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プレスリリース
車体や建物を充電に使う3Dカーボン材料を開発 3Dプリンタで強度と機能性を融合し、全く新しいエネルギー貯蔵へ貢献|ハイブリッド炭素ナノ材料研究分野

発表のポイント

・車や建物など自体にエネルギーを貯蔵できるようにする3次元(3D)構造のカーボン材料を開発しました。
・光造形3Dプリンティング用の複合材料樹脂を開発し、デジタル設計した構造を維持しつつマクロ・メソ・ナノの階層的多孔質構造を導入した、3Dカーボンマイクロラティス(注1)を作製しました。
・機械的強度に優れるミリメートル厚の構造全体をキャパシタとして実証し、水系・有機系電解質でそれぞれ電極面積あたり11.5F・cm-2および1.5F・cm-2の大容量を達成しました。
・強度・形状を保つ構造材料と、蓄電機能を持つ機能材料の融合する新技術である「構造的エネルギー貯蔵」(注2)の実現に貢献します。

概要

 持続可能な社会基盤を築くため、各種再生エネルギーやその貯蔵技術の需要が高まっています。近年、よりイノベーティブな、車体や壁・柱など荷重を支える構造体そのものを蓄電材料としても扱う「構造的エネルギー貯蔵」という発想が注目されています。構造と機能を融合させる未来技術の実現が期待されています。
 東北大学材料科学高等研究所の工藤朗助教、唐睿特任助教(研究当時)、折茂慎一教授、西原洋知教授、同大学多元物質科学研究所の金丸和也大学院生、吉井丈晴助教、同大学学際科学フロンティア研究所の韓久慧助教(研究当時)、同大学金属材料研究所の木須一彰助教、米国ジョンズ・ホプキンス大学の陳明偉教授らの国際共同研究チームは、機械的強度に優れる格子構造とキャパシタ性能を付与する比表面積を併せ持つ炭素マイクロ構造「階層的多孔質カーボンマイクロラティス」を作製しました。光造形3Dプリンタ用に調整した複合材料樹脂を用いて、炭素化後に塩酸処理を施す事で梁の内部にマクロ・メソ・ナノの3段階サイズの孔の導入に成功しました。キャパシタとして機能する比表面積を有しながら圧縮強度7.45-10.45MPa・ヤング率375-736MPaを実現し、水系・有機系電解質で電極面積あたり最大容量11.5 F・cm-2および1.5 F・cm-2を達成しました。実用水準の機械的性能を持つミリメートル厚の構造全体を、電気化学キャパシタとして初めて実証しました。
本研究成果は、2023年8月2日にナノテクノロジー・科学の専門誌Smallにオンライン掲載されました。

詳細な説明

研究の背景
 人間の生活に伴う環境負荷を低減するためにも、偏在している資源への過剰な需要の集中を避けるためにも、化石燃料への依存から脱出することは喫緊の課題となっています。太陽光・風力・地熱などの代表的な再生エネルギーに加えて、環境発電という構造物の振動や温度差からエネルギーを生み出す技術が研究されていますが、生成されたエネルギーを安定して貯蔵するデバイスであるリチウムイオン電池(注3)や電気化学キャパシタ(注4)の高性能化も欠かすことができません。エネルギー貯蔵デバイスは単位体積・単位質量・単位設置面積あたりの出力密度や容量密度が代表的な性能の基準ですが、そのデバイス自体の重量や長大さが問題となることは多々あります。
 東北大学の本研究チームでは種々のエネルギー貯蔵デバイス技術について研究を進めてきました。本研究では構造としての強度と蓄電能力のための非表面積を併せ持つ階層的多孔質カーボン材料を光造形3Dプリンタを用いて作製し、部材の持つ機能の集約へつながる技術を開発しました。
究極の軽量化・省スペース化の一つとして、荷重を支える構造部分に蓄電機能を付与し、従来エネルギー貯蔵デバイスが占めていた重量と空間をゼロにしてしまう発想があります。この「構造的エネルギー貯蔵」という概念は、実現すれば従来のエネルギー貯蔵のあり方を一変させるポテンシャルを秘めており、例えばカーボンファイバー強化プラスチック(CFRP)の炭素部分を電極に、樹脂部分を誘電体として、飛行機の翼や車体で充電する研究が知られています。2017年に米国マサチューセッツ工科大学とイタリアのランボルギーニ社が発表したコンセプトカー開発計画や、2020年の米国Tesla社のバッテリー技術計画でも構造的エネルギー貯蔵に触れており、少しずつ実装へ向けて進んでいます。
 2023年現在、一般的な電気自動車1台に搭載されるリチウムイオン電池の重量は500キログラムに迫り、最終的な車体重量はガソリンエンジン車に比べて100キログラムも増加することがあります。重い車体は制動の度にタイヤを摩耗させやすく、大気中へ放出される微粒子量を増加させ、二酸化炭素排出とは別の環境問題の一因となる可能性も示唆されています。

 CFRPをベースとした構造的エネルギー貯蔵技術は強度について実績がある一方、カーボンファイバーを布状に織り込んで積層するため微細な形状・立体的な形状へ加工するのは容易ではありません。そこでカーボンファイバー同様に、電気伝導性を有する軽量・高強度な材料として、過去に同研究チームが開発しているカーボンマイクロラティスを応用しました。

