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プレスリリース
強誘電性と半導体特性が両立する 新しい有機分子の開発に成功 ─ 単一分子で作る有機メモリ素子の実現に期待 ─|ハイブリッド材料創製研究分野

国立大学法人東北大学
国立大学法人信州大学
国立大学法人京都大学

【発表のポイント】

  • 分子の設計指針が異なる有機半導体(注1と有機強誘電体(注2、それぞれに必要とされる集合体構造を両立して実現可能な有機分子を開発しました。
  • 単一有機分子で、半導体特性と強誘電性の両立をデバイス構造で観測しました。
  • 強誘電体の外部電場応答性を利用し、有機半導体デバイスのON/OFFスイッチングを実現しました。次世代高密度メモリへの展開が期待できます。

【概要】

有機材料は、その分子集合様式や分子間に働く様々な相互作用を化学的に制御することによって多彩な機能を引き出すことができます。現在の電子デバイスのほとんどはシリコンに代表される無機材料で作られていますが、有機材料に置き換えることによって、柔らかくて曲げに強い、真空装置がいらない印刷技術で、短時間で製造できるなど様々な利点があります。

研究グループは、高いホール移動度を有する半導体特性を有する有機材料のベンゾチアノベンゾチオフェン(BTBT)3骨格に極性水素結合4ネットワークを導入して強誘電性を発現させ、半導体特性との両立に成功しました。半導体特性と強誘電体特性は、外部電場に対して電流を流す性質と電荷を保持する性質であり互いに相反する物性であることから、その分子設計の指針は異なります。今回これらを両立させることにより、外部電場に応答可能な分子集合体の創製が可能となり、有機半導体特性のON/OFF制御の実現に成功しました。本成果は、次世代有機エレクトロニクスの機能制御のための技術開発に新たな可能性を拓くと期待されます。

本研究の成果は米国現地時間の2024年3月14日、学術誌Journal of the American Chemical Societyにてオンライン掲載されました。

なお本成果は、東北大学多元物質科学研究所 大学院生(大学院工学研究科)の三部宏平氏と芥川智行教授、信州大学学術研究院理学系の武田貴志准教授、新潟大学教育研究院自然科学系の星野哲久特任准教授、京都大学大学院工学研究科の関修平教授と松田若菜博士、東北大学大学院工学研究科の松本祐司教授と丸山伸伍准教授および山本俊介助教、同 大学院生(研究当時)の島田一輝氏と辻田香奈瑛氏らの共同研究によるものです。

 

【詳細な説明】

研究の背景

最新の電子材料には、膨大な情報をリアルタイムで処理する能力が求められています。軽量性・柔軟性を持ちながら様々な場所に設置可能で、かつ環境変化に応答可能な有機材料の開発が活発に行われています。例えば、有機半導体は、極薄ディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、ウエアラブル計測デバイスの医療応用などで注目を集めています。有機材料の物性は、分子配列様式やその運動性により支配され、適切な分子間相互作用の設計により、物性制御が可能となり、これまでに実現不可能であったメモリ機能や高感度センシング機能の発現が期待できます。例えば外部電場による分極反転を示す有機強誘電体では、双極子モーメント5を反転可能とするダイナミックな結晶空間が実現できます。有機半導体デバイスに外場応答性を付与できれば、新しいデバイス動作メカニズムによる材料創製が考えられます。有機半導体における電子と強誘電体における双極子モーメントに対する運動自由度の設計は、有機分子の緻密な分子設計から可能となります。

