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プレスリリース
DNAでナノ粒子間の“隙間”を制御 微量分子を見逃しにくくする高感度分析結晶材料を開発!~細胞や化学反応の検出・分析などへの応用に期待~

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【多元研研究者情報】光機能材料化学研究分野 准教授 押切友也

【本研究のポイント】

  • ラマン分光法は分子を識別できる有用な分析法であるが、微量分子では信号が弱く、検出が難しい。表面増強ラマン散乱(SERS)注1)はこの信号を強められる一方、強い信号が生じる「ホットスポット」の位置や数を制御しにくく、安定した検出が難しいという課題があった。
  • 本研究では、DNAを“設計図”として金ナノ粒子を規則正しく配列させ、さらに銀シェル形成とDNAの収縮を組み合わせることで、粒子間にナノギャップを多数・周期的に持つDNA修飾コアシェルナノ粒子結晶を作製した。
  • この結晶の中には、分子の信号を強くする場所(ホットスポット)が立体的に数多く形成されるため、水などの液体に溶けたごく少量の分子でも見つけやすくなる。
  • 実際に従来法では検出が難しかった低濃度分子を液体中で検出できることを確認した。
  • 将来的には、細胞内生命現象の観察や化学反応中の溶液分析など、従来測定が難しかった環境での高感度・ラベルフリー分析(ラベル分子不要の方法)への応用が期待される。

【研究概要】

名古屋大学未来材料・システム研究所の田川 美穂 教授、李 旭(り きょく)助教、桒原 真人 教授、小川 智史 准教授、同大学大学院工学研究科の池内 泰士 博士前期課程学生(研究当時)、小澤 咲季 博士後期課程学生の研究グループは、広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所の新家 寛正 特任准教授、東北大学 多元物質科学研究所の押切 友也 准教授、九州大学 大学院理学研究院の平松 光太郎 教授との共同研究で、周期的なナノギャップ構造を持つDNA修飾コアシェルナノ粒子結晶の開発と、結晶で生じる表面増強ラマン散乱(SERS)を利用した微量分子の検出を達成しました。

ラマン分光法は、分子が持つ固有の振動を読み取ることで物質の種類を識別できますが、ごく少量の分子では信号が弱く、検出が難しいという課題がありました。そこで研究グループは、DNAを“設計図”のように利用して金ナノ粒子を規則正しく並べ、さらに粒子同士の間に非常に小さな隙間(ナノギャップ)を多数作り込んだ結晶材料を開発しました。この隙間では分子の信号が強くなるため、これまで見つけることが難しかった微量の分子でも検出しやすくなります。実際に、この結晶材料を用いることで、液体中に含まれるごく少量の分子を高感度に検出できることを確認しました。

今回開発した材料は、ナノメートル(1ミリメートルの100万分の1)という極めて小さなスケールで構造を精密に制御できることが特徴です。将来的には、細胞の中で起こる生命現象の観察や、化学反応の変化を詳しく調べる技術など、これまで分析が難しかった環境での高感度な分析への応用が期待されます。

本研究成果は、2026年7月14日(日本時間)付で米科学雑誌『ACS Applied Optical Materials』に掲載されました。

【研究背景と内容】

図1 a)DNAが金ナノ粒子を架橋する様子 b)DNA修飾コアシェルナノ粒子結晶の作製手法の概略 c)SERSセンシングの概念図

図1は、DNAが金ナノ粒子を架橋する様子、DNA修飾コアシェルナノ粒子結晶(DNA-Au@AgNP結晶)の作製手法、そして結晶を用いたSERSセンシングの概念図です。従来のSERS材料では、ラマン信号を強くする「ホットスポット」が材料中に不均一に存在することが多く、測定する場所によって信号の強さが変わりやすいという課題がありました。また、検出対象分子が偶然ホットスポットに入らなければ十分な信号が得られないため、微量分子の安定検出には限界がありました。

そこで本研究では、DNAを“設計図”として用いて金ナノ粒子を規則正しく配列させ、結晶中に信号増強に有効なナノギャップを多数・周期的に作り込む材料設計を採用しました。これにより、分子がホットスポットに取り込まれる機会を増やし、微量分子を検出しやすくすることを目指しました。

