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プレスリリース
金属粒子の扁平化工程のスケールアップ方法を開発 ―量産化コスト削減に期待―

【発表のポイント】

  • 太陽電池などの電極や半導体・電子部品の基板実装に使用されるフレーク状銀粒子の製造工程である、ボールミルを用いた扁平化工程のスケールアップ(大型化とその運転条件決定)手法を新たに開発しました。
  • 小型機での扁平化実験結果と、ボールミル中のボール挙動のシミュレーション結果を解析し、大型機での扁平化実験結果を予測可能にしました。
  • スケールアップにおける実験工数、コストを大幅に削減し、よりよい製品を迅速に量産化する技術への貢献が期待されます。

【概要】

太陽電池の集電電極など、高信頼性が要求される部材には、銀粒子を含有した導電性ペーストがよく用いられます。ボールミルを用いて扁平化したフレーク状銀粒子は、粒子同士が平坦な面で接触し導電パスが形成されやすくなるため、他形状の銀粒子と比べ、導電性の向上が期待できます。高価な銀の使用量を削減するため、小型機を用いて開発されたフレーク状銀粒子を効率的に大型機で量産化する必要があります。量産化のためには、扁平化工程をスケールアップ(大型化とその運転条件決定)することが求められる一方で、そのスケールアップ手法はこれまで確立されていませんでした。

東北大学 大学院環境科学研究科 博士後期課程の小島拓也大学院生、同大学 多元物質科学研究所の加納純也教授、久志本築助教は、DOWAエレクトロニクス株式会社と共同で、ボールミルを用いた銀粒子の扁平化工程における、離散要素法(DEM(注1)と呼ばれる計算手法を援用し、大型機での実験結果を予測するスケールアップ手法を新たに開発しました。本成果により、スケールアップにおける実験工数、コストを大幅に削減し、よりよい製品を迅速に量産化する技術への貢献が期待されます。

本研究成果は2026年3月18日付で、科学誌Scientific Reportsに掲載されました。

研究の背景

銀粒子を含有した導電性ペーストは、太陽電池の集電電極や半導体・電子部品の基板実装などによく用いられていますが、導電性などの特性は粒子のサイズや形状に左右されます。フレーク状銀粒子は比表面積が高く平坦な面を持つため、粒子同士の接触面が大きくなり導電パスが形成されやすいことから、球状などの他形状と比べ、導電性向上などが期待されています。フレーク状銀粒子の作製方法として、構造がシンプルであり大量生産に適するボールミルを用いた扁平化工程がよく用いられます(図1)。フレーク状銀粒子の大量生産のためには、高価な銀の使用量を削減するため、小型機を用いた開発品を効率的に大型機で量産化する必要があります。量産化のためには、扁平化工程をスケールアップ(大型化とその運転条件決定)することが求められる一方で、ボールミルの設定条件が複雑なことに起因して、スケールアップ手法およびスケールアップの因子が不明であるために、大型機での試行錯誤が必要になっていることが課題でした。

図1. 銀粒子の扁平化工程における粒子形状の変化の例。

今回の取り組み

本共同研究グループは、小型機の実験により求めた扁平化速度(注2と、小型機・大型機のDEMシミュレーションにより得られた衝突エネルギー(注3から、大型機での任意の扁平化時間における規格化比表面積(注4を予測する、というスケールアップ手法を提案しました。ボールミルには振動ボールミル(注5を、原料粒子には不定形状銀粒子を用いました。本スケールアップ手法の妥当性評価のため、大型機を用いた振動数の異なる扁平化実験での、任意の扁平化時間における規格化比表面積の予測値と実験値の絶対平均パーセント誤差(MAPE(注6)を求めました。その結果、DEMシミュレーションにより得られた衝突エネルギーの法線方向成分によって高精度に予測が可能であることがわかりました(表1、図2)。これにより、本スケールアップ手法の妥当性が示され、衝突エネルギーの法線方向成分が扁平化工程におけるスケールアップの因子となる可能性が示唆されました。

表1. 大型機での、任意の扁平化時間における規格化比表面積の、予測値と実験値の絶対平均パーセント誤差(MAPE)。衝突エネルギーの法線方向成分を用いた場合に予測誤差が最も低いことがわかる。

図2. 大型機での、振動数の異なる扁平化実験における扁平化時間と規格化比表面積の関係。いずれの条件においても、実験値を良好に予測できている。

今後の展開

ボールミルを用いる扁平化工程のスケールアップにおいて、繰り返しの実験により目的の粒子が得られることもありますが、非常に高価な銀の使用量が多くなり実験コストが大幅に増加してしまう、という現状がありました。本手法を用いて、大型機で複数回実験を行うことなくスケールアップすることで、実験コストと行程の大幅削減が期待されます。また、銀に限らず、他種金属の扁平化工程の技術向上にも役立つことが期待されます。

謝辞

本研究はDOWAホールディングス株式会社のDOWAテクノファンドの助成を受け実施されました。また、本論文は「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受け、Open Accessとなっています。(DOI: 10.1038/s41598-026-44107-1)

用語説明

注1.DEM: 離散要素法(Discrete Element Method)の略称です。DEMは、固体状の要素個々に作用する力をモデル化し運動方程式を立て、その方程式を逐次的に解き要素個々の運動を追跡することで、要素群全体の挙動を表現し解析する方法です。今回扱ったボールの運動だけでなく、粒子の集合体である粉体挙動など、不連続な運動や現象の表現を得意としています。

注2.扁平化速度: 扁平化にかけた時間当たりに、粒子がどれだけ扁平化されたかを表す指標を指します。

注3.衝突エネルギー: DEMにより表現されるボールの運動から、ボールが他の物体と接触するときのエネルギーを計算したものを指す指標です。加納らにより提案されました。( Kano and F. Saito, Powder Technol., 98(2) (1998) 166-170, DOI: 10.1016/S0032-5910(98)00039-4)

注4.規格化比表面積: 任意の扁平化時間における銀粒子の比表面積を、原料粒子の比表面積で割ることで求めます。粒子がどれだけ扁平化されているかを表す指標として用いました。

注5.振動ボールミル: 容器内に砕料粒子と、ステンレススチールやセラミックスなどの硬いボールを充填し、モーターとスプリングにより粉砕室を高速で円振動させて、ボール同士を衝突させることで砕料粒子を粉砕します。本研究では金属粒子の扁平化に用いました。

注6.MAPE: 絶対平均パーセント誤差(Mean Absolute Percentage Error)の略称です。予測方法の精度を評価する指標で、実験値と予測値の差を実験値で割り、すべての検証点数で平均化して求めます。

 

論文情報

“A scaling up of flattening silver particles using dry ball milling by DEM simulation”
Takuya Kojima*, Kizuku Kushimoto, Daisuke Oka, Yutaka Hisaeda, Junya Kano
*責任著者: 東北大学 環境科学研究科 大学院生 兼DOWAエレクトロニクス株式会社 小島 拓也
Scientific Reports
DOI: 10.1038/s41598-026-44107-1

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 久志本 築(クシモト キズク)
TEL: 022-217-5136
Email: kizuku.kushimto.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所  広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen[at]grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)