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プレスリリース
中空構造を持つ球状粒子内に形成された 磁気渦の直接観測に成功 - 磁気渦粒子を用いた医療応用の展開へ -

概要

 岩手大学と東北大学は、株式会社日立製作所と共同で、サブミクロンサイズ*1 の中空マグネタイト球状粒子*2 内で磁気渦が形成していることを、電子線ホログラフィー*3 による直接観察で実証しました。
また、マイクロマグネティクス計算*4 により、中空構造を有する球状粒子では磁気渦構造に加えて、磁場中で二重に磁気渦が形成することを明らかにしました。
 今回得られた知見は、磁気渦形成に基づいた磁性粒子の医療応用の可能性と機能向上につながるものです。
本研究成果は、米国物理学協会(AIP)が発行する国際学術誌「Applied Physics Letters」の電子版に令和3年9月27日付で掲載されました。また、本成果は注目論文(Featured)に選出され、9月27日発刊号の表紙に採用されました。
 なお、本研究は文部科学省先端研究基盤共用促進事業(新たな共用システム導入支援プログラム)JPMXS0410500020で共用された機器を利用した成果です。
プレスリリース本文(PDF)

背景

 マグネタイト等の酸化鉄の磁性ナノ球状粒子は、核磁気共鳴(MRI)、標的型ドラッグデリバリー、磁気ハイパーサーミアなどの種々の応用可能性から医療分野で活発に研究されています。従来、粒子サイズが約20ナノメートル以下(1ナノメートルは10億分の1メートル)で単磁区構造*5 を示す磁性球状粒子が研究対象とされてきましたが、近年、ナノメートルからマイクロメートルまでの広範囲の粒子サイズへの適用可能性から、磁気渦構造を持つ磁性粒子が医療応用分野で注目され始めています。特に、磁性粒子が中空構造を有する場合、中空内に薬剤を内包できるため、高効率な標的型ドラッグデリバリーへの応用も期待できます。酸化鉄磁性粒子の医療応用には、磁場中での磁気状態の把握が必要不可欠ですが、特にサブミクロンサイズの球状粒子の磁気特性に関しては、磁気渦形成が予想されているものの、直接的証拠は得られていませんでした。そこで、共同研究グループは、電子線ホログラフィーを用いてサブミクロン中空球状粒子の磁気渦の直接観察に挑みました。

研究内容・成果

 今回、粒子の外径、内径がそれぞれ420ナノメートル、210ナノメートルの中空マグネタイト球状粒子(図1(a))について、電子線ホログラフィーを用いて磁区構造を調べました。従来の電子線ホログラフィー装置では十分な強度の透過電子線を得ることが困難であるため、株式会社日立製作所が開発した1.0メガボルト超高圧ホログラフィー電子顕微鏡を用いました。得られた電子線の位相変化から静電ポテンシャルによる寄与を取り除くため、試料表裏のホログラム(干渉縞)を取得し、得られた位相再生像から磁化分布を再構築しました。磁気的寄与による位相変化は粒子内で同心円状の分布を持ち、粒子中心に向かって増大することを発見しました(図1(b))。この位相変化は、磁化が粒子中心の周りに環状的に反時計回りに配列した磁気渦に対応しています(図1(c))。
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 また、サブミクロン中空球状粒子における磁気渦の安定性を調べるため、観測粒子と同サイズの中空球状粒子モデルについてマイクロマグネティクス計算を行いました。弱磁場で磁気渦(図2(a))が安定的に形成されること、高磁場中で時計回りと反時計回りの2つの磁気渦が共存する二重磁気渦が現れることが分かりました。特に、二重磁気渦は球状粒子が中空構造を持つときのみ安定的に存在することを発見しました。
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今後の展開

 今回の研究でサブミクロンサイズの中空マグネタイト球状粒子は磁気渦構造を持つことが実証されました。この結果は、磁気渦形成に基づいた医療用中空粒子の設計指針の方向性を与えると期待できます。また、外部磁場による二重磁気渦状態への磁気構造変化を利用した磁気ハイパーサーミアへの応用とその機能性向上が期待できます。

*1.サブミクロンサイズ: 1マイクロメートルの10分の1オーダーのサイズ
*2.中空マグネタイト球状粒子: 粒子内部に空洞を持つ球形のマグネタイト粒子。マグネタイト(Fe3O4)は酸化鉄の一種で磁石としての性質を持つ。
*3.電子線ホログラフィー: 観察箇所を通過した電子波である物体波と、素性の分かっている真空などの領域を通過した電子波(参照波)を干渉させ、得られたホログラム(干渉縞)から、試料の電磁場を物体波の波面の変位(位相像)として計測する方法
*4.マイクロマグネティクス計算: 磁性体内部の磁気的なエネルギーを数値的に計算し、エネルギー的に安定な磁気状態を求める手法。様々な粒子形態を仮定することができる
*5.単磁区構造: 磁性粒子内の原子が持つスピンが全て同一方向に揃った磁気状態

論文情報:
“Magnetic vortex structure for hollow Fe3O4 spherical submicron particles”
Applied Physics Letters
DOI:10.1063/5.0060439
公表日:2021年9月27日
9月27日発刊号の表紙に採用されました。
著者:
 平野 伸彦 岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程2年(研究当時)
 小林 悟  岩手大学理工学部物理・材料理工学科 教授
 野村 英志 岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程2年
 千葉 桃子 岩手大学大学院総合科学研究科 修士課程2年(研究当時)
 葛西 裕人 株式会社日立製作所研究開発グループ 主任研究員
 赤瀬 善太郎 東北大学多元物質科学研究所 講師
 明石 哲也 株式会社日立製作所研究開発グループ 主任研究員
 菅原 昭  株式会社日立製作所研究開発グループ 主任研究員
 品田 博之 株式会社日立製作所研究開発グループ 技術顧問

関連リンク:
岩手大学
東北大学
研究者ウェブサイト(赤瀬 善太郎)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
講師 赤瀬 善太郎 (あかせ ぜんたろう)
E-mail:zentaro.akase.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
電話: 022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)