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多元研で活躍する女性研究者紹介

多元研で活躍する女性研究者紹介

#1 永次 史

多元研で活躍する女性研究者をインタビュー形式で紹介します。
第1回目は、核酸(DNA、RNA)の研究を行っている永次史教授に、研究者になったきっかけやメインの研究テーマ、休日の過ごし方なども伺いました。

もともと化学が好きでした

🔍 研究者になるきっかけは・・・

 大学院に進学することは最初から決めていました。修士課程を修了したら化学会社に就職して研究できたらいいなと思っていて、大学で研究を続けようとは考えていませんでした。具体的な研究テーマを自分で決めるのが難しかったので、大学に残るべきではないと考えていたからです。ところが、当時は大学院に進学する女性が今よりもっと少なかったこともあってか、民間企業への就職が難しくて、たまたま助手を募集していた私立大学に就職したんです。1年間ほど勤めてから、母校の九州大学に戻って薬学部の助手になりました。それが大学で研究を続けることになったきっかけです。

 九州大学で助手として働きながら、今やっていることの基本になるような研究をはじめて、少し時間が掛かりましたが35歳の時に学位を取りました。核酸の分野は、学部生の頃から研究している人が多いと思うのですが、私は助手になってからはじめたので、最初は効率が悪くて大変でした。その頃から30年近く、ずっと核酸の分野の研究を続けています。現在は、研究室のスタッフが中心になって研究をすすめています。スタッフは2人とも九州大学の同じ研究室の出身で、核酸の分野の専門家ですし、サイエンスに関する考え方もかなり近いので、信頼して任せています。

新しい機能を持つ人工の分子を作る

❔ 研究テーマは・・・

 遺伝子に対して作用する新しい機能を持つ人工の分子を作ることがメインの研究テーマです。ずっと続けていてライフワークのようになっています。その方法論としていくつかの研究を進めていて、大きく分けると2つあります。

 ひとつは、遺伝子(DNA、RNA)の配列を認識して結合し、異常になった遺伝子の発現を止めたり進めたりする、天然のDNA、RNAでは出来ない、様々な機能を持つ人工の分子を作ることです。遺伝子の配列、つまりAGCTの並び方に合わせて人工的に作った分子を混ぜるのですが、ただ混ぜるだけでは水素結合でくっつくだけですぐに離れてしまうので、離れなくなるように共有結合を形成する化学反応を誘導します。またAGCT以外の人工塩基と呼ばれる遺伝暗号を拡張する分子の研究も行っています。

 もうひとつは、核酸の構造を認識する方法で、RNAを標的としています。RNAは一本鎖と考えられていましたが、実際には、いろいろな特殊な高次構造を持っていることが分かってきています。いわゆるヘリックス(らせん)だけではなく、ヘアピンのような構造や、G4構造と呼ばれる、四本鎖の構造を持つものもあります。特殊な構造の範囲は狭いので、その範囲に合わせた小さいサイズの分子を作ります。ちょっと膨らんだ部分に結合することで、その構造が壊れたり、または安定化したりするんです。RNAは、DNAからタンパク質になる中間に存在しますが、遺伝暗号を伝令するだけではありません。タンパク質になる過程を調整するなど、重要な働きをすることがわかってきていますので、この研究は、特定の遺伝子発現の制御につながると考えています。

 配列や構造を認識して遺伝子の発現をコントロールする、天然のDNAやRNAにはない機能を持つ人工分子を作る、この研究の究極的な目標は、薬になる可能性のあるツールを作ることです。病気は遺伝子に原因があることが多いですから、薬を作る際に、遺伝子のどこに作用すると効率的なのかが分かる必要があります。どこに作用すればいいのかが分かって、そこに結合するように作っても、うまく作用しないこともあります。この分子がここに結合したら何が起こるのか、というのをひとつひとつ押さえていくような、非常に基礎的な研究ですから、大学でしかできないことだと思います。

研究をすすめる上で苦心したこと

🏢 研究環境における課題は・・・

 多元研の課題とは言えないかもしれませんが、私たちが置かれている研究環境の課題は、研究室に配属される学生数が少ないことです。修士からしか配属されないので、研究の継続性を保つのが難しいんです。学部4年生が配属されれば、修士2年生とペアを組んで研究できるので、時間が掛かりながらも引き継いでいけるのですが、修士1年生と修士2年生ではそれができず、研究がなかなか進みません。前職で学部に所属していた頃は、学部4年生から研究室に配属されていました。当時は、学部生に一から教えるのは大変だと思っていたのですが、学部生が配属されないのは、研究だけでなく教育の面でももっと厳しいです。最近は、私の研究室で博士課程に進学する大学院生や留学生が増えてきたので、研究が進むようになってきましたが、それまではとても大変でした。

休日は自分の時間を楽しんでいます

☘ ワークライフバランスは・・・

 テニスが好きで、毎週土曜日は朝7時20分からのスクールに通っています。多元研にもテニスが上手な先生がいらっしゃるので、時にはご一緒しています。部活やサークルでやっていたわけではなくて、学生時代にやった研究室対抗テニス大会がきっかけなのですが、面白いなと思ってずっと続けています。毎週土曜日はテニス、日曜日はスポーツジムに行くのがルーティンですね。平日は仕事、週末は自分の時間、と意識して切り替えています。

「明日は明日の風が吹く」

✑ 座右の銘は・・・

 あえて言うならこれです。映画「風と共に去りぬ」の最後の言葉ですね。
あまり深刻にならないように、ということです。

移動時間や息抜きに

📘 愛読書は・・・

 いろんな小説を読みます。気に入っているのは東野圭吾のミステリーで、新作が出ると買って読んでいます。最近映画化された作品も面白かったですね。シリーズものなど、映画やドラマになる作品はやっぱり面白いと思います。藤堂志津子や、乃南アサなど、女性作家の作品もよく読んでいました。出張の移動時間に読むことが多いのですが、最近はコロナの影響で出張が減ったせいで、読書の回数も減ってしまいました。この2年でいろんなことが変化していますね。

学生さんに「たくさん失敗をしなさい」と伝えたい

✉ これから研究者を目指す若い学生さんへのメッセージ

 実験していると、全然うまくいかないことが多いんです。私の場合、修士課程の時にうまくいった実験は1回だけでした。ある化合物を合成するというテーマで、何ステップもの合成反応を繰り返して作りあげていく実験でした。全てのステップが成功しないと、目的の化合物を作れないのですが、どうしてもうまくいかないステップがあって、1年くらい掛かりました。できなかったらどうしようかと思いましたし、すごく焦っていたのですが、それをクリアしたときの感動は今でも忘れられません。これまで、本当にうまくいったと思う実験は、その時を含めて2回だけです。

 どんなに失敗が多くても、成功した時には実験科学者としての大きな喜びがあります。若い時は、うまくいかないとすぐに挫けてしまいがちですが、失敗を繰り返しながらも続けて、実験が成功した時の大きな喜び、感動を体験して欲しいです。

  

永次 史 Fumi NAGATSUGI
福岡県出身。九州大学薬学部卒業、同大学院薬学研究科 修士課程製薬化学専攻修了。城西大学薬学部 助手、九州大学薬学部 助手、 助教授を経て2006年4月より東北大学多元物質科学研究所 有機・生命科学研究部門 生命機能分子合成化学研究分野 教授。薬学博士。
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