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プレスリリース
硫化スズ太陽電池の高効率化への独自技術を実証 ~次世代ソーラーパネルの実現に前進~

発表のポイント

・エネルギーのスマート化に貢献する硫化スズ太陽電池を作製
・大型化に成功した硫化スズ単結晶を用いて世界初のpnホモ接合注1を実現
・変換効率の向上に直結する高い開放電圧注2の取り出しに成功

概要

 硫化スズ太陽電池は希少金属や有害元素を一切含まないため、クリーンエネルギーの普及を担う次世代ソーラーパネルへの実装が期待されています。東北大学多元物質科学研究所の川西咲子助教、鈴木一誓助教らのグループは、pnホモ接合の硫化スズ太陽電池を世界に先駆けて作製し、高い開放電圧の取り出しに成功しました。
 硫化スズ太陽電池を高効率化するポイントは、p型とn型の硫化スズを組み合わせたpnホモ接合を作ることです。しかし、容易に作製可能なp型と異なり、n型硫化スズの作製は困難なため、pnホモ接合太陽電池の作製例はありませんでした。
研究グループは、2020年8月に大型化に成功したn型硫化スズ単結晶を用いることで、pnホモ接合からなる硫化スズ太陽電池の作製を実現し、pnヘテロ接合の硫化スズ太陽電池のチャンピオンデータに匹敵する360mVの高い開放電圧の取り出しに成功しました。これは、pnホモ接合の硫化スズ太陽電池の高い性能を実証するもので、今後の研究開発による更なる変換効率の向上が期待されます。
本研究成果は、2021年2月25日にSoral RRL誌に掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)
Information in English

研究の背景

 近年注目度の増すSDGs(持続可能な開発目標)のひとつであるクリーンエネルギーの普及には、希少金属や有害元素を含むCdTe太陽電池やCIGS系太陽電池注3に替わる次世代ソーラーパネルの開発が欠かせません。硫化スズ(II)は希少金属や有害元素を一切含まず、地球上に豊富に存在する安全な元素のみで構成されるため、クリーンな次世代ソーラーパネルの材料として期待が高まっています。高効率な発電を実現するためには、同じ硫化スズで伝導特性の異なるp型とn型を組み合わせたpnホモ接合を作り、発電効率の向上を妨げる欠陥を減らすことがポイントです。しかし、p型の硫化スズは簡単に作製できるのに対し、n型の硫化スズの作製は容易ではないため、pnホモ接合の太陽電池の作製の成功例はこれまでありませんでした。過去20年にわたり、p型の硫化スズをn型の異種材料と組み合わせたpnヘテロ接合による太陽電池の試作と改良が繰り返されていますが、その発電効率は5 %程度で頭打ちとなっており、実用化の目処はたっていません。硫化スズ太陽電池の実用化への突破口は、pnホモ接合の素子を作製し、その高い性能を実証することにあります。

研究の内容

 研究グループは、2020年8月にn型硫化スズ単結晶の大型化の成功を発表しました。10mmを超えるn型単結晶が容易に入手可能になり、太陽電池の作製時のハンドリングが飛躍的に向上した結果、p型の硫化スズをスパッタリング法注4により成膜することで、図に示すpnホモ接合の硫化スズ太陽電池の作製に成功しました。成膜条件に一切の改良を加えていない試作品であるにも関わらず、360mVの高い開放電圧の取り出しに成功しました。これは、長年にわたって研究開発が続けられてきたpnヘテロ接合の硫化スズ太陽電池でのチャンピオンデータに匹敵する高い数値であり、pnホモ接合の硫化スズ太陽電池の高いポテンシャルを実証しています。試作品での変換効率は1.4%であり、既報のヘテロ接合素子での最高値の5%には届かないものの、今後の研究開発の加速により、その飛躍的な向上が大きく期待されます。
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図. 世界初のpnホモ接合硫化スズ太陽電池の作製プロセスと発電特性.一つのn型単結晶基板上に種々の条件で多数のp型層を同時に成膜することも可能.

