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プレスリリース
真に高純度な多孔性高分子の合成法を確立 ─ 高純度化によって機能性高分子材料の潜在機能をはじめて明らかに ─|有機・バイオナノ材料研究分野

発表のポイント

  • 酸化剤(注1)としてヨウ素を使用し重合することで、金属不純物が一切無い高純度な多孔性高分子(POPs: Porous Organic Polymers)(注2)の合成に、初めて成功しました。
  • 高純度なPOPsは、機能発揮において不純物の阻害から解放され、極めて大きな比表面積および選択的な二酸化炭素(CO2)の吸着能を示し、さらに特異的なガス吸着挙動やプロトン伝導性(注3)などの潜在機能を発現することを実証しました。
  • 本手法を用いて従来の機能性高分子材料を見直すことで、材料本来の潜在機能を開拓できます。

概要

POPsは、多数の微細な空孔に加え、高い熱的・化学的な安定性、高密度に機能性部位をもつ構造が特徴の多孔質材料であり、ガスの吸着・分離材料、エネルギー貯蔵材料など、幅広い分野での応用が見込まれています。しかし、POPsの合成時に使用する酸化剤または触媒に由来する金属不純物が空孔内に残存し、比表面積の縮小をはじめとして材料本来の機能発揮を妨げていました。

東北大学 多元物質科学研究所の岡 弘樹 講師と笠井 均 教授、同大学院工学研究科バイオ工学専攻の北嶋 奨羽 大学院生と大窪 航平 大学院生の研究グループは、不純物の残存を最小限に抑えるため、酸化剤としてヨウ素を使用したPOPsの合成法を確立しました。ヨウ素とヨウ素由来の不純物は合成後の洗浄で完全に除去し、不純物が残らない高純度なPOPsを合成することができました。今回合成したPOPsは大きな比表面積および選択的なCO2吸着能を示し、ゲートオープン現象(注4)を伴う特異的なガス吸着挙動やプロトン伝導性などの潜在機能を初めて発現しました。

本研究はPOPsの高純度化により材料本来の性質が発揮されることを明らかにしたものであり、材料本来の潜在機能の開拓に繋がります。

本研究成果は、2025年2月17日付けで、科学誌 Small に掲載されました。

研究の背景

活性炭をはじめとする多孔質材料は、微細な空孔をもち、物質の吸着に優れていることから、身の回りの吸湿剤や脱臭剤など広く使われています。無機材料の活性炭に対し、有機分子を構成要素として含む多孔質材料は、構成する分子のサイズ・形状に応じて多様な空孔形状を示すことから、近年盛んに研究されています。中でもPOPsは非金属元素のみから成るため軽量で、非可逆的な結合から構築されることから、熱および強酸・強塩基に対して高い耐久性をもちます。さらに、モノマーが共有結合で繋がった単純な構造であるため、機能性部位を高密度にもつことから、エネルギー貯蔵材料およびセンシング材料などの幅広い分野での応用が期待されています。

これまでPOPsは、金属塩を酸化剤とした酸化反応または有機金属触媒によるカップリング反応によって合成されてきました。合成時に使用した金属由来の不純物は、合成後に取り除くことが難しく、少なからず材料内に残存します。図1上に示すように、この不純物はPOPsの機能に影響を与え、空孔を埋めることでPOPsの比表面積を縮小させます。そこでPOPs本来の潜在機能を開拓するためには、不純物の残存が無い高純度なPOPsを合成することが不可欠でした。

図1. 本研究のPOPs合成法と従来研究との違い

今回の取り組み

本研究では、図1下に示すように、酸化剤としてヨウ素を使用することで、金属を一切使用することなくPOPsを合成し、エタノールなどの溶剤での洗浄によって、ヨウ素およびヨウ素由来の不純物を完全に取り除くことで、POPsの高純度化に成功しました。図2に示す、本研究で合成したPOPsであるポリトリフェニルアミン誘導体は、合成時に使用するヨウ素の量が増えるに伴って、比表面積が拡大しました。従来のトリフェニルアミンを含むPOPsの比表面積(注5)は2100 m²/g以下でしたが、本研究では、合成条件を最適化した結果、過去最大の比表面積(2134.6 m²/g)を示す POPsが得られました。POPsの大きな比表面積は、CO2吸着能などの性能向上(図3a)およびゲートオープン現象を伴う特異的なガス吸着挙動(図3b)やプロトン伝導性(図3c)などの革新的な潜在機能の発現に繋がりました。以上の結果から、不純物を含むことなく合成された高純度なPOPsが材料本来の性質を発揮することが明らかとなりました。

図2. ヨウ素を酸化剤として使用したPOPs合成の概要図

図3. POPsの(a)CO2の吸脱着等温線(@298 K)、(b)N2の吸脱着等温線(@77 K)および(c)ナイキストプロット(@95% RH, 90℃)

 

今後の展開

本研究によって、ヨウ素の使用によって、金属不純物の残存の無い高純度なPOPsが合成でき、性能向上および潜在機能の発現に繋がることが明らかとなりました。今後は本研究の手法を他の機能性高分子材料へと展開していくことで、高純度化を通じて、材料本来の潜在機能を見直し、開拓できます。

謝辞

本研究は、科研費・基盤研究(B)「持続可能なクリーンエネルギー製造に向けた革新的な有機固体触媒の創製」(JP24K01552)、科研費・挑戦的研究(萌芽)「ヘテロ元素との協奏が導く高分子光触媒の開拓」(JP23K17945)、JST・科学技術イノベーション創出に向けた大学フェローシップ創設事業 (JPMJFS2102)の支援を受けて実施されました。また、掲載論文は「東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業」によりOpen Accessとなっています。

用語説明

注1. 酸化剤: 他の物質から電子を奪うことで、その物質を酸化させる物質のことです。ヨウ素は温和な酸化剤として知られています。

注2. 多孔性高分子(POPs: Porous Organic Polymers): 分子鎖が多孔性のネットワークを形成した高分子のことです。炭素、窒素といった非金属元素から成るモノマーを共有結合で繋ぐことで構造が構築されていることから、軽量で、高い熱的・化学的な安定性をもつことが特徴です。

注3. プロトン伝導性: 材料中のプロトン(水素イオン)の移動のしやすさを示しています。例えば、固体電解質のプロトン伝導性が向上すると、より高効率な燃料電池が実現できます。

注4. ゲートオープン現象: 特定の圧力で、空孔が閉じた構造から、開いた構造へ変化することで、吸着量が大きく増加する現象のことです。この現象が生じるためには、材料の高い柔軟性が必要です。

注5. 比表面積: 単位質量当たりの表面積のことであり、材料の多孔性を示しています。77 Kでの窒素の吸着測定における吸着量から算出します。

論文情報

“Triphenylamine-Based Porous Organic Polymers with High Porosity: Their High Carbon-Dioxide Adsorption and Proton-Conductivity Emergence”
Kohei Okubo, Showa Kitajima, Hitoshi Kasai and Kouki Oka*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 講師 岡 弘樹
Small
DOI:10.1002/smll.202410794

東北大学
東北大学大学院工学研究科
有機・バイオナノ材料研究分野(笠井均研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
講師 岡 弘樹
TEL:022-217-5812
Email:oka*tohoku.ac.jp

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp