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プレスリリース
強力な力を生じる渦キャビテーションの構造を解明 発生メカニズム解明と用途拡大に期待|量子フロンティア計測研究分野

【発表のポイント】

  • X線の放射光(注1とXFEL(注2を光源とした高速度観察により、液体が高速で流れる際に圧力が低下して気体(泡)に相変化する現象「キャビテーション(注3」の有効利用に重要な渦キャビテーションの構造を世界で初めて可視化することに成功しました。
  • 渦キャビテーションを構成する気泡は、球状ではなく、角張った形状であることを明らかにしました。
  • 本研究は日本、ドイツ等との国際共同研究として、広い視野が確保できる大型放射光施設SPring-8(注4と、世界最高速度のEuropean XFEL(注5で実施しました。

【概要】
化学プロセスや金属材料の高強度化にキャビテーションを活用するためには、細長い渦キャビテーション(図1)の構造を解明する必要があります。

東北大学大学院工学研究科の祖山均教授と国際放射光イノベーション・スマート研究センター(多元物質科学研究所 兼務)の矢代航教授らは、空間分解能と時間分解能に優れたX線高速度観察により、渦キャビテーションの構造を可視化観察することに世界で初めて成功しました。従来、渦キャビテーションは、多数の微小球状気泡で構成されていると考えられていましたが、実際は比較的大きな角張った形状の気泡で構成されていることがわかりました(図2)。また、「渦」の重要なパラメータである、渦が回転しているときの接線速度を求めることに成功しました。今後、発生メカニズムの解明や新たな数値シミュレーション法の開発などに寄与することが期待されます。

本成果は2023年12月3日に、超音波化学分野の専門誌 Ultrasonics Sonochemistry に掲載されました。

図1.渦キャビテーション(可視光)

図2.渦キャビテーション(放射光)

 

【詳細な説明】

研究の背景

キャビテーションは、その圧潰(あっかい)時に、局所的な高温・高圧場や、金属も変形させるような局所的な衝撃力を生じるので、化学プロセス(参考文献1)や金属の強度を向上させる機械的表面改質(参考文献2)、水処理、口腔洗浄(参考文献3)などに有効利用できます。これまでキャビテーションで発生する気泡に関する数多くの研究が行われてきましたが、有用な気泡は圧潰衝撃エネルギーが大きい細長い渦キャビテーション(図1)であり(参考文献4)、従来の超音波で発生させるキャビテーションよりも20倍以上効率が良いこともわかっています(参考文献2)。キャビテーションの圧潰衝撃エネルギーは、気泡の形状や密度に強く依存するので、渦キャビテーションの構造を明らかにする必要があります。しかし渦キャビテーションはサブミリオーダの大きさで、かつ、ミリ秒オーダで変動するために、その詳細構造の観察は容易でなく、これまで明確にすることができませんでした。

今回の取り組み

本研究は、祖山教授らが開発したベンチュリ管(注6を使って渦キャビテーションを発生させ、かつX線透過性の良い観察部を有する装置を用いて、矢代教授らが開発した空間分解能と時間分解能に優れたX線高速度観察により、日本(東北大学, 高輝度光科学研究センター)、ドイツ(European XFEL, DESY)、イギリス(University of Oxford, Diamond light source)、スウェーデン(Lund University) 、スロバキア(P. J. Šafárik University)、オーストラリア(La Trobe University)などとの国際共同研究(参考文献5)として、広い視野を確保できるSPring-8のBL28B2と、世界最速886ナノ秒の最高速度European XFELのSPB-SFXで実施し、両方のメリットを活かして渦キャビテーションの構造と挙動を解明しました。その結果、従来は、多数の直径数十μmの球状気泡で構成されていると考えられていた渦キャビテーションが、実際は数百μm~1mm程度の大きな角張った形状の気泡で構成されていることを世界で初めて発見しました(図2)。また、「渦」の重要なパラメータである、渦が回転しているときの接線速度を渦キャビテーション界面の移動速度から求めることに成功しました(図3)。

今後の展開

渦キャビテーションの発生数のうち、数百個に一つが強力な圧潰衝撃力を生じることがわかっています(参考文献2)。X線による可視化観察によりこの原因がわかれば、大きな圧潰衝撃力を生じる渦キャビテーションの発生率を増やして、化学プロセスや機械的表面改質の効率を100倍以上向上できる可能性があります。また、気泡の圧潰衝撃力は、気泡形状や大きさに強く依存しているので、本研究成果を基に新たに数値シミュレーション法を開発するなど、学術的な波及効果を期待できます。

