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プレスリリース
真珠の輝きと鳥の羽の色彩を融合 非周期構造から生まれる新しい構造色 ─多重バイオミメティック構造色を化粧品、インク、プラスチックへ展開 ─

国立大学法人東北大学
国立大学法人大阪大学

【多元研研究者情報】 環境無機材料科学研究分野 教授 殷澍

【発表のポイント】

  • 真珠と鳥の羽に見られる構造的特徴を無機材料中で融合し、新しい構造色(注1)材料の構築に成功するとともに、多重バイオミメティック(注2)な材料設計戦略を、世界で初めて提案しました。
  • 多重バイオミメティック構造色戦略は、異なる自然界の構造色発現機構の協調的な設計を実現し、構造色材料の構築に新たな設計指針を提示します。
  • 表面の色吸収材料の種類を変えるだけで色彩を自在に制御でき、構造色特有の動的なパール視覚効果も発揮します。
  • 開発した人工構造色材料は、低コストで、化粧品のほか、プラスチック装飾、コーティング、その他の光学機能材料への幅広い応用が期待されます。

【概要】

構造色は、視覚認識、美的表現、光学機能において重要な役割を果たしており、化粧品、コーティング、プラスチック、ディスプレイなど、さまざまな分野で注目を集めています。東北大学多元物質科学研究所の殷澍(イン シュウ)教授(同大 材料科学高等研究所(WPI-AIMR)連携教授 兼務)が率いる研究チームは、大阪大学産業科学研究所の関野徹教授、国立台北科技大学の邱徳威教授、北京科技大学の曹文斌教授、大東化成工業株式会社の田中巧常務取締役らとの共同研究により、多重バイオミメティック構造色材料の合成、性能解析および応用に関する研究で大きな進展を遂げました。研究チームは、真珠の多層構造と鳥の羽に含まれるメラニンの光吸収特性を融合することで、様々な色調制御が可能な新しい構造色材料の構築に成功し、多重バイオミメティックな材料設計戦略を実現しました。さらに、厳密な周期構造に依存することなく鮮やかな発色を低コストで実現できることから、従来の構造色材料とは異なる新たな設計指針を示しました。

本研究成果は、2026年9月22日(現地時間)に科学誌Advanced Materialsにオンラインで公開されました。また、2026年08月21日付けで特許を出願しています(特願2026-191786)。

【詳細な説明】

研究の背景

自然界には、真珠、鳥類の羽毛、昆虫の翅、オパールなど、微細構造と光の相互作用によって鮮やかな色を示す構造色が広く存在します。これらの構造色は、回折、干渉、散乱などの光学現象に由来し、色素に依存しない発色機構として、環境調和型着色材料への応用が期待されます。

人工構造色材料としては、フォトニック結晶(PC)やアモルファスフォトニック結晶(APC)などが広く研究されていますが、従来の一次元フォトニック結晶では、屈折率、層厚、周期性を精密に制御する必要があり、作製プロセスが複雑でした。

一方、真珠は厳密な周期性を持たない層状構造による多重反射・干渉によって柔らかな光沢と奥行きのある発色を、鳥類の羽毛では、メラニンによる背景光の選択的吸収によって構造色の彩度が高められます。

本研究では、真珠の多層干渉構造と鳥類羽毛の選択的吸収機構を融合し、厳密な周期構造を必要としない、低コストで、鮮やかかつ動的な新しいバイオミメティック構造色材料の構築を目指しました。

今回の取り組み

真珠では、多層構造による多重反射と部分的な光干渉によって、真珠特有の白色光沢が生じます。一方、カケス(注3)の羽では、吸収材料が非目的波長を抑制し、特定波長の反射を強めることで、鮮やかで純度の高い青色を生み出します。我々の研究チームは、強いパール効果を有し、新しい非虹色構造色材料の創製を、多層構造材料と光吸収材料との複合化を行うことで実現しました(図1)。

