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プレスリリース
活性酸素が引き起こす見逃されていたDNA損傷プロセス ― 光反応による「脱塩基部位」の生成を発見、 次世代の光機能性DNAを実現する精密設計の基盤へ ―

【発表のポイント】

  • 光触媒(注1を用いたDNAの光酸化反応において、活性酸素の一種である一重項酸素(注2がDNAに作用し、「脱塩基部位(APサイト)(注3」を生じる新しいDNA損傷プロセスを明らかにしました。
  • 従来手法では検出が困難で見逃されてきたこの現象を、質量分析に基づく独自の解析アプローチにより、直接かつ定量的に評価することに成功しました。
  • DNA鎖の末端など、周囲の溶媒に接触しやすい位置にあるグアニン残基でAPサイトが生成しやすいことを突き止め、副反応を抑えた光機能性DNAの精密設計につながる重要な指針を示しました。

【概要】

光や炎症などで生じる酸化ストレスは、DNAに損傷を与え、老化やがんをはじめとする疾患の原因となることが知られています。しかし、DNAの損傷プロセスには、まだ解明されていない部分が残されています。

東北大学多元物質科学研究所の山野雄平助教、鬼塚和光准教授、永次史教授らの研究グループは、光触媒による光酸化反応において、DNA中のグアニン残基から「脱塩基部位(APサイト)」が生成する未知の損傷プロセスを明らかにしました(図1)。また、質量分析に基づく独自の解析法により、酸化されたDNAをオリゴマー(注4の状態で直接解析しました。その結果、APサイトが光触媒から生成する活性酸素(一重項酸素)とグアニン残基の反応によって生じることを突き止めました。さらに、DNA鎖末端など周囲の溶媒に接触しやすい位置のグアニン残基でAPサイトが生成しやすいことも確認されました。

本研究は、DNAの新しい損傷プロセスを明らかにするものであり、DNAを利用した光機能性材料の開発や、光バイオ技術における合理的な分子設計に直結する重要な知見を提供します。

本成果は、2026年3月20日付で科学誌Communications Chemistryに掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

光触媒などの光応答性分子を組み込んだDNA(光機能性DNA)は、光照射によって反応を時間的・空間的に制御できることから、分子生物学や化学、生体材料分野において幅広く応用されています。
一方で、その光反応の過程で、DNA自体が意図しない酸化損傷を受けることも知られています。特にグアニン残基部分は酸化されやすく、光反応によって8-オキソグアニン(8-oxoG)やスピロイミノジヒダントイン(Sp)、グアニジノヒダントイン(Gh)など、さまざまな酸化損傷体が生成することが報告されています。これら酸化損傷体は高い遺伝毒性(注5を示し、疾患との関連も指摘されていることから、盛んに研究されてきました。

従来、こうした酸化損傷体は、酸化されたDNAを酵素でヌクレオシドに分解した後、高速液体クロマトグラフィーや紫外光吸収測定で解析することで調べられてきました。しかし、この方法では紫外光(260 nm付近)を吸収しない損傷生成物の検出が難しく、光酸化反応におけるAPサイトの生成は十分に認識されていませんでした。

今回の取り組み

研究グループは、酸化損傷体の見落としを防ぐため、DNAを酵素分解せずに解析する新しいアプローチを採用しました。具体的には、主にマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)(注6を用いて、酸化されたDNAオリゴマーを直接解析しました。

自己相補的な二重鎖DNAオリゴマーをモデルとして、光触媒であるローズベンガル存在下で光照射を行ったところ、既知の酸化損傷体(Sp、Gh)に加えて、グアニン残基の核酸塩基部分が脱落したAPサイトが主要な損傷の一つとして生成することが分かりました(図2)。

さらに反応機構を詳しく解析した結果、この反応は主に光触媒から生成する一重項酸素とグアニン残基との反応によって引き起こされることが明らかになりました。また、さまざまなDNA配列を用いた検証により、DNA鎖の末端など溶媒に接触しやすい位置のグアニン残基が、APサイト生成の「ホットスポット」であることも分かりました。

今後の展開

本研究により、光触媒反応に基づくDNAのAPサイト生成のプロセスと、生成されやすい位置が明らかになりました。この知見は、意図しない酸化損傷を最小限に抑えた光機能性DNA材料やプローブの設計に直接的に貢献します。さらに本研究では、この反応がDNAに限らずRNAでも同様に進行することも確認しており、今回得られた知見は、RNAを標的とする光バイオ技術の設計においても重要な指針になると期待されます。

 

図1. 本研究の概要 光触媒による光酸化反応によって既知の酸化損傷体(Gh、Sp)に加え、脱塩基部位(APサイト)と呼ばれるDNA損傷が生じる現象を発見した。

図2. 光触媒(ローズベンガル)存在下、DNAオリゴマーに540 nmの光を2分間照射した後のマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS)測定。既知の酸化損傷体(Sp、Gh)に加えて、APサイトが主要な損傷の一つとして生成することを確認した。

【謝辞】

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「マテリアル・シンバイオシスのための生命物理化学」(JP23H04051)、基盤研究(B)(JP24K01641, JP23H02076)、特別研究員奨励費(JP22J01195)、若手研究(JP22K14792)、科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2002)、および文部科学省「人・知・物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」などの支援を受けて行われました。
また、本研究成果に関する論文は、「東北大学2025年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」の支援を受けました。

【用語説明】
注1.光触媒: 光のエネルギーを吸収して、特定の化学反応を促す働きを持つ物質のことです。本研究では、光を当てると一重項酸素を効率よく発生させるローズベンガルなどの色素分子が用いられました。

注2.一重項酸素:活性酸素の一種です。本研究では、光触媒が光のエネルギーを吸収し、そのエネルギーを周囲の通常の酸素分子に受け渡すことで発生します。

注3.脱塩基部位(APサイト):DNAを構成する重要なパーツである「核酸塩基」が脱落して失われてしまった損傷部分のことです。芳香族部分を持たないため、従来のUV吸収を用いた分析では検出が困難でした。

注4.オリゴマー:少数の構成単位(モノマー)が結合してできた重合体のことです。本研究においては、ヌクレオチド(核酸の構成単位)が連なった短いDNAの鎖のことを指します。

注5.遺伝毒性:遺伝情報に異常(突然変異)を引き起こす性質のことです。遺伝毒性が高いと、細胞の突然変異やがん化などにつながる可能性があることが知られています。

注6.マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF MS):物質を壊れにくい状態にする添加剤(マトリックス)を混ぜてレーザーを当ててイオン化し、そのイオンが飛んでいく時間(TOF:Time of Flight)から物質の重さ(質量)を測る分析装置です。本研究では、DNAを酵素分解せずに、オリゴマーの状態で損傷の種類や量を測るために使用されました。

 

論文情報

“Singlet oxygen-mediated photocatalytic generation of abasic sites in DNA ”
著者:Yuuhei Yamano*, Kazumitsu Onizuka*, Okan Altan, Madoka Sasaki, Ahmed Mostafa Abdelhady, Shigeki Sasaki, and Fumi Nagatsugi*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 山野 雄平、准教授 鬼塚 和光、教授 永次 史
Communications Chemistry
DOI:10.1038/s42004-026-01979-8.

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 山野 雄平(やまの ゆうへい)
電話:022-217-5634
Email:yuuhei.yamano.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)

東北大学多元物質科学研究所
准教授 鬼塚 和光(おにづか かずみつ)
電話:022-217-5634
Email:onizuka*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)

東北大学多元物質科学研究所
教授 永次 史(ながつぎ ふみ)
電話:022-217-5633
Email:nagatugi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)