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プレスリリース
新型コロナウイルスの高性能な抗体検査技術を開発 ~約20分で測定完了!現場診断やワクチン効果の定量的評価に貢献~

ポイント

・ポータブル蛍光偏光測定装置を用いた、新型コロナウイルス抗体の検出に成功。
・従来の抗体検査キットと異なり、血清中の抗体の定量的な評価が可能。
・迅速な診断のみならず、ワクチンに対する免疫反応の評価への応用に期待。

概要

 北海道大学大学院総合化学院博士後期課程(研究当時)の西山慶音氏、博士前期課程の高橋和希氏、同大大学院工学研究院の渡慶次学教授、東北大学多元物質科学研究所の火原彰秀教授ら、Tianma Japan株式会社らの研究グループは、新型コロナウイルスの高性能な抗体検査技術を開発しました。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2019年12月に最初の感染が報告されて以来、現在に至るまで世界中で感染が拡大しています。すでにCOVID-19に有効なワクチンの接種が世界中で開始されていますが、検査で感染者を特定し、隔離等の対策を継続することが今後も不可欠です。COVID-19の検査には、一般にウイルスの遺伝子を検出するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法*1が用いられています。しかし、検査できる場所に制約があり、検査の時間と手間がかかる欠点がありました。一方で、迅速なCOVID-19の検査法として用いられているイムノクロマト法*2による抗体検査は、定性的な結果しか得られず、判定誤差が生じやすい問題がありました。
 同研究グループは昨年、上記の検査技術に代わって、簡便、迅速、かつ高精度に分析できる可能性をもつ蛍光偏光免疫分析法(FPIA)*3に着目し、蛍光偏光を測定できるポータブルな装置を開発するとともに、同装置が鳥インフルエンザ診断に応用できることを報告しました。今回は、ポータブル測定装置を利用して、FPIAを原理とするCOVID-19の抗体検査技術を確立しました。新たな測定試薬を開発し、ポータブル測定装置の改良を行うことで、COVID-19の抗体検査を約20分で、わずか0.25μL*4という検体量で実施することを可能にしました。COVID-19感染者の血清を用いて評価を行ったところ、高精度に陽性・陰性の判定ができることが実証されました。
 本技術により、現場での迅速なCOVID-19の診断が可能となります。また、ワクチン接種後の免疫反応の定量的評価など、ワクチンや治療法開発のために重要な役割を果たすことが期待されます。
 なお、本研究成果は、2021年6月5日(土)オンライン公開のBiosensors and Bioelectronics誌に掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)

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新型コロナウイルス抗体の検査装置
 

背景

 SARSコロナウイルス2(以下、SARS-CoV-2)によるCOVID-19の感染拡大を抑制するため、COVID-19に対するワクチンや治療法の開発が世界中で進められています。日本でもワクチン接種が開始され、感染拡大の抑制が大きく期待されています。しかし、発展途上国も含め、世界中の人々がワクチンを接種するにはまだ長い日数を要し、より感染力の高い変異型ウイルスも報告されていることから、感染者の迅速な特定及び隔離・治療を今後も継続することが不可欠となっています。また、ワクチンや治療法の開発にともない、それらの効果を正確かつ定量的に評価する技術の必要性が高まっています。
 一般に、COVID-19の診断にはPCR法とイムノクロマト法が用いられています。PCR法は正確かつ高感度にウイルスの核酸を検出できますが、測定に長時間かかり、場所を問わずその場で測定することはできませんでした。イムノクロマト法は、現場で短時間に抗体の測定が可能ですが、測定の正確さに欠け、定量的な評価ができませんでした。

研究手法・研究成果

 昨年、同研究グループは液晶とイメージセンサーを組み合わせたポータブル蛍光偏光測定装置(図1)を開発し、鳥インフルエンザ診断への応用に成功しました。本研究では、ポータブル蛍光偏光測定装置によるCOVID-19抗体検査を実現するため、新たな測定試薬の開発及び測定装置の改良を行い、FPIAによる迅速かつ定量的なCOVID-19の抗体検査技術の開発に成功しました。
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図1.ポータブル蛍光偏光測定装置。通過する光の偏光方向を制御する性質をもつ液晶とイメージセンサーを組み合わせた,独自の蛍光偏光イメージングシステムを構築した。マイクロ流体デバイス内に作製した何本もの微細な流路を測定容器として用いることで,少量サンプルで多検体を同時測定することが可能。
 