図1. (a) 多重バイオミメティック構造色メカニズムの模式図、(b) 強いパール効果を有する粉体試料を撹拌している水中で観察した画像。

本研究チームは、真珠の層状構造に着想し、Ce2(CO3)3·8H2O を用いて非周期的な多層構造材料を合成しました(図2a)。この材料では、多層界面での多重反射と光干渉により、柔らかく広帯域な構造色が生じます。光学顕微鏡では、複数の干渉色が観察され、それらが重なり合うことで全体として白色の真珠光沢を示します(図2b)。表面に FeOOH 吸収材を沈着させること(図2c,d)で、不要な波長の反射を抑制し、構造色のコントラストを向上させました(図2e)。その結果、真珠のような強いパール光沢を維持しながら、より鮮明で識別しやすい色変化を実現し(図1b)、観察角度によって試料の色彩が変化することも確認されました(図3)。これらの試料をPF-Lとし、吸収材料の担持量に基づきPF-L0~PF-L7と命名しました。いずれの試料も比較的均一な板状形態を示しました(図4)。

図2. (a) PF-L0試料の断面SEM像、(b) 干渉を示す光学顕微鏡像: PF-L0 (c) 表面に担持された吸収材料を示すPF-L5試料のTEM像、(d) PF-L5基板上の吸収材(FeOOH)のHRTEM像および対応するフーリエ変換パターン(Fe2O3の格子面を黄色で示す)、(e) 干渉を示す光学顕微鏡像: PF-L5。

図3.異なる入射角におけるPF-Fe試料のデジタル写真と色(色の角度依存性)

図4.Ce2(CO3)3·8H2O/FeOOHの画像解析による粒子径分布結果。

 

提案した光学設計の妥当性を検証するため、Ce2(CO3)3·8H2O 層と空気層が交互に積層した非周期多層構造化合物をモデルとして伝達行列法(TMM)(注4)によるシミュレーションを行いました。各層の厚さには断面 SEM 像から得られた実測値を用い、実際の構造の乱れを再現した結果、可視光全域にわたる複数の反射が重なり、全体として広帯域の白色反射が生じることが示されました。

また、入射角の増加に伴って反射が短波長側へ移動し、多層干渉が光学応答に寄与していることが確認されました。TMMシミュレーションで得られたスペクトル特性は、光学顕微鏡下で観察されたカラースポットと一致しており、局所的に異なる多層構造が、それぞれ異なる波長で干渉に由来する反射を生じていることを示しています(図5a)。

試料が、焼成前後で類似した光学特性が維持されるのは、非周期的な多層構造が保持されているためです。この構造の乱れを定量的に確認するため、複数の粒子および異なる局所領域について断面SEM観察を行いました(図5c)。さらに、構造の乱れが光学応答に与える影響を調べるため、実測した多層構造を用いてTMMシミュレーションを併用しました。局所的な層厚分布の違いによりスペクトル形状は粒子ごとに異なり、いずれも可視光領域に複数の干渉反射を示しました。これらの反射が重なり合うことで、広帯域の白色反射が生じると考えられます(図5b)。

焼成後、材料はより安定な CeO2/Fe2O3 系へと変化しました。非周期的な多層構造が焼成後も保持され(図6a,b,c)、それに由来する干渉光学特性も維持されました(図6c,e)。その結果、前述のように焼成後の試料でも鮮やかな色彩と構造色特有の動的なパール効果が保たれました(図1b)。焼成後の試料をPF-Cとし、吸収材料の担持量に応じてPF-C0~PF-C7と命名しました。

Ce2(CO3)3·8H2O基板は、空間群Pmn21に属する典型的な層状構造を有し、結晶水が層間に挿入されている構造です。この層間の結晶水は層間隔の維持に寄与し、Ce2(CO3)3·8H2O特有の多層構造の形成に重要な役割を果たしています。さらに、Ce2(CO3)3·8H2Oは結晶成長時に(010)面への顕著な優先配向を示します。この異方的な成長により、板状の結晶単位が積層し、比較的均一なサイズを持つ多層シート構造が形成され、このような層状構造は、多重反射や光干渉を生じさせる構造的基本となります。

