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プレスリリース
コバルトフリー正極の安定な高電圧動作に成功 ~リチウムイオン電池素材のサプライチェーンリスク回避に期待~

発表のポイント

・コバルトフリーなリチウムイオン電池正極LiNi0.5Mn1.5O4の高電圧作動に成功
・新規フッ化物固体電解質注1)のコーティング技術開発により高電圧作動が実現
・5V級リチウムイオン電池や全固体電池として高エネルギー密度化に期待
・コバルトフリーによりサプライチェーンリスクを回避して低コスト化

概要

 現在、リチウムイオン電池正極にはコバルトが使用されていますが、電気自動車などの世界市場が急拡大している状況の中、2030年までには需要が供給を上回りコバルトの逼迫が予想されています。しかもコバルト鉱石はコンゴ1国が世界の50%以上を生産している上に、製錬したコバルト地金の60%以上は中国で生産されているため、コバルトのサプライチェーンリスクへの不安が増しています。
東北大学多元物質科学研究所 小林弘明助教、本間格教授らは、この課題解決のためコバルトフリー正極の利用技術開発を行いました。コバルトを含まないスピネル構造のLiNi0.5Mn1.5O4は高電圧・高エネルギー密度の有望な正極活物質として期待される反面、5V級の高電位作動であるため、安定な充放電を行うことに難がありました。今回、新規に開発したフッ化物固体電解質を薄膜コーティングすることでコアシェル構造正極LiNi0.5Mn1.5O4を作製し、リチウムイオン電池の安定した高電圧作動を実証しました。高エネルギー密度の5V級リチウムイオン電池や全固体電池への応用が期待されます。
 本成果は、2021年9月14日に「ACS Applied Energy Materials」誌にオンライン掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)

詳細な説明

研究の背景と経緯
 地球温暖化対策および脱炭素経済のキーテクノロジーとして最も期待を集めているのが太陽光・風力発電、燃料電池、蓄電池などの電力エネルギーデバイスの普及拡大です。特に近年はリチウムイオン電池(LIB)を搭載したハイブリッド・電気自動車等のエコカー市場が急拡大していく中で、将来的に大きな問題となるのがLIB部材に用いるレアメタルの資源的な制約です。例えば正極材料の構成元素であるコバルトはLIB市場の指数関数的増大により2030年までに逼迫することが確実視されています。コバルトの資源的制約とサプライチェーンリスクを回避し、さらに産業競争力向上も狙うのならコバルトフリーで低コストの金属資源を用いた正極材料の開発が重要です。LIBのコバルトフリー化のオプションの一つはスピネル構造のニッケルマンガン酸化物LiNi0.5Mn1.5O4(LNMO)の適用です。しかしながら、LNMOの問題点は動作電圧が4.7 Vと、現行LIBの3.7 Vと比べ非常に高電圧であるため、電解液などの分解が生じて充放電サイクルが困難になる課題がありました。この課題を解決するために、高電位正極の表面を耐電圧性の高い固体電解質でコーティングすることにより劣化を抑制する技術開発を行いました。

研究の内容
 LNMOへのコーティング剤としてLi3PO4、LiNbO3などが知られています。本研究ではより耐電圧性の高い固体電解質としてフッ化物を選択し、特に十分なリチウムイオン伝導性、耐電圧性、化学的安定性を有するLi3AlF6(LAF)を開発しました。これをLNMO表面に薄膜コーティングしたコアシェル構造型正極材料(図1)を作製した結果、5 V級の高電位で100回以上の安定な充放電サイクル特性を実証しました(図2)。今回開発したLAFはLNMOに対し十分な耐高電圧性・リチウムイオン導電性・化学的安定性を有することが量子計算によって示されています。コーティングがされていない正極表面では、高電圧動作により生じた電解液の分解物が徐々に堆積し、電気抵抗が増大し劣化しましたが、コーティングを施した正極では電解液の分解が抑えられたため、高いサイクル特性を示したと考えられます。

今後の展望
 本研究で開発したフッ化物固体電解質はリチウムイオン伝導性と耐電圧性を兼ね備えているため、①5 V級リチウムイオン電池、②コバルトフリー正極材料、③全固体電池、などのポストリチウムイオン電池への応用が期待されます。また、フッ化物固体電解質の薄膜コーティングは様々な正極に適用可能であり、またLAF以外のフッ化物も合成出来るため、幅広い正極材料開拓が可能です。さらに材料開発によりフッ化物固体電解質のリチウムイオン伝導度を向上させれば車載電池の本命である全固体電池の高エネルギー密度化も期待できます。

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図1 コーティング正極表面の電子顕微鏡像。LNMO結晶、LAF結晶に由来する縞模様が観察され、LAF層の厚みは約2 nmであった。

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図2 繰り返し充放電における放電容量。LAFでコーティングした正極は、コーティングしていない正極と比べ放電容量を維持している。

 本研究の一部は、JSPS科研費 若手研究 (19K15668)、JST ALCA-SPRING (JPMJAL1301)の支援を受けて行われました。

論文情報:
Effective Li3AlF6 Surface Coating for High-Voltage Lithium-Ion Battery Operation
Hiroaki Kobayashi, Guohao Yuan, Yoshiyuki Gambe, Itaru Honma
ACS Applied Energy Materials
DOI:10.1021/acsaem.1c01885

用語説明:
注1.固体電解質:固体状態で高いイオン伝導性を示す材料。リチウムイオン導電性固体電解質を用いた全固体電池の開発が世界的に進められている。

関連リンク:
東北大学ウェブサイト
エネルギーデバイス化学研究分野

問い合わせ先

東北大学多元物質科学研究所 
助教 小林 弘明 (こばやし ひろあき)
E-mail:h.kobayashi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

教授 本間 格 (ほんま いたる)
E-mail:itaru.homma.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください) 
電話:022-217-5816/5815


東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
電話:022-217-5198