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プレスリリース
新しい酸化チタンの高品質結晶合成に成功 環境に優しい光・電子デバイスの実現へ

発表のポイント

・酸化チタンの一種であるラムダ型5酸化3チタンの高品質単結晶合成に初めて成功した。
・薄膜技術による構造の安定化を活用し、従来よりも100万倍大きな結晶が得られた。
・この成果は、持続可能な社会の実現に向けた環境負荷の小さい光・電子デバイスの創生につながると期待される。

概要

 安価で安全な材料の開発は、持続可能な社会を実現に重要な研究課題です。酸化チタンの一種であるラムダ型5酸化3チタンは、外からの刺激で自身の構造が変化する特徴から、光・電子デバイス材料に有望と考えられています。しかし、ナノメートルサイズの微小な結晶しか得られず、応用への障害となっていました。東北大学多元物質科学研究所の吉松公平講師と組頭広志教授は、薄膜技術による構造安定化を活用し、従来よりも100万倍大きな高品質単結晶の生成に成功しました。
 今後、この成果を用いて環境負荷の小さな光・電子デバイスを創生し、持続可能な社会の実現に貢献することができます。
 本研究成果は、アメリカ化学会発行の論文誌 Crystal Growth & Design に2021年12月15日付け(米国時間)で公開されました。
プレスリリース本文(PDF)

研究背景

 光触媒効果を示す二酸化チタン(TiO2)はビル外壁など様々な場所に用いられている機能性材料です。TiO2から酸素量がわずかに少なくなったTi3O5はα型、β型、γ型、δ型、λ型と様々な結晶多形(注1)を持つ物質です。この中でλ型は準安定(注2)な結晶であり、外から光・電流・圧力の刺激を加えることで別の型へと変化することが知られています。外からの刺激で型を自在に変えられる特徴から、例えば光を利用する場合には書き込み可能な光学メデイア(CD-R、DVD-RWなど)に、電流を利用する場合には相変化メモリ(注3)へと応用することができます。しかし、λ型Ti3O5は結晶サイズの問題があり、応用への道が閉ざされていました。λ型Ti3O5は準安定な型であり、これまでナノメートルサイズの非常に小さな粒子しか合成できていません。光学メデイアやメモリ応用には大きなサイズの高品質な結晶が必要不可欠です。

研究内容

 東北大学多元物質科学研究所の吉松公平講師らは、薄膜技術を活用し、大面積かつ高品質なλ型Ti3O5の結晶合成に取り組みました。薄膜では下地基板からの力を利用することで、準安定な結晶を安定に取り出すことができます。そこで、パルスレーザ堆積法(注4)と呼ばれる薄膜合成法を用い、気化したTiO2原料を1100℃の超高温で堆積することで、基板上に直接λ型Ti3O5を合成することに成功しました。図1が実際に合成したλ型Ti3O5薄膜の写真です。5 mm角の基板上に均一にλ型Ti3O5が形成されており、従来に比べて100万倍の大きさの結晶が生成できていることがわかります。
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図1: λ型Ti3O5薄膜の写真。
5 mm角の基板上にλ型Ti3O5が均一に形成されており、これまでのナノメートルサイズの粒子と比較して100万倍の大きさで結晶が生成できていることがわかる。

また非常に高精度な透過型電子顕微鏡(注5)を用い、薄膜中のチタン原子1つ1つを直接観測しました。その結果、λ型の結晶構造が基板直上から形成していることが明らかになりました(図2)。
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図2: λ型Ti3O5薄膜の電子顕微鏡写真。
薄膜部分の白い点はチタン原子を示す。電子顕微鏡写真から1つ1つの原子が明瞭に観測され、薄膜がチタン原子の六角形構造を持つことがわかる。λ型Ti3O5の結晶の模式図とチタン原子の配置が一致していることから、λ型Ti3O5薄膜が基板上に直接形成していることがわかる。

さらにX線回折(注6)測定から、薄膜全体の結晶の整列度合いを評価しました。λ型が持つ平行四辺形の構造が一方向に傾いている様子が観測され、傾きの反転により生じる欠陥のない非常に高品質な薄膜が形成できていることがわかります(図3)。
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図3: λ型Ti3O5薄膜の結晶構造の整列。
(左)X線回折測定結果。試料を両方向から見た2つの測定で別々の角度に単一のピークが見えており、薄膜全体で結晶が傾き反転せずに一様に整列していることがわかる。(右)λ型Ti3O5の結晶整列の模式図。上の図は本研究の傾き反転無しを示す。下の図のように傾きが反転すると欠陥構造が生じ、結晶の品質が悪化する。

今後の展望

 今回の成果は、外からの刺激で型を自在に変えられるλ-Ti3O5の、大面積かつ高品質な薄膜合成に初めて成功したものです。今後、このλ-Ti3O5薄膜を用いて光や電流刺激による相転移発現を進めることで、光・電子デバイスへの応用が期待されます。λ-Ti3O5はTiO2を原料とするため、安価かつ安全な材料です。そのため、λ-Ti3O5で環境負荷の大きな既存の光・電子材料の代替を進めることで、持続可能な社会の実現に貢献できます。

研究支援

 本成果は、日本学術振興会 科学研究費補助金(Nos. 19H02588, 20K20887)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 チーム型研究CREST(No. JPMJCR18T1)、文部科学省元素戦略プロジェクト<拠点形成型>(No. JPMXP0112101001)、公益財団法人マツダ財団、公益財団法人旭硝子財団、公益財団法人双葉電子記念財団、公益財団法人永守財団、公益財団法人日本板硝子材料工学助成会の支援のもの行われました。

論文情報

“Direct Synthesis of Metastable λ-Phase Ti3O5 Films on LaAlO3 (110) Substrates at High Temperatures”
Kohei Yoshimatsu and Hiroshi Kumigashira
Crystal Growth & Design
DOI:10.1021/acs.cgd.1c01214

用語説明

(注1)結晶多形
 物質において原子の組成は同じであるが、原子の配置が異なるもの。例えば、黒鉛とダイヤモンドは共に炭素原子で構成されるが、炭素原子の配置は両者で全く異なるため、性質が大きく異なる。

(注2)準安定
 最も安定ではないが、外から大きな刺激を加えない状況では安定であること。例えば水は0ºCで氷になるが、ゆっくり冷やすことで0ºC以下の準安定な水を作ることができる(過冷却)。

(注3)相変化メモリ
 物質の相の電気抵抗値の違いを利用して情報記録を行う記憶素子。次世代の情報記録技術として期待されている。

(注4)パルスレーザ堆積法
 原料にレーザを照射し、原料を気化することで薄膜を堆積する手法。酸化物材料の薄膜を形成する手法として一般的に用いられる。

(注5)透過型電子顕微鏡
 非常に薄くした試料に電子線を照射し、試料を透過した電子線の回折から試料の構造を観測する顕微鏡。超高速に加速した電子線を用いることで、原子1つ1つを見ることもできる。

関連リンク:
東北大学
ナノ機能物性化学研究分野(組頭研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
講師 吉松 公平(よしまつ こうへい)
電話: 022-217-5801
E-mail:kohei.yoshimatsu.c6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)