"
プレスリリース
ナノ粒子界面の違いを20秒で数値化 ─ 凝集防止法を見つけ、本来の機能を生かすことに貢献 ─|機能性粉体プロセス研究分野

国立大学法人東北大学
マジェリカ・ジャパン株式会社

【発表のポイント】

  • 約20秒で、ナノメートルサイズ(以下、ナノ粒子。ナノは10億分の1)の粒子表面の“ちょっとした違い”を検出する方法を提案しました。
  • 時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)(注1という、溶媒のプロトン緩和時間(注2の変化割合によって粒子の分散媒との相性を分析できる手法を用いました。
  • 緩和時間変化から、ナノ粒子表面に導入した官能基(注3の“ちょっとした長さの違い”を見ることができました。

【概要】

私たちの身の回りでは化粧品や医薬品、塗料、電気製品など様々な用途にナノ粒子が使われています。しかしナノ粒子は凝集しやすいため、ナノ粒子が持つ機能性を最大限生かすためには、分散制御が必要です。凝集を防ぐポイントは、粒子の界面にあります。つまり、粒子界面の“ちょっとした違い”を知ることで、凝集を防ぐ方法がわかり、ナノ粒子の本来の特徴を生かした材料創製に繋がります。粒子界面の“ちょっとした違い”を知る方法は、多く報告されていますが、大掛かりな装置が必要なうえに時間がかかり、日々の品質管理手法として使うにはハードルが高いことが課題です。

東北大学多元物質科学研究所の高井(山下)千加准教授らの研究グループは、時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)を用いた分析手法により、ナノ粒子界面の僅かな違いを短時間で数値化することに成功しました。本評価法は試料の前処理が不要で、そのまま装置にセットすれば、約20秒で測定が完了します。

ナノテクノロジー技術は着実に進歩し、ナノ粒子をどのように利用し製品化につなげるかといった実用化に焦点が移行しています。実用化を推進させるためには、凝集状態の制御や構造制御技術などの技術開発が重要です。本研究成果は研究開発だけでなく、ナノ粒子からなる高機能材料品質管理での活躍など、ナノ粒子実用化の一助となると期待されます。

本研究成果は、2024年8月5日付けで科学誌Advanced Powder Technologyにオンライン掲載されました。

研究の背景

ナノ粒子は、様々な場面で私たちの生活を支えています。それらの多くは、粒子を液中に均一に溶かした分散液という形を介して、製品となっていきます。100 nm以下のナノ粒子は、マイクロメートルサイズの粒子と比べて、特異な物理化学的性質を持ち、様々な製品に応用されています。一方で、自重よりも表面自由エネルギーが大きくなるため凝集しやすいという性質も持っています。凝集により、ナノ粒子が本来持っている特異な性質は多くの場合失われてしまいます。そのため、化学的にナノ粒子表面を改質することで、分散媒体に対する粒子の分散性を向上させるという試みがなされています。

表面改質方法は、液相法・気相法に分けられ、どのような改質剤をどのような条件で粒子表面と反応させるか、その条件は非常に多岐にわたります。したがって、目的の分散媒体に、再現性良く安定してナノ粒子を分散させるには、試行錯誤が必要になってきます。

東北大学多元物質科学研究所の髙井(山下)千加准教授(クロスアポイントメント:岐阜大学工学部准教授)は、工業的な利用を見据えてナノ粒子表面や界面を簡易に評価できる手法を模索し、その中で時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)に着目してきました(図1)。これまでに、シリカナノ粒子(Takai et al., KONA 2020)や繊維状ナノ粒子(Takai & Ikeda et al., Cellulose 2022)、昆虫の糞(Takai & Ikeda et al., Adv. Powder Technol., 2022)など様々な形態・対象の粉の緩和時間を調べ、その現象の理解につとめてきました(図2)。本研究では、さらに、ナノ粒子界面に微細な違いを人工的に作り、同研究室の池田純子客員准教授(マジェリカ・ジャパン(株)代表取締役)と協力することで、緩和時間変化が表す現象を実験的に明らかにすることができました。