今回の取り組み
 本研究では、まず光造形3Dプリンタ(注5)で造形する光硬化性樹脂に酸化マグネシウム(MgO)ナノ粒子を混合した、複合材料樹脂を調整してマイクロラティス構造を造形、構造を保ったまま炭素化しました。得られたカーボンマイクロラティスを60℃の塩酸に1日半浸漬することで、含有されているMgOナノ粒子を脱離し、コンピュータデザインによる格子構造の孔(〜100µm)を維持したまま柱の内部にナノ多孔質を導入しました。窒素ガス吸着表面積測定及び走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡を用いた観察から、柱の内部にはMgOナノ粒子の脱離に由来するメソ孔(〜50nm)に加えて、マクロ孔(〜2µm)と非常に小さいミクロ孔(〜1nm)が確認されました。この結果より、格子構造マクロ孔・メソ孔・ナノ孔の4段階の孔径を有する階層的多孔質カーボンマイクロラティスが作製されました(図1)。
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図1. 階層的多孔質カーボンマイクロラティスの外観と電子顕微鏡写真。(a)造形後・炭素化後・MgOナノ粒子脱離後の各段階での試料の外観。(b)走査電子顕微鏡と透過電子顕微鏡による4段階の多孔質構造の写真。

 マクロ孔・メソ孔・ナノ孔のネットワークは炭素化に伴う線形収縮率を従来の60〜70%から40%まで減少させるだけでなく、植物の維管束のように梁の内部に広がり、ラティスと合わせて構造全体に速やかに液体電解質を輸送する流路として機能します。ラティス構造は微細なほど充放電性能が向上し、過去のナトリウムイオン電池負極に関する研究と同様の結果が得られました。扱いやすい水系電解質・高電圧に耐える有機系電解質の両方で、最大105F・g-1及び13.8F・g-1の比容量を示し、電極面積あたりに換算して各々11.5F・cm-2 1.5F・cm-2に達しました。
 現行の電気化学キャパシタは、ナノ多孔質カーボン中の電解質輸送が遅く薄膜形状に限られていますが、今回の成果は厚さが「高さ」となるくらい立体的な構造にしても蓄電機能が発現できることを実証しました。またキャパシタとして機能する比表面積(150〜300m2 g-1)を有しながら、圧縮強度7.45~10.45MPaと剛性率400〜700MPaを示し、変形の少ない構造材料としても十分な性質を示しました。従来より形状の自由度が高い構造的エネルギー貯蔵技術の開発が期待されます。

今後の展開
 今回得られた階層的多孔質カーボン構造を用いた実用的部材の作製に向けて、単位構造は数百ミクロンのまま全体としてはより大きなラティス構造の作製が求められます。まずはドローンのボディやモバイル機器の筐体として使えるサイズを目指し、正極・負極合わせた充電デバイスとして完成させることが目下の目標となります。

謝辞

 本成果は岩谷科学技術研究助成金、日本学術振興会 科学研究費助成事業・若手研究(JP21K14709)、東北大学 新領域創成のための挑戦研究デュオFrontier Research in Duo~(2102)からの支援により得られました。

用語説明

注1. カーボンマイクロラティス
3Dプリンタで作製したジャングルジムなどの周期的格子構造(ラティス)を、不燃雰囲気・高音下で熱処理することで得られる、ほぼ純炭素製の材料。軽量で高強度なだけでなく、炭素由来の機能性を生かした応用が研究されている。
注2. 構造的エネルギー貯蔵
自動車のボディ・パソコンの筐体・飛行の翼及び胴体など、荷重・自重を支えて形状を保つ構造の部分を、エネルギーの貯蔵にも用いる発想。従来エネルギー貯蔵デバイスが占有していた容量や重量を、構造の部分に一体化して省スペース・軽量化を目指す。
注3. リチウムイオン電池
リチウムイオンが二つの電極の間を行き来することで、繰り返し充放電して使用することが可能な二次電池のひとつ。主に正極ではLiCoO2などの金属酸化物・負極では黒鉛が用いられる。
注4. 電気化学キャパシタ
二次電池と並ぶ繰り返し使用できるエネルギー貯蔵デバイスの一つ。表面積の大きな材料を電極に用いて、電荷を蓄積する。二次電池と比較すると、エネルギー密度に劣る一方で出力密度に勝る。
注5. 光造形3Dプリンタ
液状の紫外線硬化樹脂に紫外線を照射することで、硬化と積層を繰り返し造形する方式の3Dプリンタ。ステレオリソグラフィーとも呼ばれる。主にレーザーポインタ状の紫外線でパターンを描くように照射する形式・デジタルミラーデバイスを用いて紫外線レーザーに形状を持たせて照射する形式・レーザーの代わりに安価な紫外線LEDと液晶フォトマスクを用いる形式がある。

論文情報

“Stereolithography 3D Printed Carbon Microlattices with Hierarchical Porosity for Structural and Functional Applications”
Akira Kudo*, Kazuya Kanamaru, Jiuhui Han, Rui Tang, Kazuaki Kisu, Takeharu Yoshii, Shin-ichi Orimo, Hirotomo Nishihara*, Mingwei Chen*
Small
DOI:10.1002/smll.202301525
責任著者:東北大学材料科学高等研究所 助教 工藤朗
     東北大学材料科学高等研究所・多元物質科学研究所 教授 西原洋知
     ジョンズ・ホプキンス大学工学部材料科学専攻 教授 陳明偉

関連リンク

東北大学
東北大学材料科学高等研究所(WPI-AIMR)
東北大学金属材料研究所
ハイブリッド炭素ナノ材料研究分野(西原研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
助教 工藤朗
TEL:022-217-5990
E-mail: akira.kudo.b8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学材料科学高等研究所 (WPI-AIMR)
広報戦略室
TEL: 022-217-6146
E-mail:aimr-outreach*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)