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プレスリリース
フッ素化学産業および水環境を支える材料開発 ―特定PFASの吸着除去技術のこれまでとこれから―

【多元研研究者情報】有機・バイオナノ材料研究分野 助教 網貴裕、准教授 岡弘樹
【発表のポイント】

  • 有機フッ素化合物 (PFAS) (注1) は、高い安定性、撥水性、撥油性から、我が国の産業を支える重要な化合物群の一つですが、その一部 (特定PFAS) が健康への影響が懸念されるようになり、特定PFASの管理に向けた除去技術の確立が強く求められています。
  • 特定PFASの吸着除去 (注2) に関するこれまでの研究開発の動向および高性能な吸着材の設計・特徴をまとめました。
  • 今後の特定PFASの吸着材・除去技術の設計指針として、幅広いフッ素化学産業および水環境保全に貢献することが期待されます。

【概要】

有機フッ素化合物 (PFAS) は、炭素とフッ素の間に形成される強固な化学結合を特徴とする化合物群です。その高い安定性と水や油をはじく性質から、幅広い産業および我々の身の回りで利用されてきました。その一方で、特定PFASと呼ばれる一部のPFASは、健康への影響が懸念され始めています。そのため、世界各国で水環境中に存在する特定PFASの規制が急速に進んでおり、特定PFASの管理に向けた除去技術の開発が強く求められています。

東北大学多元物質科学研究所の岡弘樹准教授、網貴裕助教、柴田暁貴助教らは、特定PFASの吸着除去に関するこれまでの研究開発の動向および高性能吸着材の特徴や設計上の要点をまとめ、今後の材料開発に重要なポイントを示しました。今後の特定PFASの吸着材・除去技術の設計指針として、フッ素化学産業および水環境保全に貢献することが期待されます。

本研究成果は2026年9月16日付けで、材料科学の専門誌 ACS Materials Auに掲載されました。

研究の背景

PFASは、炭素 (C) とフッ素 (F) の間に形成される化学結合 (C-F結合) (注3)  を特徴とする有機フッ素化合物の総称です (図1左上)。その総数は理論上700万種類にのぼるとされており、強固なC-F結合に由来する高い化学的安定性や、水や油をはじきやすい撥水・撥油性などの性質をもつことから、半導体製造、泡消火剤、繊維製品、食品包装材、各種コーティングなど幅広い産業・工業用途で利用されてきました(図1)。一方で、特定PFASと呼ばれる一部のPFASは、健康への影響が懸念され始めています。


図1. PFASの特徴および主な産業・工業用途と関連産業

そのため、世界各国で特定PFASの規制が急速に進み、我が国でも、2026年4月より水道水の水質基準値として、代表的な特定PFASであるペルフルオロオクタンスルホン酸 (PFOS) とペルフルオロオクタン酸 (PFOA) の濃度が合算50 ng L-1 (注4) 以下と定められました。以上の背景から、特定PFASの管理に向けた除去技術の確立が強く求められています。

今回の取り組み

特定PFASの除去方法として、吸着材に特定PFASを取り込ませることで、水環境から直接取り除く「吸着法」が広く研究されています。吸着法は、比較的簡易な設備で稼働でき、吸着材の性質を対象物質に合わせて設計することで、除去性能を向上できる点が大きな利点です。本論文では、PFOS・PFOAといった特定PFASを中心に、欧州連合(EU)の「EU飲料水指令(EU Drinking Water Directive)」や「EU環境水質基準(EU Environmental Quality Standards: EQS)」、カナダ保健省の「PFASに関するカナダの飲料水水質目標(Objective for Canadian Drinking Water Quality: Per- and Polyfluoroalkyl Substances)」などで規制が始まっている主要な構造の異なるPFAS類を対象として、それらの吸着除去技術に関するこれまでの研究開発の動向および高い吸着性能を示す吸着材の特徴や設計上の要点をまとめました。

多くの吸着材では、特定PFASの分子構造の一部に着目して材料を設計することで、高い吸着性能を実現していました。例えば、PFOSとPFOAの構造は、大きく「炭素とフッ素で構成される鎖状部分」と「フッ素を含まない末端部分」の2つの要素に分けて捉えることができます (図2)。これらの要素はそれぞれ異なる性質を持つため、各要素に焦点を当て、その部分を捕捉することに特化した吸着材を設計することが、結果として高い吸着性能につながります。このように、特定PFAS分子全体を1つの吸着対象として捉えるのではなく、その構造を要素ごとに切り分けて理解することが、高性能な特定PFAS吸着材を合理的に設計する上で重要であることを示しました。


図2. 代表的な特定PFAS (PFOSおよびPFOA) の構造的特徴

図3. 本総説論文のイメージ図

今後の展開

PFASへの関心は世界中でさらに高まってきており、EU 圏の国々では、2026年現在において、飲料水に特定PFASであるPFOSやPFOAを含む計20種類のPFASの合計濃度(Sum of PFAS)に100 ng L-1の基準値が設けられています。河川や湖などの表層水についても、計25種類のPFASを対象にそれぞれの有害性を考慮してPFOA換算した合計濃度について、年間平均4.4 ng L-1の環境水質基準が新たにEU指令に盛り込まれています。カナダでは、保健省が計25種類のPFASの合計濃度について30 ng L-1の目標値を設定するなど、特定PFASの規制・監視対象が広がっています。

今後は、特定PFAS吸着材のさらなる高性能化に向けて、対象とするPFAS種に適した材料設計がより一層求められると考えられます。本研究成果による知見は、今後の特定PFASの吸着材・除去技術の高度化を通じて、我が国の重要産業であるフッ素化学産業および水環境保全に貢献することが期待されます。

謝辞

本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST) 戦略的創造研究推進事業CREST 「環境中PFASの検出・濃縮・光分解の統合科学」 (JPMJCR26X6) および国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) 先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム 「特定PFASの無害化・資源循環に向けた検出・分解技術の開発」 (JPNP14004) の支援を受けて実施されました。

用語説明

注1.有機フッ素化合物 (PFAS) /特定PFAS:PFASは、炭素とフッ素の結合を持つ多様な有機フッ素化合物の総称です。本論文では、その中でも健康への影響が特に懸念され始めているPFASを「特定PFAS」として扱っています。

注2.吸着・吸着材:吸着とは、物質が固体の表面や内部に取り込まれる現象です。この性質を利用してある環境から特定の物質を取り除く方法を吸着法、そのために用いる材料を吸着材と呼びます。

注3.C-F結合:炭素 (C) とフッ素 (F) の間に形成される共有結合であり、有機化合物の共有単結合の中で最も高い結合解離エネルギー(約485 kJ mol−1)を示す極めて安定な化学結合です。

注4.ng L-1:水1 L当たり10億分の1 gの物質を含むことを表します。

 

論文情報

“Adsorption of Per- and Polyfluoroalkyl Substances across Molecular Classes: Understanding Adsorption Behavior and Adsorbent Performance”
網 貴裕*, 柴田 暁貴, 笠井 均, 岡 弘樹*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 助教 網 貴裕、准教授 岡 弘樹
ACS Materials Au
DOI: 10.1021/acsmaterialsau.6c00168

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 岡 弘樹
TEL: 022-217-5812
Email: oka*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)