今後の展望

2020年8月に公表したn型の硫化スズ単結晶の大型化を皮切りに、僅か半年でpnホモ接合の太陽電池の試作結果を公表するに至りました。大型のn型単結晶を用いていることにより、一つの単結晶基板上に種々の条件で多数のp型層の成膜が可能であり、pnホモ接合の最適化が加速できることから、高い変換効率の実現への期待が膨らみます。アメリカの太陽電池研究の総本山である国立再生可能エネルギー研究所とも連携して開発を進めており、今後のクリーンエネルギーの中核を担う次世代ソーラーパネルの立役者としての飛躍が大きく期待されます。

 本研究は、JSPS科研費 JP18KK0133, JP19H02430および「物質・デバイス領域共同研究拠点」における「人・環境と物質をつなぐイノベーション創出ダイナミック・アライアンス」の共同研究プログラムの助成を受けたものです。

論文情報:
“SnS Homojunction Solar Cell with n-type Single Crystal and p-type Thin Film”
(n型単結晶とp型薄膜を用いたSnSホモ接合太陽電池)
Sakiko Kawanishi, Issei Suzuki, Sage R. Bauers, Andriy Zakutayev, Hiroyuki Shibata, Hiroshi Yanagi, and Takahisa Omata
Solar RRL (太陽電池の専門誌)
DOI:10.1002/solr.202000708

研究チーム

東北大学多元物質科学研究所: 川西咲子 助教、鈴木一誓 助教、柴田浩幸 教授、小俣孝久 教授
米・国立再生可能エネルギー研究所(NREL): Sage R. Bauers 博士、Andriy Zakutayev 博士
山梨大学大学院総合研究部: 柳博 教授

用語説明

注1.pnホモ接合: 同一の半導体材料のp型層とn型層との接合。この接合領域に太陽光等の大きなエネルギーの光が照射されると、光電効果により発電する。異種の半導体材料のpn接合のことを、pnヘテロ接合と言う。

注2.開放電圧: 外部との回路接続のない状態での電圧のことで、高い開放電圧は変換効率の向上に直結する。同じく高効率化に直結する短絡光電流と並び、太陽電池の性能を示す重要な因子である。

注3.CdTe太陽電池、CIGS系太陽電池: CdTe太陽電池は、カドミウム(Cd)、テルル(Te)他による化合物を、CIGS系太陽電池は銅(Cu)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、セレン(Se)他による化合物を、それぞれ光吸収層とした太陽電池。20%を超える高い変換効率が可能である一方、原料に、毒性の高いカドミウムや、希少金属であるテルル、インジウム、セレンを含んでいる。

注4.スパッタリング法: 薄膜の形成に用いられる物理的気相成長法のひとつ。原料(ターゲット)にアルゴンガス粒子を衝突させ、その衝撃ではじき飛ばされたターゲット成分を基板上に付着させて薄膜を作る方法で、金属、硫化物、酸化物、窒化物等の様々な種類の薄膜を作製可能である。

※2020年8月に公表したn型の硫化スズ単結晶の大型化については下記をご参照ください。
Sakiko Kawanishi, Issei Suzuki, Takeo Ohsawa, Naoki Ohashi, Hiroyuki Shibata, and Takahisa Omata. 2020. Growth of large single crystals of n-type SnS from halogen-added Sn flux. Crystal Growth & Design.
DOI:10.1021/acs.cgd.0c00617
プレスリリース_硫化スズ単結晶の大型化に成功! ~環境に優しい太陽電池の実用化への突破口~(2020年8月21日)

関連リンク:
東北大学
材料分離プロセス研究分野(柴田浩幸研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 
助教 川西 咲子(かわにし さきこ)
電話:022-217-5155
E-mail:s-kawa*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

助教 鈴木 一誓(すずき いっせい)
電話:022-217-5215
E-mail:issei.suzuki*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
電話:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)