今回の取り組み

本研究グループは、これまでにアルキルアミド基6を導入したπ共役分子7

がアミド基間で極性水素結合ネットワークを形成し、その方向が外部電場により反転することで強誘電性を示すことを報告してきました。さらに高性能な有機半導体を形成するベンゾチアノベンゾチオフェン(BTBT)にテトラデシルアミド基(-CONHC14H29)を導入したBTBT-CONHC14H29を新規に合成し、その半導体特性と強誘電性を報告しました(ACS Appl. Mater. Interfaces. 2023, 15, 58711−58722)。BTBTは、分子中に含まれる硫黄原子間の分子間相互作用により、多様な分子集合体で高いキャリア移動度8を有する二次元電子構造を形成します。分子間アミド水素結合、硫黄-硫黄原子間相互作用、π-π相互作用を適切に分子設計することで、強誘電性と二次元有機半導体の共存が可能となります。しかしながらこれまでの研究では、BTBTが形成する有機半導体のHOMO準位9が低下し、安定なデバイス動作には至りませんでした。そこで本研究では、さらなる分子設計を進めることでBTBT-CONHC14H29の「CO」と「NH」の原子配置を置き換えた新たな分子BTBT-NHCOC14H29(図1。呼称:分子1)を作製し、HOMO準位を上昇させることで有機半導体特性および強誘電性の安定な共存に成功しました。

図1.分子1の構造。赤:テトラデシルアミド基。青:BTBT骨格

単結晶X線構造解析から、有機半導体が形成する二次元電子構造とアミド基の一次元極性水素結合鎖の共存が確認されました(図2)。真空蒸着と熱処理により製膜した分子1の薄膜を、トップコンタクト型の有機電界効果トランジスタ10(OFET)の活性層に適用したところ、有機半導体に特徴的なデバイス特性が得られ、安定なデバイス応答を可能とする1.0×103 cm2 V1 s1のホール移動度11を示しました(図3左)。同時に、電場-分極(PE)応答12の測定では、強誘電体に特徴的なヒステリシスの観測にも成功しました(図3右)。今回新たに設計した分子1は、半導体特性と強誘電性の両方が安定に共存することが明らかとなりました。

図2. BTBT-NHCOC3H7の結晶構造。
赤色背景:アミド基間の極性水素結合鎖による強誘電体。青色背景:BTBT間の二次元配列による有機半導体。

図3.分子1を活性層に用いたOFETデバイスの出力特性(左)および電場-分極極性(赤)と電場-電流密度(黒)応答曲線(右)。

半導体と強誘電体特性の二つの異なる物性間の相関を評価するため、電場による分子配向制御技術であるポーリング13の前後におけるデバイス特性を検討しました。ポーリングは、デバイスを443 K(170℃)に昇温して70 Vの電圧を印加した状態で、室温まで冷却することで行いました。結果、ポーリング処理後のデバイスでは、半導体特性が失われることが明らかになりました。さらに、このデバイスを再度昇温させると、半導体特性が復活することが明らかになりました(図4左)。このデバイスの構造評価から、外部電場に応答した分子配向変化が半導体特性のON/OFFスイッチングを実現したことがわかりました(図4右)。精密な分子設計により、強誘電体の外部電場応答性を有機半導体に導入することで、新たな動作原理による有機半導体特性のON/OFFスイッチングを実現しました。

図4.ポーリング処理とアニーリング処理に対する薄膜有機トランジスタのON/OFFスイッチング(左)と基板上における分子配向状態の変化(右)。

今後の展開

強誘電性と半導体特性が両立した有機材料の開発は、既存の強誘電体メモリ素子のデバイスアーキテクチャの大幅な簡略化を可能とします。今回、強誘電体の外部電場応答性が、有機半導体の物性制御の手法として利用できることが明らかとなりました。従来の強誘電体メモリ14では、電気的な刺激を電荷蓄積として記録するメカニズムで動作していました。本研究では、分子配向を記録する、新しいメカニズムによるメモリ材料の開発も視野に入ると期待できます。有機材料の利点である軽量性・柔軟性・可塑性を利用した外場刺激応答性の電子材料をさらに発展させることで、あらゆる空間でリアルタイムに記録・演算を実現可能な次世代有機デバイスの開発が可能となります。

【謝辞】

本研究は、科研費 新学術領域研究「π造形化学」JP26102002、学術変革領域A「高密度共役の科学」JP20H05865、科学技術振興機構 戦略的創造研究事業「熱制御」JPMJCR18I4の支援を受けて実施されました。

