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プレスリリース
ナノ結晶を敷き詰めた光半導体電極で還元反応を駆動 ― 人工光合成などに使う電極材料を環境負荷の小さい方法で製造―

東北大学
北海道大学

【多元研研究者情報】

【発表のポイント】

  • 超臨界水熱合成(注1により、p型半導体の酸化ニッケルからなる粒径10~20 nm程度の高結晶性の酸化ニッケルナノ結晶(注2を合成しました。
  • 平板スタンプを用いるプッシュコート法(注3により、ナノ結晶からなる膜厚100~500 nmの酸化ニッケル層の成膜に成功しました。
  • 成膜した酸化ニッケル層は、有機溶媒やナノ結晶の使用量を抑えつつ光を当てたときの電流応答が膜厚に応じて規則的に変化する還元反応用半導体電極(光カソード)(注4として機能することを証明しました。

【概要】

太陽光などの光エネルギーを化学反応に利用する技術は、将来のエネルギー・資源循環を支える基盤技術として期待されています。光を吸収して電子と正孔を生み出す半導体電極のうち、還元反応を担う電極は「光カソード」と呼ばれ、水素生成や二酸化炭素還元などの人工光合成反応への応用が検討されています。しかし、光カソードを実用化するためには、反応に必要な電荷を効率よく移動できる高品質な半導体薄膜を、環境負荷の小さい方法で大面積に作製する必要があります。

東北大学多元物質科学研究所の押切友也准教授、中川勝教授らの研究グループは、東北大学学際科学フロンティア研究所および多元物質科学研究所の笘居高明教授、北海道大学電子科学研究所の松尾保孝教授、石旭准教授らと共同で、超臨界水熱合成によって高結晶性の酸化ニッケルナノ結晶を合成し、これを平板スタンプで基板上に押し広げるプッシュコート法により薄膜化することで、還元反応に利用できる酸化ニッケル光カソードを作製しました(図1)。従来法と比較したところ、プッシュコート法で得られた膜は表面凹凸が小さく、330 nmの紫外光照射下で約3倍高い光電流変換効率を示すことが分かりました。

本成果は、光を使って化学反応を進める半導体電極材料を、材料ロスや有害溶媒の使用量を抑えながら作製するための新しい方法として期待されます。

本研究成果は、2026年6月18日付けで、英国王立化学会の科学誌 Nanoscale Advances に掲載されました。

図1. 超臨界水熱合成した酸化ニッケルナノ結晶を用いた半導体光カソード膜の作製。オレイン酸を共存させることで、粒径10~20 nm程度のナノ結晶が得られ、粒子表面が有機分子で修飾されることにより有機溶媒中で分散しやすくなる。有機溶媒に分散させたナノ結晶を平板のPDMSで押印することで、粒子を膜状に整形する。分散液中の粒子やオレイン酸(添加剤、注6)の濃度を変えることで膜厚100~500 nmを作製でき、光を当てたときの還元反応に基づく電流応答が膜厚に応じて規則的に変化する光カソードとして扱える。

 

研究の背景

太陽光エネルギーを利用して水素や有用化学物質を作る人工光合成は、持続可能な社会の実現に向けた重要な研究分野です。このような反応では、光を吸収した半導体中で電子と正孔が発生し、それぞれが還元反応と酸化反応に利用されます。還元反応を進める側の半導体電極は光カソードと呼ばれ、反応物へ電子を渡す役割を担います。

酸化ニッケル(NiO)は、化学的に安定で、広いバンドギャップと還元反応に有利な電子状態を持つp型半導体として知られています。一方で、NiO を光電極として高性能に利用するためには、高い結晶性、電荷移動を妨げる空隙の低減、膜厚や表面粗さの制御が重要になります。とくにナノ結晶を用いる場合、結晶性と粒径のそろった粒子を合成し、それらを基板上で緻密かつ均一に並べることが課題でした。

従来、ナノ結晶膜の作製にはスピンコート法やラングミュア・シェーファー法(注5などが用いられてきました。しかし、スピンコート法では回転時に多くの材料が失われやすく、膜厚のむらも生じやすいという課題があります。また、ラングミュア・シェーファー法は粒子表面や基板表面の状態に影響されやすく、大面積化や条件の一般化が容易ではありませんでした。

今回の取り組み

本研究では、まず超臨界水熱合成を用いてNiOナノ結晶を合成しました。水は374℃、22.1 MPaを超えると超臨界状態となり、通常の水とは異なる性質を示します。この環境では金属酸化物の生成反応が速く進行し、過飽和状態から多数の結晶核が生じるため、粒径のそろったナノ結晶を得やすくなります。本研究では400℃、約38 MPaの条件で反応を行い、オレイン酸(注6)を共存させることで、粒径10~20 nm程度のNiOナノ結晶を得ました。オレイン酸を用いない場合には最大200 nm程度まで粒径が大きくばらついたのに対し、オレイン酸を用いることで小さく分散性の高い粒子が得られました。

次に、得られたナノ結晶をn-オクタン中に分散させ、透明導電膜付きガラス基板上に置き、ポリジメチルシロキサン(PDMS)製の平板で押し広げるプッシュコート法により成膜しました。プッシュコート法では、基板と平板の間の狭い空間に分散液を閉じ込め、溶媒が毛細管現象により取り除かれることで薄膜が形成されます。この方法は、溶媒の対流を抑え、ナノ結晶の使用量を減らしながら、比較的平坦な膜を形成できる点に特徴があります。

