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プレスリリース
ナノ粒子が分解・溶解する過程を蛍光色の変化で可視化 ―東北大発「キャリアフリーナノ医薬品」の実用化に向けた新たな解析技術―

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国立大学法人東京科学大学

【多元研代表研究者情報】 有機・バイオナノ材料研究分野 教授 笠井均

【発表のポイント】

  • ナノ粒子の構造が崩れると光の色が変化する新技術を開発し、細胞内で「分解・溶解する過程」をリアルタイムに可視化することに成功しました。
  • 薬物を運ぶカプセル(担体)を使わず、薬物そのものをナノ粒子化した東北大発「キャリアフリーナノ医薬品(注1)」が細胞内でどのように分解・溶解して効くのかを直接解析することが可能になりました。
  • 本技術により、ナノ医薬品が分解・溶解する過程を定量的に評価できるようになり、より高い有効性と安全性を備えた次世代ナノ抗がん剤(注2)の設計・開発への貢献が期待されます。

【概要】

ナノ医薬品の設計・開発では、投与した薬物が細胞内へ取り込まれ、いつ、どのように分解・溶解して作用するのかを正確に把握することが重要です。しかし、細胞内に取り込まれたナノ粒子が分解・溶解する過程をリアルタイムかつ定量的に追跡することはこれまで困難でした。

東北大学多元物質科学研究所の笠井均教授、谷田恵太助教、濵口祐准教授らは、北海道大学電子科学研究所の雲林院宏教授(兼:京都大学高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS))、Taemaitree Farsai助教、京都大学化学研究所の若宮淳志教授、東北大学大学院医学系研究科の中澤徹教授、佐藤孝太助教、理化学研究所 放射光科学研究センターの米倉功治グループディレクター(兼:東北大学多元物質科学研究所 教授)、博士・勝部哲特別研究員、博士・川上恵典研究員、東京科学大学理学院の火原彰秀教授、県立広島大学の小関良卓准教授、仙台高等専門学校の鈴木龍樹助教との共同研究で、ナノ粒子が細胞内で分解・溶解する過程を「蛍光色の変化」というシグナルに変換して直接観察する新たな技術を開発しました。

本成果は、ナノ医薬品の分解・溶解する過程を定量的に解析する新たな基盤技術となり、次世代ナノ抗がん剤の実用化へ、大きく貢献することが期待されます。

本研究成果は、2026年9月6日付で、国際学術誌Advanced Scienceに掲載されました。

【詳細な説明】

研究の背景

ナノテクノロジーを応用したナノ抗がん剤は、がん組織へ効率よく薬を届ける治療法として期待されています。しかし、投与された薬物が細胞に入ったあと、いつ・どのように分解されて効果を発揮するのかを定量的に追跡することは容易ではありませんでした。

従来、細胞内での薬物の動きを追跡する方法として、蛍光(注3)を利用した観察が広く用いられています。しかし、一般的な蛍光色素では、ナノ医薬品が分解・溶解する前後の状態を明確に区別することが困難でした。蛍光の強さは、周囲の環境に大きく影響され、溶ける過程で環境が複雑に変化する細胞内では蛍光の強さが大きく変動するためです。単純に蛍光の強さだけを測定しても、ナノ粒子がどの程度分解・溶解したのかを正確に評価することができません。

特に、薬を運ぶカプセル(担体)を使わず薬物成分のみで構成されるキャリアフリーナノ医薬品は、担体由来の副作用がない安全な新薬として注目されています。しかし、細胞内で溶ける量を正確に測れない、という技術的限界が、作用機序の理解や実用化に向けた課題の一つとなっていました。

今回の取り組み

本研究グループは、従来の蛍光観察の課題を克服するため、ナノ粒子が溶ける前後で蛍光の色(波長(注4))が変化する蛍光ナノ粒子を開発しました。本技術では2種類の蛍光色素を用いることでFRET(注5)と呼ばれる現象を利用しています(図1)。その結果、ナノ粒子の状態では2種類の蛍光色素が近接しているためオレンジ色の蛍光を示します。一方で、ナノ粒子の構造が崩れて蛍光色素同士の距離が離れると、黄緑色の蛍光を示します。このオレンジ色と黄緑色の蛍光強度の比率を測定することで、周囲の環境に影響されることなく定量化できるようになりました。

