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プレスリリース
改変されたゲノム編集Cas9、DNA上を動く! ― 遺伝子治療への応用に期待 ―

発表のポイント

・DNA上で動くようにDNA結合タンパク質を改変する方法を提案
・ゲノム編集タンパク質Cas9を改変し、DNA上で動かすことに成功

概要

 ゲノム編集とは、特殊なDNA結合タンパク質を用いて、遺伝情報を含むDNAを自在に書き換える技術です。将来的に遺伝子治療での使用が期待されていますが、既存のゲノム編集タンパク質Cas9には、編集時間がかかる、標的ではないDNA配列を誤って編集するなどの問題があります。
 東北大学多元物質科学研究所の鎌形清人准教授らの研究グループは、Cas9がp53などのDNA結合タンパク質とは異なり、DNA上を滑るように移動できないことに着目しました。もし、Cas9がDNA上を移動できれば、標的DNAを素早く見つけ出すことができ、迅速な標的DNAの編集が可能となります。また、標的以外のDNAに結合している時に、Cas9はそのDNA配列を誤編集してしまいますが、DNA上を素早く移動できれば、誤編集を抑えられます。以上のことを踏まえて、本研究では、Cas9をDNA上で動くように改変する方法を2つ考案しました。これらの方法を用いてCas9を改変したところ、Cas9をDNA上で移動できるようにすることに成功しました。今後、改変したCas9が遺伝子治療などのゲノム編集で使用されることが期待されます。
 本研究成果は、2021年7月8日に英国科学誌Scientific Reports(オンライン版)に掲載されました。また、本研究は、科学研究費助成事業の支援を受けて、実施されました。
プレスリリース本文(PDF)

研究背景

 ゲノム編集とは、特殊なDNA結合タンパク質を用いて、遺伝情報を含むDNAを自在に書き換える技術です。将来的に遺伝子治療での使用が期待されています。しかし、既存のゲノム編集タンパク質Cas9には、編集時間がかかる、標的ではないDNA配列を誤って編集するなどの問題があります。遺伝子治療への応用を考えたとき、DNAの誤編集は致命的です。従って、速くて正確なゲノム編集タンパク質の開発が必要となっています。

研究の成果

 研究グループは、これまで、単分子蛍光顕微鏡を用いて、DNA結合タンパク質のDNA上を滑るように移動する「スライディング」に着目した研究を行ってきました。そして、既存のゲノム編集タンパク質Cas9は、DNA結合タンパク質ですが、スライディングしないことが知られていました。もし、Cas9がDNA上をスライディングできれば、標的DNAを素早く見つけ出すことができ、迅速な標的DNAの編集が可能となります。また、標的以外のDNAに結合している時に、Cas9はそのDNA配列を誤編集してしまいますが、素早くDNA上を移動することで、誤編集を抑えられます。
 以上のことを踏まえて、本研究では、Cas9をDNA上で動くように改変する方法を2つ考案し、DNA整列固定技術「DNAガーデン」と単分子蛍光顕微鏡を用いて、検証しました。まず、DNAと強く結合しているCas9のアミノ酸がスライディングを阻害していると考えて、これらのアミノ酸を別のアミノ酸に置換しました。その結果、改変Cas9のスライディングが、ガイドRNA非存在下で最大15倍、ガイドRNA存在下で最大5倍促進することが明らかとなりました。次に、DNA結合タンパク質Nhp6Aからスライディング促進部位をCas9に移植したところ、改変Cas9のスライディングが、ガイドRNA非存在下で最大5倍、ガイドRNA存在下で最大8倍促進することが分かりました(図A)。この移植部位がDNAと結合し、Cas9とDNAとの結合を緩めることで、Cas9のスライディングが促進すると考えられます(図B)。以上より、Cas9をDNA上でスライディングできるように改変することに成功しました。今後、改変したCas9が遺伝子治療などのゲノム編集で使用されることが期待されます。
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図. A)Cas9にNhp6Aのスラディング促進部位(赤)を移植。Cas9は、REC1(薄ピンク) 、REC2(薄緑) 、REC3(灰)、RuvC(薄青)、HNH (薄紫)、 PI (薄赤)ドメインから構成される。B)改変Cas9のスライディング促進メカニズム。スライディング促進部位がDNAと結合し、Cas9を回転させ、Cas9とDNA間の結合が弱まり、Cas9のスライディングが促進する。原著論文の図より転載しました。

論文情報:
“Engineering of the genome editing protein Cas9 to slide along DNA”
Trishit Banerjee1,2, Hiroto Takahashi1, Dwiky Rendra Graha Subekti1,2, and Kiyoto Kamagata1,2,*
所属:1東北大学多元物質科学研究所, 2東北大学大学院理学研究科化学専攻
Scientific Reports
DOI:10.1038/s41598-021-93685-9

関連リンク:
東北大学ウェブサイト
生命分子ダイナミクス研究分野

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 
准教授 鎌形 清人(かまがた きよと)
 電話: 022-217-5843
 E-mail:kiyoto.kamagata.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
 電話: 022-217-5198
 E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)