図2に示す断面SEM観察の結果、ラングミュア・シェーファー法で作製した膜では、数十~数百 nmの大きな粒子間空隙が観察されました。一方、プッシュコート法で作製した膜では、100 nm未満の空隙は残るものの、二次粒子同士がより密接に接合していました。

作製したNiOナノ結晶膜を光カソードとして用い、紫外光照射下での光電気化学特性を評価しました。プッシュコート法で作製した膜は、ラングミュア・シェーファー法で作製した膜よりも表面粗さが小さく、330 nmにおける入射光電流変換効率(注7)は約3倍高くなりました。これは、粒子間の大きな空隙が少なく、粒子同士の密接な接合によりホール(正孔)が膜内を移動しやすくなったためと考えられます。

さらに、分散液中のNiOナノ結晶濃度とオレイン酸濃度を変えることで、膜厚100~500 nm程度の膜を作製し、その入射光電流変換効率(IPCE、注7)を計測しました(図3)。その結果、被覆率で規格化したIPCEが膜厚に反比例することを見いだしました。これは、膜の厚さに応じて電荷の移動抵抗が規則的に変化することを意味しており、プッシュコート法で作製した膜を「半導体電極全体がむらなく働く光カソード」として設計できることを示しています。

図2. (a)ラングミュア・シェーファー法と (b)プッシュコート法で成膜されたNiOナノ結晶膜の断面SEM像。プッシュコート法では、より平坦で粒子同士の接続がよい膜が得られた。

図3. (a) NiOとオレイン酸(OA)の濃度を変化させた際の膜厚と光電気化学応答の関係。IPCEは入射光電流変換効率、NIPCEは被覆率(CR)で規格化したIPCEを表す。(b) 作製したNiOナノ結晶膜の光電気化学特性を説明するエネルギー図。NIPCEが膜厚に反比例することから、プッシュコート法で作製した酸化ニッケルナノ結晶膜は、光を当てたときの還元反応に基づく電流応答が膜厚に応じて規則的に変化することがわかる。

今後の展開

本研究で示した方法は、超臨界水を利用して半導体ナノ結晶を合成し、プッシュコート法により少量の分散液から光カソード膜を作製するものです。高価な真空成膜装置に依存しない溶液プロセスであり、ナノ結晶や有機溶媒の使用量を抑えられる点から、環境負荷の小さい光エネルギー変換材料の製造法として発展が期待されます。

今後、ナノ結晶合成法の改良によりNiOのバンド構造を制御し、さらにナノ結晶の粒径分布や表面修飾分子、溶媒の最適化によって粒子分散性を改善することで、膜の緻密性が向上すると考えられます。高い結晶性を有する NiO ナノ結晶を緻密に配列することができれば、高性能な光カソードに加え、p型透明導電層や光センサーなど、様々な用途展開が期待されます。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP25K22238、JP25H00828、JP23K23113、JP23H01916、JP23K04902、JP22H05136、JP22H05131)、学術変革領域研究(A)「光の螺旋性が拓くキラル物質科学の変革」、文部科学省「人と知と物質で未来を創るクロスオーバーアライアンス」等の支援を受けて実施しました。また、文部科学省「マテリアル先端リサーチインフラ(ARIM)」、東北大学金属材料研究所GIMRTプログラム、東北大学産学連携先端材料研究開発センター(MaSC)およびCentral Analytical Facility(CAF)の支援を受けました。

用語説明

注1.超臨界水熱合成:水を高温・高圧にして超臨界状態にし、その中で無機ナノ結晶を合成する方法。超臨界水では金属酸化物の生成や結晶核形成が速く進み、粒径の小さい結晶を得やすい。

注2.酸化ニッケルナノ結晶:酸化ニッケル(NiO)からなるナノメートルサイズの結晶。本研究では、粒径10~20 nm程度の結晶を合成した。1ナノメートルは10億分の1メートル。

注3.プッシュコート法:基板上に置いたナノ結晶分散液を平板で押し広げ、平板と基板の間の狭い空間で溶媒を取り除くことで薄膜を形成する方法。材料ロスや膜厚むらの低減が期待できる。

注4.光カソード:光を吸収して生じた電子を還元反応に利用する電極。人工光合成や光電気化学反応において、水素生成や二酸化炭素還元などの反応を担う。

注5.ラングミュア・シェーファー法:液面上にナノ粒子や分子を並べ、これを固体基板へ移し取る成膜法。緻密な薄膜作製に用いられるが、粒子や基板表面の状態に影響を受けやすい。

注6.オレイン酸:長い炭化水素鎖を持つカルボン酸の一種。ナノ結晶表面に結合することで、粒子同士の凝集を抑え、有機溶媒中での分散性を高める。

注7.入射光電流変換効率:入射した光子のうち、どれだけが電流として取り出されたかを示す指標。光電極の性能評価に用いられる。

 

論文情報

“Photoelectrochemically Homogeneous Nickel Oxide Photocathode Composed of Nanocrystals Prepared by Supercritical Hydrothermal Synthesis”
Tomoya Oshikiri*, Tomoki Kawase, Kaori Sato, Hazuki Ito, Takaaki Tomai, Keisuke Nakamura, Xu Shi, Yasutaka Matsuo, Hiromasa Niinomi, Masaru Nakagawa*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 押切友也、教授 中川勝
Nanoscale Advances
DOI:10.1039/D6NA00165C

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 光機能材料化学研究分野 
准教授 押切 友也(おしきり ともや)
TEL:022-217-5671
Email:tomoya.oshikiri.c1*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

北海道大学 社会共創部広報課
TEL:011-706-2610
Email: jp-press*general.hokudai.ac.jp(*を@に置き換えてください)