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所長あいさつ

所長あいさつ

こんにちは、新しく所長に就任しました福山博之です。この場をお借りしてご挨拶申し上げます。

物質・材料系で国内最大規模の大学附置研である東北大学多元物質科学研究所(多元研)は、英語名Institute of Multidisciplinary Research for Advanced Materials (IMRAM)と称します。マルチマテリアルではなく、マルチ計測でもなく、マルチディシプリンという言葉に多元研の本質的な意味があります。研究者はディシプリン(研究の拠り所となる学問分野)とそのディシプリンを利用して活動する領域を持っています。そのような物質・材料に関する多様なディシプリンを有するプロの研究者集団が多元研です。ちなみに私は、化学熱力学というディシプリンで、金属製錬や材料プロセス領域で活動しています。さて、この多様なディシプリンを有する多元研が目指すミッションについて、私の考えを述べてみたいと思います。

多元研の原点である三つの研究所は、1940年代前半にそれぞれ以下のミッションのもとに設置されました。すなわち、選鉱製錬研究所は、鉄鋼等の重要金属資源の精錬に関する研究を行う、科学計測研究所は、精密測定装置の自給体制等の必要性に応える、また、非水溶液化学研究所は、非水溶液化学(液化ガス等)の重要性の増大に対応する、というシンプルなものですが、その当時の社会の要請を反映した附置研の使命が明確に謳われています。一方、現在の私たちがおかれた状況を見ると、持続可能な社会を構築するため、地球環境保全、カーボンニュートラルや省エネルギーの観点に加え、大震災や新型感染症の経験から、自然災害や疾病への対策が大きな社会課題となっています。

私たち多元研は、上記の三つの研究所時代から80年を超える年月を経て技術の遺伝子を繋ぎ、発展、融合させて改組を経て、「物質・材料に関わる困難な社会課題に対し、パラダイムシフトとなる新たな方向性を定め、多様なディシプリンを融合して解決を図る」というミッションを有しているように思います。例えば、1980年代に前身の選鉱製錬研究所の南條道夫教授らによって「都市鉱山」というリサイクルの概念が提唱されましたが、この概念は、今や携帯電話、家電、PC等の廃電子基板から有価金属を抽出して再利用するというビジネスモデルとして定着しています。資源処理から金属製錬に至る知識や経験は学術として体系化され、資源戦略、脱炭素製鉄、そして原子力技術の安全化と廃炉への取り組み等に活かされています。これは、多元研の誇る多様なディシプリンとそれを応用展開するフィールドの一例です。

さて、令和6年4月から、次世代放射光施設(ナノテラス)が運用開始となりました。多元研は、放射光施設を誘致する段階から基幹部局として積極的に取り組み、放射光施設を利活用する教育・研究組織である国際放射光イノベーション・スマート研究センター(SRIS)の設立にも大きく貢献してきました。また、クライオ電子顕微鏡を導入し、ソフトマテリアル(有機・高分子材料、生体材料)の評価が飛躍的に高度化されました。これら最新の施設や装置は、多元研の材料研究を推進するだけでなく、東北の地にサイエンスパークが出現し、わが国の産学連携の一大拠点となって世界から人が集い、日々新たな価値が創造されるエコシステムの中核となることが期待されています。

多元研は、「マテリアル」「プロセス」「計測」の3つの研究軸がバランスよく融合した総合物質・材料研究所であり、社会インフラに欠かせない基盤材料から、持続可能な未来社会を創造する先端材料までカバーし、プロセスと計測技術が融合して社会実装に向けた取り組みを行っています。これからも最先端の技術に磨きをかけ、高度な学識と技術を有する人材を輩出すべく、全所挙げて取り組んで参りますので、皆様のご理解とご支援のほどよろしくお願いいたします。

2024年4月 多元物質科学研究所長 福山 博之