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プレスリリース
DNAの二重らせんを自在につなぐ新技術を開発 ― チオグアノシンの新たな光反応性を解明、 DNAナノ構造体や核酸医薬への応用に期待 ―

【発表のポイント】

  • DNA二重鎖の向かい合う鎖を、チオグアノシン(TG)(注1を用いて高効率に架橋(結合)させる新しい技術を開発しました。
  • チオグアノシンの新たな光反応特性を発見しました。従来一般的とされたものとは異なる反応機構で架橋が進行することを解明しました。
  • 架橋されたDNAは高い熱安定性を持ちながら、細胞内の還元環境(注2では元の状態に戻る「可逆性」を有しており、薬物送達システム(DDS)(注3やDNAナノテクノロジー(注4への応用が期待されます。

【概要】

生命の設計図であるDNAを、ナノマシンや薬剤の運び手として利用する研究が注目されています。

東北大学 多元物質科学研究所の鬼塚和光 准教授、永次史 教授、同大学院理学研究科のジャミラ・アッバス・オスマン 大学院生らの研究グループは、チオグアノシンをDNA二重鎖内の特定の位置に導入することで、光や化学酸化剤によってDNA鎖間を自在に架橋する新技術を開発しました。本架橋反応はDNA二重鎖の構造を歪ませずに素早く鎖間を結合させます。さらに、本研究では、DNA内部で電子が移動するチオグアノシンの新たな光反応特性を突き止めました。チオグアノシン同士の架橋は細胞内の環境で外れる可逆性を持つため、体内で薬を放出する核酸医薬や、DNAナノマシンの開発など、次世代医療への応用が期待されます。

本研究成果は、2025年12月23日付けで国際科学誌Communications Chemistryにオンライン掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

DNAはアデニンとチミン、グアニンとシトシンの相補的な塩基対が水素結合により結びつき二重鎖を形成し、これらの並びにより遺伝情報を保存します。DNAはこのような遺伝情報の保持だけでなく、その相補的な結合能力を利用して、ナノメートルスケールの構造体を作る「DNAナノテクノロジー」や、遺伝子の働きを制御する「核酸医薬」の材料としても注目されています。これらの応用において、2本のDNA鎖を化学的に結合させる「鎖間架橋(注5」技術は重要な基盤技術です。鎖間架橋により、二重鎖DNA間に共有結合が形成され、非常に安定な構造を作ることができるため、この技術の開発がさかんに検討されています。中でも光反応による鎖間架橋が種々検討されています。従来、光を用いた架橋法としては、[2+2]光環化反応を利用するものが広く知られてきました。また、本研究で着目した核酸誘導体であるチオグアノシンも光反応性を持つことが知られていましたが、その架橋メカニズムについても、近接塩基との[2+2]光環化反応が主であると考えられてきました。

今回の取り組み

研究グループは、グアニンの酸素原子を硫黄原子に置換した2′-デオキシチオグアノシン(TG)に着目しました。本研究では、反応する硫黄原子同士が近づけるよう精密な設計を行い、TGを「非相補的」な位置に導入したTG含有DNA二重鎖を合成しました。

この独自の設計により、TG含有DNA二重鎖を用いた極めて効率的な架橋反応が実現しました。化学酸化剤(ヨウ素)を用いた場合は1分以内、365 nmのUV-LED光を照射した場合はわずか10秒という短時間で、90%以上の高収率でジスルフィド結合(S-S結合)(注6が形成されます。さらに、チオグアノシンを導入する位置を検討したところ、反応に最適な位置があることもわかりました。

本研究の特筆すべき成果は、この光架橋反応の詳細なメカニズムを解明した点にあります。一般にチオグアノシンの光反応は一重項酸素の発生または[2+2]光環化反応とされています。本研究では、まず、酸素非存在下ではチオグアノシンの光反応が阻害されることを確認し、本反応メカニズムに酸素が関わっていることを確認しました。さらに、様々な実験を行うことで、本光反応のメカニズムとして、光励起されたTGから酸素分子への電子移動を経てスーパーオキシドラジカル(注7が発生する経路が主であることを証明しました。これは、DNA二重鎖という秩序ある構造がTG間の電荷分離を促進することで可能となった、特異的な反応です。

