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プレスリリース
鉱石中のマンガンを鋼に直接入れる「直接合金化」の最適条件を体系化 -日印連携研究でプロセス設計の指針を提示-

【発表のポイント】

  • 鋼の製造工程において、従来の合金鉄に頼らずにマンガンを鋼に添加する新しい考え方(直接合金化)を検討しました。
  • 副原料投入の設計を最適化することによって、投入したマンガン鉱石を鋼に取り込める割合(回収率)が大きく改善することを示しました。
  • マンガンの回収率が向上することで、投入量やロスの低減が見込まれ、製造コストの削減や環境負荷の低減につながります。
  • 本研究は東北大学とインド(IIT Hyderabad)の国際共同研究で実施され、日印の鉄鋼分野における研究ネットワークの強化が期待されます。

【概要】

マンガンは強くて粘り強い鋼をつくるために欠かせない元素ですが、マンガン合金の製造から鋼への添加までの一連の工程で損失が生じやすいという課題があります。そのため、必要量が増えるほど原料投入やエネルギー負担が大きくなりやすく、マンガンの回収率を高める手法が求められています。

東北大学 多元物質科学研究所の植田滋教授、岩間崇之助教らのグループとIIT Hyderabad(インド)のKakara Sripushpa大学院生、Ashok Kamaraj助教のグループによる国際共同研究チームは、従来の合金鉄に頼らずにマンガン鉱石中のマンガンを鋼へ入れる「直接合金化」に着目しました。副原料投入の設計を見直し、マンガン回収率を高められる条件を系統的に検討しました。副原料の物性がマンガンの反応性と損失に影響することが分かり、鋼へ取り込める割合を大きく改善できる条件を明らかにしました。本成果により、必要なマンガン量やロスの低減が見込まれ、製造全体の資源効率向上と環境負荷低減への貢献が期待されます。

本研究成果は、学術誌Journal of Sustainable Metallurgyに2026年1月24日付で掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

マンガンは鋼の強度と延性の両立に重要な合金元素であり、とくに高強度と粘り強さを同時に求められる用途で欠かせません。このような特性を備えた鋼は、輸送機器や建築・インフラなどの構造部材において、部材の薄肉化や軽量化を可能にし、省資源化とともに運用時のエネルギー消費や排出の低減に寄与します。また、衝突や地震などの外力に対して破断しにくい材料設計は、社会インフラの安全性・信頼性の向上にもつながります。一方で、マンガンは高温環境下で酸素と反応しやすくかつ気化しやすいため、工程中に損失が生じやすいという課題があります。従来のマンガン合金(フェロマンガン等)を用いるルートでは、鉱石の処理から合金製造、鋼への添加までを通した総回収率が50%を超えることは少ないと報告されています。その結果、狙いの成分を得るために投入量を増やさざるを得ない場合があり、原料使用量やエネルギー負担の増加にもつながり得ます。したがって、マンガンをより高い回収率で鋼中へ添加できる手法の確立が求められています。

図1. 鋼へのマンガンの添加方法。従来法と比べ新製造法はマンガンを鋼に添加するまでの工程を省略できるが、効率的にマンガンを添加できる条件の探査が不十分であった。

今回の取り組み

東北大学 多元物質科学研究所の植田滋教授、岩間崇之助教らと、IIT Hyderabad(インド)のKakara Sripushpa大学院生、Ashok Kamaraj助教による国際共同研究チームは、従来の合金鉄に頼らずにマンガンを鋼へ入れる「直接合金化」に着目し、副原料投入の設計と、それに伴って変化するスラグ(注1)の性状(物性)が、マンガンの反応性と損失にどのように影響するかを系統的に検討しました。具体的には、マンガンが溶鋼に取り込まれる一方で、反応条件によっては気化して失われたり、スラグ側に残留したりする損失が生じる点に注目し、損失を抑えつつ回収率(歩留まり)を高める条件の整理を行いました。

その結果、スラグの性状がマンガン回収率を大きく左右することが分かり、条件を適切に組み合わせることで、マンガンが鋼に取り込まれる割合を大きく改善できることを明らかにしました。とくに、スラグの粘性(粘度)(注2)は反応の進み方やスラグと合金化した鋼の分離挙動に関わるため、回収率と損失の両面に影響する要因として最適値があることを示しました。最適条件下では、マンガン回収率は最大で約68%に達しました。これは、従来ルートで指摘されている総回収率と比べ、回収効率の改善が期待できることを示す結果です。

図2. マンガン回収率、損失率とスラグ粘度の関係。スラグの粘度が0.10~0.12の時に回収率は高く、損失率は低くなる。直接合金化法を効果的に実現するためのスラグ粘度に最適値があることを示す。

今後の展開

回収率の向上は、必要なマンガン投入量やロスの低減につながり、製造全体の資源効率向上と環境負荷低減への貢献が期待されます。今後は、マンガンが溶鋼に取り込まれる反応の進行の速さを明らかにする研究を進めます。これにより、気化損失の低減や生産性の改善につながる研究成果が得られる見込みで、実操業で再現性よく運用できる設計指針として具体化していきます。

本研究は、鉄鋼分野で成長が著しいインドのIIT Hyderabadとの国際共同研究により得られた成果であり、日印の鉄鋼分野における研究ネットワークのさらなる強化が期待されます。今後も本分野における知見の共有と継続的な共同研究の推進に取り組んでいきます。

【謝辞】

本研究は日本科学技術振興機構 さくらサイエンスプログラム、国際協力機構 FRIENDSHIP 2.0、IIT Hyderabad、seed grant project SG120の助成を受けたものです。

用語説明

注1.スラグ:製鋼などの高温工程で溶けた金属(溶鋼)の表面に形成される酸化物を主成分とする溶融物。不純物を取り込む働きや溶鋼中の成分を調整する役割を持つ。

注2.粘性(粘度):流体が流れたり形を変えたりするときの「動きにくさ」を表す性質。粘性が高いほど流れにくく、粘性が低いほど流れやすい。製鋼においては、スラグなどの流動性や混ざりやすさ、分離のしやすさに影響する指標である。

 

論文情報

“Sustainable Direct Mn Alloying Practice to Produce Medium Mn Steel”
Kakara Sripushpa, Elizaveta Cheremisina, Ryo Inoue, Takayuki Iwama*, Shigeru Ueda & Ashok Kamaraj*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 岩間崇之、IIT Hyderabad(インド) 助教  Ashok Kamaraj
Journal of Sustainable Metallurgy
DOI:10.1007/s40831-026-01420-3

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 岩間崇之
TEL:022-217-5162
Email: takayuki.iwama.a6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)