UV–Vis–NIRスペクトルから、Ce3+の吸収は主に紫外領域に存在し、吸収材を導入していないPF-L0試料は可視光領域でほとんど吸収を示さず、多層構造による干渉に由来する白色の構造色を呈します。一方、FeOOHを導入すると、Fe³⁺に由来する電荷移動遷移およびd–d遷移によって可視光吸収が生じ、特に青色光が強く吸収されます。その結果、青色の干渉反射が抑制され、赤色成分が相対的に強くなり、試料は徐々に橙黄色を示します。FeOOHの含有量が増加すると、青色光の吸収はさらに強くなり、全体の明るさは低下します。焼成後もCe3+の一部が残存するため、CeO2の吸収端が可視光の青色領域まで広がり、吸収材料を含まない試料はわずかに黄色味を有します。また、FeOOHは焼成によってFe2O3へと変化しますが、Fe³⁺による可視光吸収は維持されるため、構造色の調整効果も保たれます。FeOOHとFe2O3ではFe3+周囲の局所的な結晶場環境がわずかに異なるため、可視光吸収特性にも差が生じ、焼成前後で異なる色調が現れます。

特定の吸収特性を持つ光吸収材を基板表面に沈着させ、多層構造内部で生じる干渉光の一部が選択的に吸収され、様々な異なる色調を得ることができます(図7a)。また、吸収材の種類に対して高い汎用性を持ち、無機材料だけでなく有機材料も利用できます。

開発した多重バイオミメティック構造色材料は、幅広い色域、高い安定性、優れた再現性を有します。同手法により、10色以上のカラフルなパール効果を有する構造色材料を創成でき(図7a)、これらの自作パール顔料のみを用いてカラフルなオウム鳥模様や「Tohoku Univ.」の文字を描くことができました(図7b,c)。また、ポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂マトリックス中に本粉体を約 1wt%の低濃度で分散した場合でも、図7dに示すように、光沢のあるパール顔料粉体はPMMA ポリマーと良好な相溶性を示し、明るく効果的な着色が可能であることが確認されました。併せて、応用可能性の検証として化粧品への展開を試み、関連特許を出願しました(特願2026-191786)。

さらに、CeO2/ Fe2O3系試料はヒトの肌色領域と重なる色調を示し、組成制御による色の制御が可能であり、肌色への調和に加えて、明るさやカバー効果も確認されました(図7e)。様々な色を有するパール効果顔料とその動画は図8に示します。本材料は、化粧品(コスメティックス)やコーティング、プラスチックなどの実用的な新規光学材料としての高い展開ポテンシャルを有しています。

図5.(a)図2aに示した試料の異なる入射角における反射スペクトルのシミュレーション結果。(b) 図2aおよびPF-L0試料(図5c)に示した試料の反射スペクトルのシミュレーション結果。(c) PF-L0試料Ce2(CO3)3·8H2O の側面 SEM 像。

図6.(a) PF-C0試料の断面SEM像、(b) 表面に吸収材が担持されたPF-C5試料のTEM像、(d) 吸収材料(FeOOH)のHRTEM像および対応するフーリエ変換パターン。Fe2O3の格子面を黄色で示す。干渉を示す光学顕微鏡像:(d) PF-C0;(e) PF-C5。

図7.(a) 異なる吸収材を担持したCe2(CO3)3·8H2O系材料のUV–Vis–NIR吸収スペクトル、および水中に分散した試料の動的画像。様々な色を有する自作構造色パール効果粉体を用いて描いた(b)オウム鳥の模様。(c)「Tohoku Univ.」の模様。(d) PMMAに分散した複合材料の写真。(e) CeO2/ Fe2O3系多重バイオミメティック材料を皮膚上に塗布する際のイメージ(皮膚塗布試験協力者:程秋雨特任助教)。