まず結晶の作製過程では、DNAで被覆された金ナノ粒子とリンカーDNAを混合し、昇温・徐冷させます。これによりDNAが金ナノ粒子同士を架橋し配列させ、高い構造周期性を持ったDNA修飾金ナノ粒子結晶(DNA-AuNP結晶)を作製することができました。しかしながら、この状態で、一般にDNA-AuNP結晶の粒子表面間距離は約17 nmと広く、SERSにはナノギャップの狭さが不十分です。この課題を解決するため、結晶に対し均一なシェル構造を形成できるよう反応条件を調整し、銀の還元反応を施すことで、金ナノ粒子上に銀のシェル構造を形成させました。その上で、高い濃度の銀イオン中に還元剤なしで結晶をインキュベーションさせると、金属イオンの作用でDNAが収縮する現象が生じます。これにより粒子表面間距離が狭まり、SERSに適した周期的なナノギャップ構造のDNA-Au@AgNP結晶を作製しました。この結晶と検出対象である分子の溶液を混合し、顕微ラマン分光測定を行うことで、DNA-Au@AgNP結晶の分子検出能力を調べました。

図2 a)ナノギャップ構造形成前のDNA-AuNP結晶(論文のCrystal Ⅰに対応)。SEM像(上段)とSAXS像(下段) b)ナノギャップ構造形成後のDNA-Au@AgNP結晶(本文のCrystal Ⅳに対応)。SEM像(上段)、SAXS像(下段)。

DNA-Au@AgNP結晶の構造周期性は、走査型電子顕微鏡(SEM)2やX線小角散乱3測定を利用することで評価しました。図2は、結晶のSEM像とSAXSプロファイルです。特に図2上段側のSEM像より、DNA-AuNP結晶表面が持つ高い構造周期性が、銀シェル形成後も維持されることが確認されました。また銀シェル形成とDNA収縮を施した結晶においても、ナノギャップ構造を維持したまま銀シェルが均一に形成されたことを確認しました。銀シェル形成前の結晶を構成する金ナノ粒子の粒径と比較することで、今回作製したDNA-Au@AgNP結晶の粒子表面間の平均ギャップ距離が3 nm程度であることが分かり、構造周期性とナノギャップ構造を両立した材料の作製に成功しました。

図3さまざまな濃度のRhodamine B溶液中の結晶に対する顕微ラマン分光測定。a)結晶の有無・銀シェルの有無による比較。b)銀シェルの厚みによる比較。 c) Rhodamine Bの濃度を変化させた場合の比較(本文のCrystal Ⅳに対応) 。

図3に示す顕微ラマン分光法を利用した評価では、作製した各結晶のSERS効果を比較することで、結晶構造の違いが検出性能に与える影響を調べました。図3aで示すのは、濃度10 μMのRhodamine B溶液中での結晶の有無および結晶への銀シェル形成の有無で測定結果を比較したものです。溶液単独の場合や、DNA収縮のみを施した結晶に対して分光測定を行った場合では十分に高い応答は得られなかった一方で、銀シェル形成とDNA収縮を行った結晶ではRhodamine B分子に由来した明確なラマンスペクトルが測定されました。このことから、今回作製した周期的なナノギャップ構造が安定したSERSに有効であることが示されました。

図3bのように銀シェル形成の条件を調整した結晶同士を比較すると、より大きなスペクトル強度を示す結晶が得られました。DNAの構造変化と金ナノ粒子表面への均質な銀シェル形成を段階的に組み合わせることで、SERSを強く示すナノギャップ構造を設計できることが明らかとなりました。

図4 FDTD法を用いた結晶内の局在電場強度分布のシミュレーション。

また、本研究で作製した結晶では、通常の自発ラマン散乱では検出が困難な低濃度領域においても溶液中の分子(Rhodamine Bおよび5-エチニル-2’-デオキシウリジン)の検出が可能であり、Rhodamine Bの検出限界は100 nMに達しました(図3c)。これらの結果から、本研究で作製したDNA-Au@AgNP結晶は、結晶中に作り込まれたナノギャップが分子のラマン散乱を増強し、高感度な検出を実現していることが示されました。

さらに本研究では、有限差分時間領域(FDTD)法4による電磁場計算を行い、作製したDNA-Au@AgNP結晶内部における光電場分布を解析しました。その結果、図4のようにナノ粒子間の狭いギャップ領域において形成される局在電場の強い領域(ホットスポット)が、結晶中に三次元的に形成され、微量分子を検出しやすい構造になっていることを確認しました。この電場増強は、単一粒子では得られないナノ粒子間の局在表面プラズモン共鳴(LSPR)注5)の相互作用に起因するものと推測されます。ナノ粒子の周期構造中で生じる三次元的なLSPRの結合により、結晶表面で広く光電場の増強が生じていることを示しています。これにより、分子が結晶全体で効率的にホットスポットに取り込まれ、高いSERS感度が発現していると考えられます。

これらの結果は、DNA修飾金ナノ粒子結晶に対して構造制御を加えることで、結晶の構造周期性を保ちながら高感度な分子検出機能を付与できることを示すものです。

【成果の意義】

本研究は、SERSを用いた微量分子検出において課題となっていた「信号増強場の制御」に、材料設計の側から解決策を示した点にあります。SERSでは、金属ナノ粒子間のごく狭い隙間に形成されるホットスポットに分子が入ることで信号が増強されますが、従来はホットスポットの位置や数をそろえることが難しく、測定のばらつきや検出効率の低さが課題でした。

