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プレスリリース
ナノ触媒のリサイクル法を開発 超臨界流体を利用して活性面を短時間で再生することに成功

発表のポイント

・ナノ触媒は、特定の結晶面を露出することで高い活性を発現する反面、劣化しやすい
・劣化したナノ触媒を、超臨界水注1)中で処理し、10分程度の短時間で劣化前の状態に再生する手法を開発した
・形状の再生にともない、ナノ触媒の触媒活性も回復する
・再利用が可能となることで、環境適合性、経済性が向上し、ナノ触媒の工業的利用が加速することが期待される
・同処理で既存の触媒の露出結晶面制御による高活性化も可能となる

概要

 近年、ナノキューブ、ナノロッド、ナノワイヤー、ナノプレートなど、特徴的な形状を持つナノ触媒材料の開発が盛んに進められています。ナノ触媒は、特定の結晶面を露出することで高い活性を発現する反面、使用時に特定の結晶面が失われ劣化しやすいことで知られており、実用化に課題がありました。
 東北大学多元物質科学研究所 笘居高明准教授、材料科学高等研究所 阿尻雅文教授らの研究グループは、劣化したナノ触媒に対し、短時間の超臨界水処理を行うことで、表面の原子を再配列させ触媒活性の高い結晶面を再生する手法を開発しました。この処理により、劣化したナノ触媒の触媒活性が回復することも確認できています。
本手法によりナノ触媒の再利用が可能となることで、今後ナノ触媒の工業的利用が加速することが期待されます。さらに本手法は、汎用性の高い触媒調整技術としても今後の実用化が期待されます。
 本研究成果は、9月13日(現地時間)に米国化学会の雑誌 Chemistry of Materials のオンライン版に掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)

詳細な説明

 近年、ナノキューブ、ナノロッド、ナノワイヤー、ナノプレートなど、特徴的な形状を持つナノ触媒材料の開発が盛んに進められています。これらのナノ触媒は、ナノサイズ化にともなう大きな比表面積と、特定の結晶面を優先的に露出していることが特徴で、希少で高価な貴金属添加なしに、高い触媒活性や、新機能発現が可能となります。
 しかし、触媒活性の高い結晶面は熱力学的に不安定な場合が多く、触媒利用時に生じる表面原子拡散により、活性の低い熱力学的安定面へと変化しやすいことが知られています。露出結晶面が制御されたナノ触媒の実用化のために、劣化したナノ触媒の再生手法の開発が望まれていました(図1)。
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図1. 露出結晶面が制御されたナノ触媒の劣化と再生
 
 ナノ触媒の再生手法の開発のために、本研究では、超臨界水中における溶解―再析出現象を利用しました。超臨界水中では、常温では混ざり合わない水と有機物が均一相を形成します。特にデカン酸などの有機酸は、超臨界水中において特定の結晶面を露出したナノ触媒の合成を促進すること、また、金属イオンと錯体を形成し、金属や金属酸化物の溶解度を向上させることが分かっていました。

 笘居准教授らの研究グループは、この超臨界水中における有機酸(デカン酸)の持つ特定の結晶面の露出を促進する効果と、溶解度向上効果に着目し、ナノ触媒の一部を超臨界水中で溶解させ、特定の結晶面を露出するよう再析出(再配列)させることで、ナノ触媒の形状を制御する手法を開発しました(図2)。
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図2. ナノ触媒再生メカニズム
 
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図3. 酸化セリウムナノ触媒のTEM像((A)劣化時、(B)超臨界水処理による再生後)と各段階における酸化触媒活性の指標である酸素吸蔵放出能(OSC)(論文より転載)

 本研究では、デモンストレーションとして、(100)結晶面の露出により、低温での酸化能力が向上することで知られる酸化セリウム注2)を用いました。酸化セリウムの(100)面が選択的に露出すると粒子はサイコロ状になります。図3に長時間熱処理により意図的に劣化させた酸化セリウムナノ触媒(A)とそれを10分間の超臨界水処理により再生させたサンプル(B)のTEM(透過型電子顕微鏡)像を示します。劣化状態では、球状の粒子が多く見られるのに対し、処理後の状態ではサイコロ状の酸化セリウムナノ粒子が支配的となります。さらに、形状の変化に伴い、低下していた触媒活性が回復することも確認できました(C)。
 本手法によりナノ触媒の再利用が可能となることで、環境適合性、経済性が向上し、ナノ触媒の工業的利用が加速することが期待されます。さらに本手法により、既存触媒の露出結晶面制御による高活性化も可能となることから、汎用性の高い触媒調整技術としても今後の実用化が期待されます。

用語解説:
注1)超臨界水
 水の臨界点は、374℃、218気圧(22.1 MPa)で、これより温度と圧力の高い水を超臨界水とよびます。超臨界水のもつ特徴の一つに、油のような有機溶媒と混ざりやすいことが挙げられます。

注2)酸化セリウム
 酸化セリウムは、セリアともよばれ、酸素欠陥を形成しやすいという特徴から、可逆的な酸素の吸蔵放出が可能で、自動車排ガス用の酸化触媒として利用されています。特にナノ粒子化し、露出結晶面を制御した酸化セリウムナノ粒子は、低温でも高い酸化力を発現することから、低温メタン改質や低温プラスチックガス化などへの応用が検討されています。

論文情報
“Facile Regeneration Strategy for Facet-Controlled Nanocatalysts via Dissolution-Reprecipitation Process Promoted by Organic Modifier”
Takaaki Tomai*, Liangyu Tang, Akira Yoko, Yuki Omura, Gimyeong Seong, Tadafumi Adschiri*
Chemistry of Materials (ACS Publications)
DOI:10.1021/acs.chemmater.1c02145
 
本研究は、以下の事業等からの支援を受けて行われました。
日本学術振興会(JSPS) 
・ 科学研究費補助金 基盤研究(S)(JP16H06367)「超臨界フルイディックセラミクスによるサーマルマネージメント材料創製」
科学技術振興機構(JST)
・ 未来社会創造事業 探索加速型「地球規模課題である低炭素社会の実現」領域「低温改質によるC1化学の低エネルギー化」(JPMJMI17E4)
・ 戦略的創造研究推進事業 CREST「メタンから低級オレフィンへの直接転換を可能にする金属超微粒子を担持した複合酸化物触媒材料の創製」(JPMJCR16P3)
文部科学省 
・ 材料の社会実装に向けたプロセスサイエンス構築事業(Materealize)(JPMXP0219192801)
・ 世界トップレベル研究拠点プログラム (WPI)
・ 人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス
日揮・実吉奨学会研究助成
 
 
関連リンク:
東北大学
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
東北大学未来科学技術共同研究センター
超臨界ナノ工学研究分野(阿尻雅文研究室)
 

問い合わせ先

<研究に関すること>
東北大学多元物質科学研究所
准教授 笘居 高明(とまい たかあき)
電話:022-217-6322
E-mail:takaaki.tomai.e6*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

<報道に関すること>
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)広報戦略室
電話:022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)