この技術を用いて実際の細胞内を顕微鏡で観察したところ、子宮頸がん細胞株において、投与から12時間後には約80%のナノ粒子が溶けていることが確認されました(図2)。さらに、本技術を活用してナノ粒子が溶ける詳細な仕組みも解明しました。ナノ粒子は細胞内で不要な物質や取り込まれた物質を分解するリソソーム(注6)に取り込まれます。研究チームはリソソーム内の酸性環境に着目し、酸性環境を阻害する薬を同時に投与したところナノ粒子の溶解が明確に抑制されました。この結果から、リソソーム内の酸性環境によってナノ粒子の分解が直接誘導されることが示されました。さらに、リソソーム内部を模倣した実験により、分解・溶解した後に蛍光色素が生体膜(細胞膜など)に蓄積していく様子も確認され、ナノ医薬品が細胞内に取り込まれた後の分解・溶解挙動と、その後の成分の移行について、詳細な理解が得られました。

今後の展開

これまで推測に頼る部分が多かった、細胞内におけるナノ粒子の分解・溶解の過程を定量的に評価できるようになったことで、ナノバイオ・薬学分野の解析手法に大きな変革をもたらします。本技術は、ナノ医薬品の細胞内動態を評価する革新的な解析技術として幅広く活用されることが期待されます。

さらに、薬物そのものをナノ粒子化するキャリアフリーナノ医薬品について、その細胞内での挙動を詳細に解析できるようになることで、より高い有効性と安全性を目指した次世代ナノ医薬品の開発を支える基盤技術となることが期待されます。

図1. 光の色の変化でナノ粒子が細胞内で溶けた割合を測る仕組み

 

図2. がん細胞内で蛍光ナノ粒子が溶けていく様子(12時間後の変化)

【謝辞】

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費(JP22H00328、JP25H00827、JP25K09889)、日本医療研究開発機構(AMED)創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS)(JP24ama121006)、科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業(JPMJMI23G2)、およびフランダース研究基金(ベルギー、 G022724N)の支援を受けて実施されました。また、掲載論文は「東北大学 2026年度オープンアクセス推進のための APC 支援事業」により Open Access となっています。

【用語説明】

注1.キャリアフリーナノ医薬品:薬物を届けるためのナノサイズの人工カプセル(担体)を使用せず、薬物の成分自体をナノ粒子化した医薬品。カプセルに起因する毒性や副作用を回避できるメリットがある。

注2.ナノ抗がん剤:100ナノメートル(1万分の1ミリ)程度のサイズで製剤化した抗がん剤。

注3.蛍光:特定の光を当てると自ら光を発する性質。従来の蛍光観察では「光の強さ(明るさ)」で判断していたため、環境変化に弱く正確な量の測定が困難だった。

注4.波長:光の色を決める波の長さ。波長が変わることで、人間の目や検出器には「光の色の変化」として観察される。

注5.FRET:フェルスター共鳴エネルギー移動。近接した2種類の蛍光分子間でエネルギーが移動する現象。ナノ粒子の構造が崩れる(溶ける)と分子同士の距離が離れるため、蛍光色が変化する。

注6.リソソーム:細胞内にある小機関の一つ。内部は酸性に保たれており、不要になった物質や外から取り込んだ物質を分解する役割を持つ。

【論文情報】

“Quantitative Visualization of Intracellular Nanometabolism Using Peak-Shifted Dual-state Emissive FRET Nanoprobes”
Farsai Taemaitree, Jinwoo Sung, Yutaro Miki, Ryuju Suzuki, Yoshitaka Koseki, Kunikazu Ishii, Minsang Kim, Keita Tanita, Kota Sato, Toru Nakazawa, Satoshi Katsube, Daisuke Unabara, Tasuku Hamaguchi, Keisuke Kawakami, Koji Yonekura, Akihide Hibara, Atsushi Wakamiya, Hiroshi Uji-I, Hitoshi Kasai*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 教授 笠井 均
Advanced Science
DOI:10.1002/advs.77509

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 笠井 均(かさい ひとし)
TEL: 022-217-5612
Email: kasai*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL: 022-217-5198
Email: press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

北海道大学 社会共創部広報課
TEL: 011-706-2610
Email: jp-press*general.hokudai.ac.jp(*を@に置き換えてください)

京都大学 広報室 国際広報班
TEL: 075-753-5727
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理化学研究所 広報部 報道担当
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東京科学大学 総務企画部 広報課
TEL: 03-5734-2975
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