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プレスリリース
粒子の破壊現象の解明に効果的な 新しい計算モデルを開発 ─ セラミックス、医薬品、電子部品などの 産業分野への貢献に期待 ─|機能性粉体プロセス研究分野

発表のポイント

  • 「交差結合型離散要素法(Cross Bond Discrete Element Method:XB-DEM)(注1)」と名付けた粒子の破壊現象を解析可能な新規計算モデルを開発し、従来の課題であった計算定数の一意な決定を実現しました。
  • 圧縮試験から計算定数が決定でき、粒子の破壊挙動について実験結果と高い整合性を確認しました。粒子の破壊現象の詳細が解析可能になりました。
  • セラミックス、医薬品、電子部品など幅広い産業分野で必要とされる粒子破壊の制御技術確立への貢献が期待されます。

概要

粒子の破壊現象は、セラミックス、医薬品、電子部品などの加工や成形において要となる現象です。粒子の破壊はその制御が重要となります。これは、粒子をただ破壊するだけでなく、狙った大きさでその破壊を止める工夫が必要なためです。しかしながら、粒子の破壊現象は、十分に解明されておらず、その制御は困難です。この背景には、実験的な解析の難しさに加え、最新の計算科学を応用した解析にも課題があります。それは、破壊現象を忠実にモデル化すると、実験的に決定困難な計算定数が現れることです。そのため、実際の粒子の破壊を模擬した計算は容易ではありません。

東北大学多元物質科学研究所の久志本築 助教らの研究グループは、粒子の破壊現象の解析が可能で、計算定数が実験から一意に決まる計算モデルを新規に構築しました。本研究成果により、粒子の破壊現象の理解の進展が期待されます。

本成果は1月13日、粉体および粒子状物質に関する分野の専門誌Advanced Powder Technologyに掲載されました。

究の背景

粒子の破壊は、どのようにして起こり、どのぐらいの大きさの破片が生成されるのか、といった詳細なメカニズムはいまだに明らかにされていません。そのため、粒子の破壊の制御は、いまだに難しいのが現状です。こうした背景には、粒子の破壊現象が短時間かつ微細な領域で起こるため、実験的な解析が難しいことがあります。そこで、注目を集めているのが計算科学による解析です。計算科学では、粒子の破壊現象をモデル化しコンピュータ上で解析するため、粒子の局所的な力のかかり方や、破壊に伴うエネルギーなど実験では取得困難な詳細な情報を取得することができます。しかし、粒子の破壊現象を忠実にモデル化すると、実験的に決定することが難しい計算定数が現れるため、入力に必要な計算定数が一意に定まらず、実際の粒子を模擬した計算が難しいことが課題でした。

今回の取り組み

東北大学多元物質科学研究所の久志本築助教らの研究グループは、粒子の破壊現象を表現する新しい計算モデルを開発し、「交差結合型離散要素法(Cross Bond Discrete Element Method:XB-DEM)」と名付けました。粒子の破壊特性に関する実験は、圧縮試験(注2)以外に実施することは難しいため、本モデルはこの圧縮試験から得られる荷重変位線図(注3)から、粒子の破壊に関する計算定数が一意に決まるようにモデリングしました。また、本モデルが粒子の破壊を表現する上で有用であることを確認するために、実際に粒子の圧縮試験を行い、XB-DEMの計算定数が一意に決まることと、実験と計算から得られた粒子の破壊挙動を比較しました。その結果、XB-DEMの計算定数は圧縮試験から一意に決定でき、決定された定数を用いて計算した粒子の破壊挙動は、実験と一致することが確認されました(図1および図2)。このことは、粒子の破壊を効果的に解析できるモデルであることを示しています。

図1. XB-DEMを用いて求めた荷重変位線図と圧縮試験結果の比較

図2. XB-DEMにより表現される粒子の圧縮破壊挙動の実験との比較(上が実験、下がXB-DEMによる計算結果)

今後の展開

粒子の破壊現象は、その重要性が認識されていながら、実験的にも計算科学的にもその解析が難しいため、その詳細の理解は進んでいません。そのため、粒子の破壊を抑制したり、狙った大きさに破壊したりといった粒子の破壊の制御は難しいのが現状です。今回開発したXB-DEMは、粒子の破壊現象を効果的に解析できるため、粒子の破壊現象の詳細な機構を把握し、その機構に基づく制御技術の確立が期待されます。したがって、今回の成果は、これまで以上に精密な粒子の破壊現象の制御の実現に貢献することが期待されます。

謝辞

本研究成果の一部は、JSPS科研費(JP22K14525)の支援を受けたものであり、論文は『東北大学2024年度オープンアクセス推進のためのAPC支援事業』によりOpen Accessとなっています。(DOI: 10.1016/j.apt.2024.104762)

用語説明

注1. XB-DEM: 交差結合型離散要素法(Cross Bond Discrete Element Method)の略称です。XB-DEMでは、一つの粒子を複数の構成要素の集合体と考え、その構成要素同士を仮想的に連結させるとともに、構成要素同士の相対的な位置関係をもとに連結を破断させることで、粒子の破壊現象を表現することができる計算モデルです。

注2. 圧縮試験: 試験片を圧縮し、その圧縮面に作用する試験片からの作用力(荷重)と圧縮面の移動距離(変位)の関係を取得する試験のことです。

注3. 荷重変位線図: 圧縮試験から得られる荷重と変位の関係を表すグラフのことです。横軸に変位、縦軸に荷重を取ることが一般的であり、その勾配や急激な荷重の変化から、試験片の硬さや脆さ、粘り強さなどがわかります。

 

論文情報

“Cross bond DEM (XB-DEM) for analyzing deformation and breakage behavior of particles”
Kizuku Kushimoto*, Junya Kano
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 久志本築
Advanced Powder Technology
DOI: 10.1016/j.apt.2024.104762

東北大学
機能性粉体プロセス研究分野(加納純也研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 久志本 築(くしもと きずく)
TEL:022-217-5136
Email: kizuku.kushimto.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)