 

図8.様々な色を有するパール効果顔料とその動画

 

今後の展開

本研究で提案した「多重バイオミメティック」構造色設計は、自然界に存在する異なる構造色発現機構を一つの無機材料系に融合することで、構造色材料に新たな設計指針を示すものです。特に、本材料系は厳密な周期構造に依存せず、表面に導入する吸収材の種類や量を調整するだけで優れたパール効果と色彩を制御できるため、従来の構造色材料と比べて低コストと高い設計自由度を有します。

学術的には、この多重バイオミメティック構造色戦略により、構造色の発現および制御メカニズムへの理解がさらに深まり、新しいバイオミメティック光学材料の設計指針を確立しました。

実用面では、本材料は鮮やかな色彩と構造色特有の動的な視覚効果を維持しながら、幅広い色調制御が可能です。今後、化粧品、コーティング、インク、プラスチックなどへの幅広い応用が期待されます。さらに、吸収材や基板材料の種類を拡張することで、より豊かな色彩表現と多様な機能を備えた新しい光学材料への発展が期待されます。

【謝辞】

本研究の一部はコーセーコスメトロジー研究財団(J-25-4、コーセー小林記念財団)の研究助成及び「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」(文部科学省)の支援を受けたものです。また、掲載論文は『東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。

【用語説明】

注1.構造色:光が、その波長と同程度の大きさを持つ微細・ナノ構造に入射した際に、光の干渉、回折、散乱などによって生じる色。

注2.多重バイオミメティック:自然界の異なる生物や構造から着想を得た複数の機能や仕組みを、一つの材料設計に組み合わせる考え方。

注3.カケス:スズメ目カラス科に分類される鳥で、カラスの仲間でありながら、非常にカラフルな羽を持つことで知られている。

注4.伝達行列法(Transfer Matrix Method:TMM):多層構造中における光の反射・透過特性を計算するための光学シミュレーション手法。

【論文情報】

“Multi-Biomimetic Structural Colors Inspired by Pearls and Bird Feathers”
Zhiwei Wang, Qiuyu Cheng, Qiuyu Jin, Fu Tang, Wenbin Cao, Ayahisa Okawa, Takuya Hasegawa, Takehiro Goto, Natsumi Yamaguchi, Takumi Tanaka, Te-Wei Chiu, Tohru Sekino, Shu Yin*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 殷澍(同大 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 連携教授 兼務)
Advanced Materials
DOI:10.1002/adma.75074

【研究チーム】

東北大学多元物質科学研究所:殷 澍 教授(同大 材料科学高等研究所(WPI-AIMR) 連携教授 兼務)、王 志偉 大学院生、金 秋宇 大学院生、程 秋雨 特任助教、長谷川 拓哉 講師、大川 采久 助教
大阪大学産業科学研究所:関野 徹 教授
北京科技大学 材料科学・工学学院:曹 文斌 教授、唐 馥 教授
国立台北科技大学 材料及資源工程系:邱 徳威 教授
大東化成工業株式会社 研究開発部:田中 巧 常務取締役、後藤 武弘 研究開発部長、山口 菜摘 研究員

 

【特許情報】

出願番号:特願2026-191786
出願日:R8年8月21日(2026.8.21)
発明の名称:光輝性粉体、及び光輝性焼成粉体、並びにこれらを配合した化粧料
発明者:山口 菜摘, 後藤 武弘, 殷 澍, 王 志偉, 程 秋雨

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 殷 澍(イン シュウ)
TEL: 022-215-5597
Email: yin.shu.b5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-215-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

大阪大学産業科学研究所 広報室
TEL: 06-6879-8524
Email: press*sanken.osaka-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)