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プレスリリース
ウルトラワイドバンドギャップ半導体基板実用化への道を拓く ― ホームメイド針状結晶を種とする窒化アルミニウム単結晶成長 ―

【発表のポイント】

  • アルミニウム蒸気の直接窒化法において、反応の駆動力を熱力学的平衡点近傍に制御する革新的なアプローチを考案しました。
  • 従来は多結晶粉末やナノワイヤしか得られなかった直接窒化法において、過剰な核生成を抑制することで、長さ数センチメートル、直径最大300 µm に達する針状の窒化アルミニウム(AlN)(注1)高品質単結晶の育成に成功しました。
  • 得られた結晶を種結晶として用いた溶液成長法により、高い結晶性を維持したまま、最大175 µm/h という高速な径拡大(大口径化)を実証し、次世代ウルトラワイドバンドギャップ半導体(注2)基板としての実用化へ道を拓きました。

【概要】

窒化アルミニウム(AlN)は、優れた熱伝導性、高い化学的安定性、および約6.2 eVの超ワイドバンドギャップを持つことから、深紫外線LED(注3)や高出力パワーデバイス(注4)、などの基板材料として極めて有望視されています。しかし、従来の直接窒化法は強い駆動力下で行われるため、反応が激しく進み、多結晶の粉末しか得られないという課題がありました。

東北大学多元物質科学研究所の李森助教、飴井千晃大学院生、安達正芳准教授、大塚誠准教授、福山博之教授らの研究グループは、熱力学計算に基づきアルミニウム蒸気を直接窒化させるプロセスにおいて、合金組成、窒素分圧、反応温度を厳密に制御し、反応の駆動力を熱力学的平衡の近傍(近平衡状態)に維持する新しいAlN結晶成長法を開発しました。

本研究では、Fe-Al合金融体からのAl蒸気供給と窒素ガスの反応において、駆動力を小さく制御し過剰な結晶核の発生を抑制することにより、数センチメートル長に及ぶ高品質な針状AlN単結晶を得ることに成功しました。さらに、得られた結晶を種結晶として用いて、Fe-Crフラックスを用いた溶液成長法を行うことで、結晶の品質を損なうことなく、最大175 µm/h の速度で横方向へのエピタキシャル成長(大口径化)ができることを実証しました。

本成果は、安価なアルミニウム原料から直接、高品質なAlNバルク単結晶基板を製造するための新しい製造プロセスの基盤技術となるものであり、次世代半導体デバイスの普及を大きく加速させることが期待されます。

本研究成果は、2026年6月8日付で、材料科学分野の国際学術誌Materials & Designにオンライン掲載されました。

研究の背景

半導体デバイスの高性能化・高効率化に伴い、従来のシリコン(Si)や炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)を超える究極の半導体材料として、窒化アルミニウム(AlN)が注目を集めています。AlNはウルトラワイドバンドギャップ(約6.2 eV)を有し、高い熱伝導率と耐圧性を持つため、深紫外光デバイスや次世代パワー半導体の基板として理想的です。

これまでAlNの合成には、アルミニウム粉末を窒素中で激しく反応させる直接窒化法が工業的に用いられてきましたが、これは反応の駆動力が非常に大きいため、微細な「多結晶粉末」としてしか回収できませんでした。デバイス基板として利用するためには「大型の単結晶」が必要不可欠ですが、過剰な核生成を抑制してバルク単結晶へと導く熱力学的な制御手法は未開拓のままでした。

今回の取り組み

本研究グループは、直接窒化プロセスにおける核生成密度と結晶形態が、熱力学的な「駆動力」に強く依存することに着目し、熱力学的計算に基づく近平衡状態のデザインを行いました。

熱力学データベースを用い、Fe-Al合金中のAl活量、窒素分圧、温度の相関関係から、AlNの生成と分解の境界となる「臨界温度(Tc)」および窒化反応の駆動力を算出しました。その結果、Fe-20 mol% Al合金を用いた場合、Ar-4 vol% N2 下での臨界温度 Tc は 2084 K(約1811℃)であることを突き止め、この温度近傍(2033 K〜2153 K)での実証試験を設計しました。

