成し、CO2吸着および輸送を促進していることが明らかになりました。

図1. D3h対称性を有する六座の有機分子HFPTPと二座の有機分子ODAおよびASDの網目構造化により、π共役二次元COF(TUS-621、TUS-622)構造が形成される模式図。

 

図2. 2 bar、25 °C条件下における等モルCO2/CH4(a)およびCO2/H2(b)混合ガスに対するCOF–Pebax混合マトリックス膜の混合ガス透過性能。COFの導入により、CO2透過性および選択性の向上が確認された。

図3. (a) CO2/CH4分離におけるロベソン上限プロット(2008年)。TUS-621/Pebax-10%およびTUS-622/Pebax-10%の性能を、文献で報告されている代表的な混合マトリックス膜と比較した。(b) CO2/H2分離におけるロベソン上限プロット(2008年)。同様に、文献で報告されている代表的な混合マトリックス膜と比較した。

 

今後の展開

本研究は、COFの「細孔化学」を精密制御することで、従来の膜分離限界を超える新しい材料設計戦略を示した成果です。

今後は、さらなるヘテロ原子設計や高次構造制御を通じて、天然ガス精製、水素精製、CO2回収など幅広い産業分野への応用展開が期待されます。

また、本研究で示された「分子レベルの細孔化学設計」という概念は、次世代ガス分離膜だけでなく、触媒、吸着、エネルギー変換材料など多様な多孔性材料研究へ発展する可能性があります。

謝辞

環境再生保全機構 環境研究総合推進費環境問題対応型研究(課題番号:JPMEERF20253003)、日本学術振興会 科学研究費助成事業(JSPS KAKENHI)(課題番号:JP23H00289、JP23KK0098)、中部電力原子力安全技術研究所、ならびにFUSO革新的技術基金の支援を受けて実施しました。

用語説明

注1. 共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Framework):COFは、有機分子同士が強固な共有結合によって周期的に連結された結晶性多孔材料であり、規則的な細孔構造、高い比表面積、優れた化学安定性、および高い設計自由度を特徴とする。分子レベルで細孔サイズや細孔表面化学を精密に制御できるため、ガス分離、触媒、エネルギー貯蔵、吸着など多様な機能材料として注目されている。

注2.混合マトリックス膜(MMM: Mixed Matrix Membrane):混合マトリックス膜(MMM)は、高分子膜中に多孔性材料を均一分散させた複合膜であり、高分子の加工性・機械的柔軟性と、多孔性材料の高選択的分離性能を融合できることが特徴である。本研究では、Pebaxという高分子によって作製された高分子膜にCOFを均一分散させた。

注3.ロベソン上限(Robeson upper bound):ロベソン上限(Robeson upper bound)とは、高分子膜における「ガス透過性」と「ガス選択性」の間に存在する経験的な性能限界を示した指標である。一般に、透過性を高めると選択性が低下し、逆に選択性を高めると透過性が低下するというトレードオフ関係が知られている。Robeson upper boundを超えることは、従来膜性能を超越した革新的ガス分離材料であることを意味する。

 

論文情報

“Heteroatom-Engineered Covalent Organic Frameworks Break the CO2 Separation Trade-Off in Mixed Matrix Membranes”
著者:入江 司1、Liting Yu2、Sourav Ghosh3、野崎 未佳1、佐々木 Kohki1、川脇 徳久1、Ranjit Thapa3,4*、Zhao Yu5*、Das Saikat1*、Zixi Kang2,6*、根岸 雄一1*
(1. 東北大学多元物質科学研究所、2. 中国石油大学(華東)材料科学工学学院・山東省智能エネルギー材料重点実験室、3. SRM University–AP 物理学科、4. SRM University–AP 計算・統合科学センター、5. 浙江師範大学 先進フッ素含有材料研究所、6. 中国石油大学(華東)重質油処理国家重点実験室)
†これらの著者は本研究に同等の貢献をしました。
*責任著者:SRM University–AP Ranjit Thapa
浙江師範大学 教授 Zhao Yu
東北大学 多元物質科学研究所 講師 Das Saikat
中国石油大学(華東) Zixi Kang
東北大学 多元物質科学研究所 教授 根岸 雄一

Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.5c23169

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL:022-217-5604
Email:yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所
講師 Das Saikat
TEL: 022-217-5606
Email: das.saikat.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)