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プレスリリース
COF–グラフェン界面が拓く次世代リチウム硫黄電池 ―ポリスルフィドの閉じ込めと硫黄変換促進により 高出力・長寿命化を実現―

【発表のポイント】

    • 次世代蓄電池として期待されているリチウム硫黄(Li–S)電池の課題である容量低下を、テトラチアフルバレン(TTF)とクラウンエーテルを組み込んで開発した共有結合性有機構造体(COF)(注1)「TUS-44」を活用することで精密に制御できることを示しました。
    • TUS-44@G層は、リチウムポリスルフィド(LiPSs)(注2)を化学的に捕捉しながら、硫黄酸化還元反応(注3)の変換速度を高め、リチウム硫黄電池(注4)のシャトル効果(注5)を抑制しました。
    • TUS-44@Gを導入した電池は、0.2 A g−1で1455.7 mA h g−1の高容量、10 A g−1で773 mA h g−1の高レート性能、5 A g−1で1000サイクル後も1サイクルあたり0.034%という低い容量劣化を示しました。
    • TUS-44@Gを用いたリチウム硫黄パウチセルは、約674 Wh kg⁻¹の初期エネルギー密度を示し、実用化へ向けた可能性を示しました。

 

【概要】
リチウム硫黄(Li–S)電池は、高エネルギー密度を実現できる次世代蓄電池として期待されていますが、充放電中に生成する可溶性リチウムポリスルフィドの移動(シャトル効果)による容量低下が課題でした。

東北大学多元物質科学研究所の根岸雄一教授、Das Saikat講師らの研究グループは、蘭州大学およびSRM University APとの共同研究により、TTF骨格とベンゾ[18]クラウン-6骨格を組み込んだ新規COF「TUS-44」を開発し、導電性グラフェンとの複合体(TUS-44@G)をセパレーター中間層として導入しました。TUS-44は、イミン窒素、クラウンエーテル酸素、TTF由来の硫黄部位を利用してリチウムイオンとポリスルフィドを効率的に捕捉し、硫黄変換反応を促進します。その結果、TUS-44@G電池は0.2 A g⁻¹で1455.7 mA h g⁻¹、10 A g⁻¹で773 mA h g⁻¹の高容量を示し、5 A g⁻¹で1000サイクル後も容量劣化率0.034%/サイクルという優れた耐久性を達成しました。さらに、パウチセルでは約674 Wh kg⁻¹の高エネルギー密度を実現しました。
本成果は、高エネルギー・長寿命Li–S電池の実現に向けた新たな材料設計指針を示すものです。

本研究成果は2026年6月16日付けで科学誌Smallに掲載されました。

【詳細な説明】
研究の背景と経緯

電気自動車や再生可能エネルギーの普及に伴い、高エネルギー密度で低コストな蓄電池の開発が世界的に求められています。リチウム硫黄電池は、硫黄の理論容量が1672 mA h g−1と大きく、硫黄が安価で資源量も豊富であることから、次世代二次電池として注目されています。

一方で、リチウム硫黄電池では充放電時に可溶性のリチウムポリスルフィド(Li2S4–Li2S8)が生成し、セパレーターを通過して負極側へ移動します。このシャトル効果は、活物質の損失、リチウム負極での副反応、電解液消費、容量低下を引き起こします。

これまで多孔性炭素、金属酸化物、導電性高分子、MOFおよびCOFなどを用いた多くの対策が検討されてきました。しかし、高いポリスルフィド固定化能、速い電子移動、低い界面抵抗、長期安定性を同時に満たす軽量な界面材料の設計は依然として困難でした。

研究の内容

本研究では、TTF由来の四方向性アニリン分子BDTTと、ベンゾ[18]クラウン-6由来の四方向性アルデヒド分子B18C6を用い、シッフ塩基縮合反応によりイミン結合型π共役COF「TUS-44」を合成しました(図1)。粉末X線回折、窒素吸着測定、FT-IR、固体13C NMRなどにより、TUS-44がAA積層の二次元bexトポロジーを有し、約0.9および1.2 nmの均一な細孔を持つことを確認しました。BET比表面積は約516 m2 g−1でした。

TUS-44を導電性グラフェンと複合化し、ポリプロピレンセパレーター上に真空ろ過で成膜することで、TUS-44@G/PP機能性セパレーターを作製しました(図2)。この層では、イミン窒素がリチウムイオンの主要な固定点、クラウンエーテル酸素が補助的な配位点およびイオン輸送経路、硫黄豊富なTTFユニットが電子的相互作用およびレドックス媒介部位として働きます。

拡散実験では、TUS-44@G膜が可溶性ポリスルフィドの透過を効果的に抑制することが示されました。さらに、電気化学インピーダンス測定および充放電解析から、TUS-44@G界面が電荷移動を促進し、硫黄–ポリスルフィド–硫化リチウム間の可逆変換を加速することが分かりました(図3)。