計算通りに駆動力を平衡点近傍まで制御(近平衡状態化)させたところ、新しい結晶核の発生が劇的に抑制されました。これにより、供給されたAl蒸気が既存の安定核へ優先的に取り込まれるVS(気体-固体)成長メカニズムにより、長さ数センチメートル、直径最大300 µm に達する「針状AlN単結晶」を成長させることに成功しました。特に2073 K(1800℃)で育成した六角柱状結晶は、X線ロッキングカーブ(XRC)測定において半値幅(FWHM)が約20 arcsecという、極めて欠陥の少ない最高水準の結晶性を示しました。

得られた高品質な針状単結晶を種結晶とし、Fe-26 mass% Crフラックスを用いた溶液成長法(液相エピタキシャル成長)へ適用しました。溶液を1948 Kから徐々に冷却(0.05〜0.2 K/min)して精密に過飽和度(駆動力)を制御した結果、結晶性を高く維持したまま、最大175 µm/h という高い成長速度で横方向への径拡大に成功しました。(図1)また、水平配置の育成技術を導入することで、ミリメートルスケールにわたり均一な太さの結晶を得ることに成功し、さらにSIMS(二次イオン質量分析)測定により、光学特性を阻害する不純物である炭素(C)の濃度が約2桁も低減されることを確認しました。(図2)

図1. 針状AlN種結晶上に溶液成長法でエピタキシャル成長させた後のSEM像
(成長温度:1948~1923 K、冷却速度:(a) 0.05、(b) 0.1、(c) 0.2 K/min)

図2. (a) 針状AlN種結晶、(b)針状AlN種結晶を水平配置して溶液成長法でエピタキシャル成長させた後のSEM像
(成長温度:1948~1873 K、冷却速度0.2 K/min)

今後の展開

本研究は、熱力学的な理論予測に基づいて反応系を「近平衡状態」に制御することにより、安価な直接窒化法を多結晶製造から「単結晶製造」へと昇華させることに成功した画期的な成果です。

今後は、この技術をさらにスケールアップし、種結晶のさらなる大口径化を進めることで、産業界が熱望する「低コスト・高品質なAlN単結晶基板」の供給体制の確立を目指します。これにより、エコで安全な深紫外殺菌光源の普及や、電気自動車(EV)・電力インフラを支える超省エネパワー半導体の実用化が大きく加速されることが期待されます。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP21H04609, JP22K18896, JP23K17884, JP25H00412)と JST A-STEP(JPMJTR20RH)の支援を受けて行われました。また、本論文は「東北大学2026年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。

用語説明

注1.窒化アルミニウム(AlN):アルミニウムの窒化物で、高い熱伝導率と2 eVという大きなバンドギャップ(禁制帯幅)を有する半導体材料です。

注2.ウルトラワイドバンドギャップ半導体:ウルトラワイドバンドギャップ半導体とは、従来のシリコン(Si)やガリウムヒ素(GaAs)に比べ、非常に大きなバンドギャップ(禁制帯幅)を持つ次世代の半導体材料を指します。

注3.深紫外線LED:紫外線の中でも特に波長が短い領域を深紫外(UVC)領域と呼び、UVCの光を発光できるLEDを深紫外LEDと言います。

注4.高出力パワーデバイス:電気エネルギーの変換や制御を行う半導体デバイスのことです。通常の半導体よりも大きな電圧・電流を扱うことができ、電気自動車(EV)や産業用モーター、家電などに不可欠です。

 

論文情報

“Near-equilibrium thermodynamic control of AlN nucleation and crystal growth via direct nitridation of aluminum”
Sen Li*, Chiaki Amei, Masayoshi Adachi, Makoto Ohtsuka, Hiroyuki Fukuyama*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 李森、教授 福山博之
Materials & Design
DOI:10.1016/j.matdes.2026.116370

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 福山博之
TEL: 022-217-5178
Email: hiroyuki.fukuyama.b6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)