 新型コロナウイルスは、表面にヒトの細胞に結合するためのスパイクタンパク質を持っています。同グループは、抗体検査のため、スパイクタンパク質の受容体結合ドメイン(RBD)断片に蛍光分子を標識し、抗SARS-CoV-2抗体と結合可能な試薬(F-RBD)を開発しました。F-RBDが感染者の血中に存在する抗SARS-CoV-2抗体と結合すると、結合していない場合と比較してF-RBDの回転運動が小さくなります。この回転運動の違いは、蛍光偏光度の違いとして測定でき、結合した抗体濃度を反映しているため、蛍光偏光度を測定することで血清中の抗体の定量が可能となります(図2)。
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図2.抗体検出の原理。抗体と結合可能な試薬(F-RBD)に偏光励起光が照射されると,ランダムな方向に蛍光を発する(偏光度:低)。一方で,抗体の結合したF-RBDは,より偏った方向の蛍光を発する(偏光度:高)。この蛍光の偏りを数値化することで,抗体量の測定が可能となる。
 
 同グループは、血清自体が持つ蛍光の影響を大きく低減し、精度の高い測定を実現するため、従来よりも長波長の蛍光が検出できるようにポータブル蛍光偏光測定装置を改良しました。また、マイクロ流体デバイス*5を組み合わせることで、測定に必要な血清量を0.25 μLまで超微量化することに成功しました。この測定装置の重さは、4.3 kgであり、市販の蛍光偏光測定装置の約1/5の重量です。現在は、さらに小型・軽量装置の開発にも取り組んでいます。
検査は、患者から採取した血清をF-RBDと混合したあと、15分後にマイクロ流体デバイスに導入し、ポータブル蛍光偏光測定装置により偏光度を測定するというごく簡単な操作で完了します。COVID-19陽性及び陰性患者の血清を用いて検査したところ、陽性患者の血清は陰性患者より大きな偏光度を示し、検査結果の統計解析から非常に高い精度で陽性と陰性を判別可能であることが明らかになりました。

今後への期待

 本手法は、現場での迅速かつ簡便な抗体検査に貢献することが期待されます。また、ワクチン接種後の抗体価は、ワクチンの効果を評価する上で非常に重要な指標です。そのため、本手法はCOVID-19に対するワクチンや治療法研究の効率化にも貢献する技術であると考えています。研究グループは、すでにポータブル蛍光偏光測定装置によるウイルス粒子の検出にも成功しています。将来的には、ウイルスと抗体を同一プラットフォームで同時に測定ができるようになると期待されます。

論文情報

“Facile and Rapid Detection of SARS-CoV-2 Antibody Based on a Noncompetitive Fluorescence Polarization Immunoassay in Human Serum Samples”
(非競合FPIA法によるヒト血清中の抗SARS-CoV-2抗体の簡便・迅速な検出)
西山慶音1,高橋和希1,福山真央2,粕谷素洋2,今井阿由子3,臼倉拓弥3,間石奈湖4,真栄城正寿5,石田晃彦5,谷 博文5,樋田京子4,重村幸治3,火原彰秀2,渡慶次学5
(1.北海道大学大学院総合化学院、2.東北大学多元物質科学研究所、3.Tianma Japan株式会社、4.北海道大学大学院歯学研究院、5.北海道大学大学院工学研究院)
Biosensors and Bioelectronics(バイオセンサーの専門誌)
DOI:10.1016/j.bios.2021.113414
公表日:2021年6月5日(土)(オンライン公開)

用語解説

*1. ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法:DNAポリメラーゼと温度変化を利用して目的のDNAを増幅する手法。
*2. イムノクロマト法:免疫分析とクロマトグラフィーの原理を組み合わせた測定法。特殊な機器を必要とせず、短時間で測定が可能。
*3. 蛍光偏光免疫分析法(FPIA):抗原抗体反応を用いる免疫分析法の一種。蛍光標識した抗原に抗体が結合すると、偏光度が変化することを利用した測定法。試薬を混合するのみで反応が完結するため、迅速な測定に適している。
*4. μL:マイクロリットル。1 Lの百万分の一。一滴の水滴が約60 μL。
*5. マイクロ流体デバイス:流路幅が数μm~数百μm という微小な流路をもつデバイス。

関連リンク:
北海道大学
Tianma Japan株式会社
東北大学
ナノ・マイクロ計測化学研究分野

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 
教授 火原彰秀(ひばらあきひで)
電話:022-217-5616   
E-mail:hibara*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)