TUS-44@Gを組み込んだリチウム硫黄電池は、0.2 A gで1455.7 mA h g−1の高い初期容量を示し、10 A g−1という高電流密度でも773 mA h g−1を維持しました。さらに、5 A g−1で1000サイクル作動させた場合でも、容量劣化は1サイクルあたり0.034%にとどまりました。

実用形態に近いパウチセル評価では、硫黄量44.558 mg、電極面積24.08 cm2の条件で安定に作動し、約674 Wh kg−1の初期エネルギー密度を達成しました。これは、分子設計されたCOF@グラフェン界面が、高エネルギー密度電池においても有効であることを示しています。

今後の展開

本研究は、COFの分子設計を利用して、リチウム硫黄電池の界面反応を精密に制御できることを示した成果です。従来の「ポリスルフィドを遮断する」設計から一歩進み、ポリスルフィドを捕捉しながら反応変換を促進する「反応性界面」という新しい考え方を提示しました。

今後は、COF骨格の電子伝導性、細孔環境、官能基配置、グラフェンとの複合化条件をさらに最適化することで、より高硫黄担持、低電解液量、長寿命化を同時に実現するリチウム硫黄電池の開発が期待されます。

また、本研究で示された分子レベルの界面設計は、リチウム硫黄電池だけでなく、金属空気電池、ナトリウム硫黄電池、電極触媒、イオン選択膜など、多様な電気化学デバイスへ展開できる可能性があります。

図1.
TUS-44@G 機能界面層を備えたリチウム–硫黄(Li–S)電池の模式図。 ポリスルフィドの選択的捕捉とレドックス触媒機能が協奏的に働くことで、硫黄種の反応経路を精密に制御し、S8、可溶性リチウムポリスルフィド、およびLi2S2/Li2S間の高速かつ可逆的な変換を促進する。同時に、ポリスルフィドのシャトル移動を効果的に抑制し、優れた長期サイクル安定性を備えた電気化学動作を実現する。

 

図2.
TUS-44フレームワークの構築と粉末X線回折解析による結晶構造の検証

図3.
TUS-44@G機能界面による硫黄レドックス反応の制御と電気化学的挙動。

謝辞

本研究は、環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20253003)、JSPS科研費(JP23H00289、JP23KK0098)、中部電力原子力安全技術研究所研究助成、ならびにFUSO革新的技術基金の支援を受けて実施しました。

用語説明

注1. 共有結合性有機構造体(COF: Covalent Organic Framework):有機分子同士が共有結合により周期的に連結された結晶性多孔材料。細孔サイズ、骨格構造、官能基、電子状態を分子レベルで設計でき、吸着、分離、触媒、エネルギー貯蔵など幅広い応用が期待されている。

注2.リチウムポリスルフィド(LiPSs: Lithium Polysulfides):リチウム硫黄電池の充放電過程で生成するLi2Sx(一般にx = 4–8など)の可溶性中間体。電解液中に溶出しやすく、セパレーターを通過して負極側へ移動すると容量低下や副反応の原因となる。

注3.硫黄酸化還元反応:リチウム硫黄電池において、硫黄(S8)がリチウムポリスルフィドを経由してLi2S2/Li2Sへ還元され、充電時には逆方向へ酸化される多段階反応。反応速度が遅いと高レート性能や長寿命化が制限される。

注4.リチウム硫黄電池:硫黄を正極活物質、リチウム金属を負極として用いる二次電池。硫黄の高い理論容量と低コスト性から次世代高エネルギー密度電池として期待されるが、ポリスルフィドシャトルや反応速度の遅さが課題である。

注5.シャトル効果:充放電中に生成した可溶性リチウムポリスルフィドが正極と負極の間を移動し、副反応を繰り返す現象。活物質の損失、自己放電、クーロン効率低下、寿命低下の主因となる。

 

論文情報

“Polysulfide Immobilization and Sulfur Conversion Kinetics Promotion via a Tetrathiafulvalene–Crown Ether COF@Graphene Layer for High-Rate Lithium–Sulfur Batteries”
著者:Kai Sun2, Tsukasa Irie1, Samim Reza3, Kohki Sasaki1, Mika Nozaki1, Tokuhisa Kawawaki1, Yujun Fu2, Dequan Liu², Ranjit Thapa*3, Saikat Das1*, Deyan He2*, Yuichi Negishi1*(1.東北大学多元物質科学研究所、2.蘭州大学、3.SRM University AP)
†これらの著者は本研究に同等の貢献をしました。
*責任著者:東北大学 多元物質科学研究所 根岸 雄一教授
蘭州大学 Deyan He教授
東北大学 多元物質科学研究所 Das Saikat講師
SRM University AP Ranjit Thapa教授
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DOI:10.1002/smll.74240

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
教授 根岸雄一
TEL:022-217-5604
Email:yuichi.negishi.a8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学多元物質科学研究所
講師 Das Saikat
TEL: 022-217-5606
Email: das.saikat.c4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)