【用語説明】

注1.半導体: 電気を良く通す導体と絶縁体との中間の性質を持つ物質や材料。半導体を材料に用いたトランジスタや集積回路に利用されています。

注2.強誘電体: 外部に電場がなくても双極子モーメントが整列しており、かつその方向が外部電場に対して反転できる物質です。双極子モーメントが自発的に整列した状態が強誘電状態でランダムな状態が常誘電体となり、温度により常誘電体-強誘電体相転移を示します。

注3.ベンゾチアノベンゾチオフェン(BTBT): 2つのチオフェン環と二つのベンゼンが縮環した電子供与体であり、ホールをキャリアとする優れたp型有機半導体材料として有機エレクトロニクスで用いられています。

注4.極性水素結合: 水素結合は、電気陰性度が大きな原子に共有結合で結びついた水素原子が、窒素、酸素、フッ素などの孤立電子対とつくる非共有結合性の引力的相互作用です。極性水素結合は、異なる種類の原子間に位置する水素原子から形成し、双極子モーメントが存在します。

注5.双極子モーメント: 双極子とは、一対の正負の同じ大きさの単極子をわずかに離れた位置に置いたものであり、負から正の方向ベクトルとその大きさとの積で特徴づけられるベクトル量を双極子モーメントと呼びます。

注6.アルキルアミド基: アルキル基と−CONH−または−NHCO−基が結合した置換基であり、直鎖アルキル鎖の場合、−CONHCnH2n+1または−NHCOCnH2n+1で表すことができます。

注7.π共役分子: 二重結合と単結合が交互につながった芳香族分子であり、π電子が自由に動き回ることができるため、導電性や発光性などの特異的な性質を示し、トランジスタ、エレクトロルミネッセンス、太陽電池などの電子デバイスの材料として用いられています。

注8.キャリア移動度: 電子デバイスで電気を運ぶ電子や正孔(電子の空いた孔)をキャリアと呼びます。外部から電場を印加した時にキャリアが移動する速度をキャリア移動度と言います。

注9.HOMO準位: Highest Occupied Molecular Orbital(最高被占軌道)準位の略であり、電子に占有されている分子軌道のうちエネルギーの最も高い軌道です。有機半導体では、HOMO準位と真空準位のエネルギー差がイオン化エネルギーとなります。逆にエネルギーが最も高い軌道をLowest Unoccupied Molecular Orbital(最低空軌道)準位と呼び、LUMO準位と略します。

注10.有機電界効果トランジスタ(OFET): トランジスタの活性層に有機材料を用いた電界効果トランジスタのことであり、真空蒸着や溶液塗布によって作成することができます。低コストかつ大面積な電子デバイスの実現をめざして開発が進められています。

注11.ホール移動度: 物質に電圧を印加したときの、単位電界あたりのキャリア(電子またはホール)の平均速度になります。薄膜トランジスタの移動度は、電界効果移動度と呼ばれます。

注12・電場-分極(PE)応答: 強誘電体に電圧をかけると、外部電場の向きに応じて正と負にその符号を変化することができ、それを自発分極と呼びます。強誘電体では、電場-分極ヒステリシス曲線で、外部電場を0にした時に表面に残っている分極の値を残留分極 Prとよび、外部電場により分極の符号が反転できます。

注13.ポーリング: 分子配向技術の中で、外部から電場を印加して材料に自発分極を生じさせる処理のことです。

注14.強誘電体メモリ: FeRAMと呼ばれる不揮発性のメモリであり、強誘電体の電場-分極曲線のヒステリシス(履歴)現象に依存した正負の残留分極をデジタルデータの1と0に対応させたメモリです。

 

論文情報

“Carrier Transport Switching of Ferroelectric BTBT Derivative”
Kohei Sambe, Takashi Takeda*, Norihisa Hoshino, Wakana Matsuda, Kazuki Shimada, Kanae Tsujita, Shingo Maruyama, Shunsuke Yamamoto, Shu Seki, Yuji Matsumoto and Tomoyuki Akutagawa*
* 責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 芥川智行
信州大学学術研究院理学系 准教授 武田貴志

Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.4c00514

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問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 芥川 智行(あくたがわ ともゆき)
TEL: 022-217-5653
Email: akutagawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

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