図3.渦キャビテーションの接線速度

関連動画:https://web.tohoku.ac.jp/ism/Fig9_10.mp4
渦キャビテーションを放射光と可視光を光源に用いて同時にスーパースローカメラで観察した様子

【謝辞】

本研究は、JST CREST(JPMJCR1765)、JSPS科研費JP21H04530、JP22KK0050、JP23H01292、HORIZON EIC-2021-PATHFINDEROPEN、101046448の助成を受けたものです。

【用語説明】

注1.放射光:直進する電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、磁石などでその進行方向を曲げた際に生じる強力な電磁波 (光)。

注2.XFEL:X-ray free electron laserの略。X線領域の自由電子レーザー。

注3.キャビテーション:液体が高速で流れる際に、圧力が低下して気体(泡)に相変化する現象。流速の低下により気体から液体に戻る気泡の圧潰時に衝撃力や高温・高圧場を発生。乱れた流れ場に生じる渦中に発生する渦キャビテーションの場合、複数の気泡から構成されているために、気泡の相互干渉により圧潰衝撃力が増大すると考えられている。ラジカル反応を生じさせるなどの化学プロセスや、固体材料の表面をたたきつけ金属を高強度化することなどに活用される。

注4.SPring-8:兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設で、利用者支援等は高輝度光科学研究センターが行っている。SPring-8の名前はSuper Photon ring-8 GeV(ギガ電子ボルト)に由来。電磁波(放射光)を用いて幅広い研究が行われている。

注5.European XFEL:ドイツ・ハンブルグのドイツ電子シンクロトロン研究所(DESY)にあるX線自由電子レーザー施設。自由電子レーザーの原理により、高輝度X線を発生させて、原子・分子・細胞などの微細構造の研究が行われている。

注6.ベンチュリ管:単管の一部を絞って流路断面積を小さくし、絞り部の流速を大きくして、圧力を減少させる管。本実験では、絞り部でキャビテーションが発生し、拡大部で圧力が回復するために、キャビテーションが圧潰する。

【参考文献】

  1. Hydrodynamic Cavitation Reactor for Efficient Pretreatment of Lignocellulosic Biomass
    Industrial & Engineering Chemistry Research, 55, (2016), 1866-1871
    https://doi.org/10.1021/acs.iecr.5b04375
  1. A Critical Comparative Review of Cavitation Peening and Other Surface Peening Methods
    Journal of Materials Processing Technology, 305, (2022), 117586
    https://doi.org/10.1016/j.jmatprotec.2022.117586
  1. Removal of Oral Biofilm on an Implant Fixture by a Cavitating Jet
    Implant Dentistry, 26, (2017), 904 – 910
    https://doi.org/10.1097/ID.0000000000000681
  1. Luminescence intensity of vortex cavitation in a Venturi tube changing with cavitation number
    Ultrasonics Sonochemistry, 71, (2021), 105389
  1. MHz-Tomoscopy
    https://tomoscopy.eu/partners/

 

論文情報

“Revealing the Origins of Vortex Cavitation in a Venturi Tube by High Speed X-Ray Imaging”
Hitoshi Soyama*, Xiaoyu Liang, Wataru Yashiro, Kentaro Kajiwara, Eleni Myrto Asimakopoulou, Valerio Bellucci, Sarlota Birnsteinova, Gabriele Giovanetti, Chan Kim, Henry J. Kirkwood, Jayanath C. P. Koliyadu, Romain Letrun, Yuhe Zhang, Jozef Ulicny, Richard Bean, Adrian P. Mancuso, Pablo Villanueva-Perez, Tokushi Sato, Patrik Vagovic, Daniel Eakins, Alexander M. Korsunsky
Ultrasonics Sonochemistry
DOI:10.1016/j.ultsonch.2023.106715

*責任著者:東北大学大学院工学研究科 教授 祖山均

東北大学
東北大学大学院工学研究科
国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)
量子フロンティア計測研究分野(矢代航研究室)

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学大学院工学研究科
教授 祖山均
TEL: 022-795-6891
Email: soyama*mm.mech.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学国際放射光イノベーション・スマート研究センター
(多元物質科学研究所 兼務)
教授 矢代航
TEL: 022-217-5184
Email: wataru.yashiro.a2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学大学院工学研究科情報広報室
担当 沼澤みどり
TEL: 022-795-5898
Email: eng-pr*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)