架橋後の二重鎖DNAは、元のきれいならせん構造(B型DNA)を維持しており、二重鎖解離の指標である融解温度(Tm(注8は架橋前の46℃から80℃以上へと劇的に上昇するなど、極めて高い熱安定性を示しました 。さらに、形成された架橋はグルタチオンなどの還元剤によって切断され、元の二重鎖に戻る可逆性も有しています。

 

今後の展開

本技術は、DNA二重鎖の構造を歪めずに、光や酸化還元環境に応じて「つなぐ・外す」を制御できる点が大きな特徴です。この特性を活かし、細胞内環境に応答するドラッグデリバリーシステム(DDS)や、DNAナノマシンなど、次世代のバイオナノマテリアル創製への応用が期待されます。

図1. 本研究の戦略 一塩基ずれた非相補的かつ近接する位置にチオグアノシン(図中の配列内ではSと表示)を配置することで、光照射や化学酸化によりDNA鎖間をジスルフィド結合で架橋する。

図2. 解明された光架橋反応メカニズム DNA二重鎖内での電荷分離と電子移動により、スーパーオキシドラジカルが発生し、架橋形成を促進する反応経路。

【謝辞】

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業 学術変革領域研究(A)「マテリアル・シンバイオシスのための生命物理化学」(JP23H04051)、基盤研究(B)(JP24K01641, JP23H02076)、および科学技術振興機構(JST)創発的研究支援事業(JPMJFR2002)などの支援を受けて行われました。

【用語説明】

  • 注1.チオグアノシン(TG): DNAを構成する4つの塩基(A, T, G, C)の一つである「グアニン(G)」の酸素原子を、硫黄原子に置き換えた人工的な核酸分子です 。通常のDNAには含まれませんが、光に反応しやすい性質を持っており、今回の技術の鍵となる物質です。
  • 注2.還元環境(かんげんかんきょう):酸化された物質を元に戻す作用が強い環境のことです。私たちの細胞の中は、グルタチオンという物質が多く存在するため「還元環境」に保たれています。本技術では、この環境を利用して、架橋したDNAを細胞内で元の状態に戻すことができます。
  • 注3.薬物送達システム(DDS):体内の薬物を、必要な場所へ、必要な量、必要なタイミングで送り届ける技術のことです。副作用を抑えつつ、薬の効果を最大限に高めるために重要です。
  • 注4.DNAナノテクノロジー:DNAを遺伝情報の記録媒体としてではなく、ナノメートルサイズの微細な構造体を作るための「部品」として利用する技術分野です。
  • 注5.鎖間架橋(さかんかきょう):2本の鎖からなるDNA(二重らせん)の間を、化学的な結合によってつなぎ合わせることです。橋を架けるように結合するため「架橋」と呼ばれます。架橋することでDNAの構造が安定し、熱や酵素によって分解されにくくなります。
  • 注6. ジスルフィド結合(S-S結合):2つの硫黄(S)原子が結びついてできる化学結合のことです。タンパク質の構造維持などにも使われる強固な結合ですが、細胞内のような特定の環境(還元環境)では切断されやすいという特徴を持っています。
  • 注7.スーパーオキシドラジカル:酸素分子が電子を受け取って活性化した状態(活性酸素の一種)です。本研究では、チオグアノシンに光が当たった際に、DNAの中を電子が移動することでこのラジカルが発生します。
  • 注8.融解温度(Tm):二重鎖DNAの50%が解離して一本鎖DNAになる温度のことです。DNAの二重らせん構造が安定であるほどTm値は高くなるため、塩基対の熱的安定性の指標として用いられます。

 

論文情報

“Chemical and photoinduced interstrand crosslinking of oligo DNA duplexes containing 2′-deoxythioguanosines”
著者:Jamila Abbas Osman, Kazumitsu Onizuka*, Yuuhei Yamano, Fumi Nagatsugi*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 鬼塚 和光、教授 永次 史
Communications Chemistry
DOI:10.1038/s42004-025-01853-z

東北大学
生命機能分子合成化学研究分野

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 鬼塚 和光(おにづか かずみつ)
電話:022-217-5634
Email:onizuka*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)

東北大学多元物質科学研究所
教授 永次 史(ながつぎ ふみ)
電話:022-217-5633
Email:nagatugi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えて下さい)