図1. 時間領域核磁気共鳴(TD-NMR)の概要

図2. TD-NMRを使って様々な対象を測ることができる

今回の取り組み

ナノサイズのシリカ粒子を対象とし、その表面に鎖長の異なる官能基を、異なる改質率(1.4/n㎡)で導入しました。これらの改質粒子を有機溶媒に分散させ緩和時間を測ると、鎖長の違い・改質率の違いが顕著に現れることがわかりました。緩和時間変化が表す現象をより深く理解するために、二種類の極性の異なる有機溶媒を混合し、改質粒子を分散させ緩和時間を測りました。その結果、特に長い鎖長を持つ官能基が導入された粒子の緩和時間は、特定の溶媒混合比で約200ms短くなることがわかりました(図3)。つまり、二種類の溶媒のどちらかと粒子表面の親和性が劇的に向上したことを表します。粒子表面の小さな違いを緩和時間で評価することが可能であることがわかりました。

図3. ナノ粒子表面の“ちょっとした違い”が緩和時間変化に現れた

今後の展開

粒子表面を分析する手法は、これまでにも多く報告されてきていますが、TD-NMRのように、20秒という短時間で、“ちょっとした違い”を検出する方法は現段階では報告がありません。ナノ粒子が持つ性質を最大限生かすためには、季節や作業者の違いなど環境変化に敏感なナノ粒子の表面を把握し、粒子と分散媒体との親和性を知り、再現性・信頼性よく粒子表面を設計していくことが不可欠です。このような日々の品質管理法としてTD-NMRは最適であるといえます。

謝辞

本研究の一部は、(株)アントンパール・ジャパン、日本アエロジル(株)の協力、またJST A-STEPトライアウト(JPMJTM20P1)、粉体工学情報センター、ホソカワ粉体工学振興財団、東京スクリーン奨励賞、シーシーアイ(株)、Future Fiber Factory(FFF)の助成により実施されました。

 

用語説明

注1.時間領域核磁気共鳴(TD-NMR): 核磁気共鳴(NMR)は、強い磁場の中に試料を置き、核スピンの向きを揃えた分子にパルス状のラジオ波を照射して核磁気共鳴させた後、分子が元の安定状態に戻る際に発生する信号を検知して、分子構造などを解析する手法。化学、物理学、生物学、医学、農業、食品、バイオテクノロジー、医薬品、高分子など、様々な分野で使用されている.NMRには、高分解能NMRと低分解能(低磁場)NMRの2種類がある。低磁場NMRを時間領域核磁気共鳴(TDNMR, time domain NMR)とも呼ぶ。試料中の分子の物理的性質を評価するために用いられる。装置は永久磁石を用いており、卓上型で冷媒の必要がない。高分解能NMRシステムに比べてはるかに安価で、設置環境の要求も少ないため、研究所だけでなく工場でも使用にも適している。

注2.緩和時間: NMRで試料に磁場を印加して非平衡状態にした後、磁場印加を止めて平衡状態に戻ることを緩和と言う。非平衡状態から平衡状態に戻るまでの時間が緩和時間。

注3.官能基: 有機化合物の中にある特定の構造を持つ原子団のこと。有機化合物の性質や反応性を特徴づける。水酸基(-OH)、カルボシキル基(-COOH)などがある。

論文情報

“A time-domain nuclear magnetic resonance (TD-NMR) as a tool to characterize affinity between partially hydrophobic silica nanoparticles and ethanol/hexane mixtures”
Atsushi Teramae, Chika Takai-Yamashita*, Junko Ikeda, Seiji Yamashita, Motoya Sugiura, Ariga Kato, Yutaka Ohya, Paul Kinyanjui Kimani
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 髙井(山下)千加
Advanced Powder Technology
DOI:10.1016/j.apt.2024.104593

東北大学
マジェリカ・ジャパン株式会社
▶ 機能性粉体プロセス研究分野(加納純也研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 高井(山下)千加
TEL: 058-293-2584
Email: chika.takai.a1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

マジェリカ・ジャパン株式会社
TEL: 04-7189-8158
Email: info*mageleka-japan.com(*を@に置き換えてください)