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プレスリリース
微細粉末を作るボールミル内での原料粉砕メカニズムを計算科学で解明 ─高効率粉砕装置の設計に新たな知見─|機能性粉体プロセス研究分野

発表のポイント

  • 微細な粉末を作る装置の湿式ボールミル(1)内における砕料粒子(粉砕原料)(2)の動きは解析困難とされていましたが、独自に構築した計算モデル(ADEM-CFDモデル(3))により解析に成功しました。
  • 従来は粉砕媒体(ボール)同士が擦れることで粉砕が進行すると考えられていましたが、ボール同士を正面衝突させる方がより粉砕が進行する可能性が見出されました。
  • 本解析結果は今後の粉砕機の設計をその指針から刷新することが期待されます。

概要

湿式ボールミルは、セラミックスやセメント、食品、電子部品の原料となる微細な粉末を作る代表的な装置です。装置内で原料となる砕料粒子の粉砕メカニズムを知ることは、粉砕の効率や速度を向上させる上でまず必要です。しかし液体中で高速に運動する微細な砕料粒子を実験的に観察したり解析したりすることは難しいとされています。

東北大学多元物質科学研究所の久志本築助教らの研究グループは、独自に構築した計算モデルにより湿式ボールミル内の砕料粒子の動きをコンピュータ上で表現することで、砕料粒子の粉砕メカニズムを解析しました。その結果、ボール同士を正面衝突するようにぶつけると、砕料粒子が粉砕されやすくなることがわかりました。定説では、ボールが擦れるときに粉砕が進行すると考えられていましたが、今回の結果はその定説を覆すものであり、粉砕の効率や速度の向上に貢献する知見になることが期待されます。

本成果は粉体工学会誌に、5月27日付けでオンライン掲載されました。

研究の背景

湿式ボールミルはステンレススチールやセラミックスでできた粉砕媒体となるボールを、原料となる砕料粒子が混ざった液体中で接触させることで粉砕する装置の一種であり、粉砕の速度が速く大量に処理できることが特徴とされています(図1)。しかし装置内で砕料粒子がどのように粉砕されるのかといったメカニズムはよくわかっていません。これは液体中で高速に運動する微細な砕料粒子を実験的に観察したり解析したりすることが難しいためです。こうした背景から、湿式ボールミル内の砕料粒子挙動の多くはいまだに明らかになっていません。特にボール同士の接触する角度や速度の影響については想像の域を出ないのが現状です。そのため定説通りボール同士が高速に擦れることで粉砕が進みやすくなると考え多くの粉砕装置が設計されていますが、その効果はわかっていませんでした。

図1. 湿式ボールミルの概略図

今回の取り組み

東北大学多元物質科学研究所の久志本築助教らの研究グループは、砕料粒子の変形や破壊挙動を表現する先進離散要素法(ADEM)(4)と呼ばれる手法と、液体や気体の運動を表現し解析する数値流体力学(CFD)(5)と呼ばれる手法を組み合わせたADEM-CFDモデルを独自に構築し、湿式ボールミル中の砕料粒子の粉砕メカニズムを解析できるようにしました。今回は、このADEM-CFDモデルを用いて、湿式ボールミル中のボールの接触角度や速度が砕料粒子の粉砕に及ぼす影響について調査しました(図2)。その結果、高速かつ正面衝突するようにボールを動かすと砕料粒子が粉砕されやすくなる可能性があることがわかりました(図3)。定説ではボールが擦れるときに粉砕が進行すると考えられていましたが、今回の結果はその定説を覆すものでした。

図2. ADEM-CFDモデルを用いて計算された2つのボール間で破壊される砕料粒子挙動を可視化した図(赤色が濃いほど損傷が大きいことを表します)。

 

図3. 2つのボールが接触するときの角度と速度が粒子の損傷度合に及ぼす影響を示すグラフです。0°のときボール同士は擦れ、90°のとき正面衝突することを意味しています。接触角度が90°に近づくにつれて、粒子の損傷度合が大きくなっていることから、粉砕が進みやすくなることを示唆しています。

今後の展開

従来は、ボール同士が擦れるように衝突することで粉砕が進行しやすくなるという推測のもと湿式ボールミルは設計されてきました。ところが今回の解析結果では、ボール同士が正面衝突するように設計することで粉砕の進行を促進できる可能性を示しています。そのため今回の成果は、今後の湿式ボールミルの設計をその指針から刷新するものであり、これまで以上に粉砕速度が速く粉砕効率の高い湿式ボールミルの創生に貢献する知見となることが期待されます。

謝辞

本研究の一部は、ホソカワ粉体工学振興財団のHPTF21110の助成、JSPS科研費JP20K22457とJP22K14525の助成を受けたものです。

 

用語説明

注1.湿式ボールミル: ボールミルは、粉砕したい原料をすりつぶして微細な粉末を作る装置です。砕料粒子(粉砕原料)と粉砕媒体(ボール)を粉砕容器内に入れ、ボール間やボールと容器間の衝突によって粉砕します。粉砕容器内に粉砕原料とボールを入れる乾式と、水や有機溶剤も投入する湿式があります。

注2.砕料粒子(粉砕原料): 粉砕される対象となる粒子のことです。

注3.ADEM-CFDモデル: 液体中の粒子の変形と破壊を表現するモデルであり、粒子の変形や破壊を表現するために我々のグループで独自に開発した先進離散要素法(Advanced Distinct Element Method:ADEM)と、液体や気体の動きを表現し解析する数値流体力学(Computational Fluid Dynamics: CFD)を組み合わせたモデルです。

注4.ADEM: 先進離散要素法(Advanced Distinct Element Method)の略称であり、粒子の変形や破壊挙動を表現することを可能として計算モデルです。

注5.CFD: 数値流体力学(Computational Fluid Dynamics)の略称であり、気体や液体など流れる物体(流体)の運動を計算し、その動きを解析する方法を指します。

 

論文情報

「湿式ボールミル中の媒体ボール衝突速度および角度が砕料粒子粉砕挙動におよぼす影響の解析」
久志本築*、加納純也
粉体工学会誌
DOI:10.4164/sptj.61.258
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 久志本築

東北大学
機能性粉体プロセス研究分野

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
助教 久志本 築(くしもと きずく)
TEL: 022-217-5136
Email: kizuku.kushimto.d2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)