本研究では、DNAのプログラマブルな性質を利用して金ナノ粒子を周期的に配列させ、銀シェル形成とDNA収縮を組み合わせることで、結晶性を保ったまま多数のナノギャップを作り込むことに成功しました。これにより、結晶中にラマン信号を増強する領域を三次元的に配置でき、溶液中の微量分子を高感度に検出できることを実証しました。

今回の成果は基礎研究段階ですが、微量分子をラベルせずに検出する分析材料として、細胞内の分子状態の観察、化学反応中の微量成分分析、医療・生命科学・材料科学における高感度センシングへの展開が期待されます。特に、従来のSERS基板では測定しにくい細胞や組織などの環境に対し、将来的にナノ~マイクロスケールの小さな結晶プローブとして応用できる可能性があります。

本研究は、科研費 基盤研究(B)「DNA修飾ナノ粒子の高品質単結晶成長法の開発」(JP19H02555)、 基盤研究(A)「新奇光物性創出に向けたDNA修飾ナノ粒子超格子の結晶成長と単結晶構造解析法の確立」(JP25H00832)、基盤研究(S)「細胞へのセンサー・人工物導入のための生体適合性システムの創製」(JP25K24703)、基盤研究(B) 「水/氷界面で水から分離する“未知の水”における動的階層構造多様性とキラル秩序」(JP24K01428)、挑戦的研究(萌芽)「Mie空孔共振器に閉じ込めた分子の不斉結晶化」(JP24K21751)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST 「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」(JPMJCR19S6)の支援の下行われたものです。X線小角散乱測定は、SPring-8(BL40B2)において行われました。

【用語説明】

注1)表面増強ラマン散乱:金、銀などの金属ナノ粒子、あるいは粗面化された金属表面に分子が吸着した際に、分子のラマン散乱の強度が著しく増強される現象。

注2)走査型電子顕微鏡(SEM):電子線を照射して試料から放出された電子を検出することで、ナノ~マイクロメートルサイズの形状や表面の微細構造を観察する装置。

注3)X線小角散乱:物質にX線を照射し、その散乱強度パターンから物質の周期的な構造情報を得る手法。

注4)有限差分時間領域(FDTD)法:電磁場を記述する電磁気学の基礎方程式であるマクスウェル方程式を差分化することで、光の波長よりも微小な領域の電磁場を精度よく解くことができる代表的な数値計算法。

注5)局在表面プラズモン共鳴(LSPR):ナノスケールにまで微粒子化した金属に特定の波長の光を照射することで、局在化された電子の集団振動(局在表面プラズモン)が共鳴的に励起される現象。この際に生じる粒子の近傍領域の局在電場を介することで、周囲の物質は光との相互作用が増強される。これらの点から、発光増強や高感度なセンシングなどへの利用が期待されている。

 

論文情報

“DNA-Programmed Core-Shell Nanoparticle Superlattice Crystals with Nanogaps for SERS Sensing”
Taito Ikeuchi(名古屋大学), Saki Kozawa(名古屋大学), Hiromasa Niinomi(広島大学), Xu Li(名古屋大学), Satoshi Ogawa(名古屋大学), Makoto Kuwahara(名古屋大学), Tomoya Oshikiri(東北大学), Kotaro Hiramatsu(九州大学) and Miho Tagawa(名古屋大学)
ACS Applied Optical Materials
DOI:10.1021/acsaom.6c00173

問い合わせ先

【研究者連絡先】
名古屋大学 未来材料・システム研究所
教授 田川 美穂 (たがわ みほ)
TEL:052-789-5343 
E-mail: tagawa.miho.z5*f.mail.nagoya-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)

広島大学 持続可能性に寄与するキラルノット超物質国際研究所
特任准教授 新家 寛正(にいのみ ひろまさ)
TEL:082-424-4150
E-mail:hiromasa*hiroshima-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 多元物質科学研究所
准教授 押切 友也(おしきり ともや)
TEL:022-217-5671
E-mail:tomoya.oshikiri.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

九州大学 大学院理学研究院
教授 平松 光太郎(ひらまつ こうたろう)
E-mail:hiramatsu*chem.kyushu-univ.jp(*を@に置き換えてください)

【報道連絡先】
名古屋大学 総務部広報室
TEL:052-558-9735、FAX:052-788-6272
E-mail:nu_research*adm.nagoya-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)

広島大学 広報グループ
TEL:082‐424-4383、FAX:082-424-6040
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東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
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TEL:092-802-2130、FAX:092-802-2139
E-mail:koho*jimu.kyushu-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)