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プレスリリース
タンパク質液滴の運命はサイズで決まる ―微細加工技術を用いてアミロイド形成を左右する 新たな競合過程を発見―

国立大学法人東北大学
国立大学法人東京科学大学
国立研究開発法人産業技術総合研究所
国立大学法人神戸大学
国立大学法人大阪大学

【発表のポイント】

  • タンパク質が細胞内でつくる液滴状の集合体(液滴ともよばれる)が、アミロイド線維(注1だけでなく、アモルファス凝集体(注2にも変化することを見いだしました。
  • マイクロ流体デバイス(注3で細胞に近い大きさの微小油中水滴を作り、液滴が小さいほどアミロイド線維の形成が抑えられることを定量的に示しました。
  • 液滴の中では、安定なアミロイド線維と、準安定なアモルファス凝集体が競合して形成し、液滴の大きさが最終的な凝集体の種類を左右することを明らかにしました。
  • 細胞内のような微小空間で起こるタンパク質凝集の理解を深め、神経変性疾患などに関わる凝集過程を評価する新しい視点を提供する成果です。

アルツハイマー病やパーキンソン病などの多くの疾患では、タンパク質が異常に集合することが関わっています。

東北大学を中心とする研究グループは、マイクロ微細加工技術を利用して細胞に近い大きさの微小油中水滴を作製し、タンパク質液滴(注4)からアミロイド線維ができる過程を観察しました。その結果、タンパク質液滴はアミロイド線維だけでなく、別の固体状態であるアモルファス凝集体にも変化し、両者が競合することを明らかにしました。特に、小さい液滴ではアモルファス凝集体が先にできやすく、アミロイド線維の形成が抑えられました。これは、従来の試験管内実験では見えにくかった準安定な凝集状態が、細胞サイズの微小空間では重要な役割を持つことを示しています。

本成果は、タンパク質凝集疾患に対する新しい薬剤評価法や治療戦略の開発につながることが期待されます。また、微小空間におけるタンパク質凝集過程を実験データと数理モデルにより定量的に捉える本研究のアプローチは、より精密な解析に膨大な計算を要しますが、将来的には量子・古典ハイブリッド計算をはじめとする先端計算技術の活用も視野に入れることで、創薬・生命科学分野の新たな解析・評価手法の開発にもつながることが期待されます。

本研究成果は、2026年6月6日付(現地時間)で、学術誌Journal of the American Chemical Society に掲載されました。

なお、本研究成果は、東北大学の福山真央 准教授、梶本真司 准教授、中林孝和 教授、東京科学大学の大橋祐美子 特任講師、田口英樹 教授、火原彰秀 教授、産業技術総合研究所の水野雄太 主任研究員、冨田峻介 研究グループ長、神戸大学の茶谷絵里 教授、大阪大学の中島吉太郎 准教授、筑波大学の白木賢太郎 教授、ケンブリッジ大学のTuomas Knowles教授らの研究チームの共同研究によるものです。

研究の背景

タンパク質は、細胞の中で単独の分子として働くだけでなく、多数の分子が集まった状態をつくることで、さまざまな機能を担っています。近年、細胞内ではタンパク質が液状集合体(液滴)を一時的につくることが分かってきました。このようなタンパク質液滴は、遺伝子発現の制御やストレス応答などに関わる一方で、時間がたつと固体状の凝集体へ変化することがあります。

固体状の凝集体の代表例がアミロイド線維です。アミロイド線維は、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など、さまざまな疾患との関連が知られています。一方、タンパク質はアミロイド線維以外にも、より無秩序な固体状態であるアモルファス凝集体をつくります。

従来の試験管内実験では、管内の溶液全体が一つの大きな反応場として振る舞うため、途中でできる不安定な状態が見えにくく、アミロイド線維とアモルファス凝集体の関係を定量的に調べることは困難でした。特に、細胞内のように限られた小さな空間では、タンパク質分子の数や液滴の大きさが凝集の進み方に大きく影響する可能性がありますが、その効果は十分に分かっていませんでした。

今回の取り組み

本研究では、酵母プリオンタンパク質Sup35のNMドメイン(Sup35NM)をモデルタンパク質として用いました。研究グループは、マイクロ流体デバイスにより数十マイクロメートルサイズの油中水滴を多数作製し、その中にSup35NM液滴を一つずつ閉じ込めました。油中水滴の大きさを変えることで、液滴の大きさを制御し、アミロイド形成の確率を多数の液滴で定量しました。

その結果、大きな液滴ではアミロイド線維が高い確率で形成しましたが、小さな液滴ではアミロイド線維が形成しない例が多く見られました。蛍光回復測定(FRAP)(注5)やラマン分光測定(注6)により、アミロイド線維が形成しなかった液滴は液体のままではなく、アモルファス凝集体という固体状態に変化していることが示唆されました。

さらに、アミロイド線維とアモルファス凝集体の形成を競合過程として扱う速度論モデルを構築してシミュレーションしたところ、実験で観察されたアミロイド形成確率の液滴サイズ依存性をよく再現できました。これは、小さい液滴ではアミロイド核ができる前にアモルファス凝集体へ変化しやすく、その結果アミロイド形成が抑えられることを示しています。

本研究の重要な点は、タンパク質液滴の「大きさ」が、その後に形成する凝集体の種類を左右することを実験的に示した点です。従来の大きな試験管内実験では、安定なアミロイド線維が最終的に優勢になりやすいため、途中で生じる準安定なアモルファス凝集体の寄与を捉えることが困難でした。これに対して、本研究では微小油中水滴を用いて一つ一つの液滴を独立した反応場として観察することで、アミロイド線維の形成とアモルファス凝集体の形成が競合することを定量的に明らかにしました。

図1. 研究の概要。タンパク質液滴は、安定なアミロイド線維と、準安定なアモルファス凝集体のどちらにも変化します(A)。微小油中水滴に閉じ込めることで、両者の競合を一つ一つ観察できます(B)。

図2. 液滴サイズがタンパク質凝集に与える影響。大きな液滴ではアミロイド線維が形成しやすい一方、小さい液滴ではアモルファス凝集体が形成しやすく、アミロイド形成が抑えられます。このことから、液滴の大きさがタンパク質凝集の進み方を左右することが分かりました。

今後の展開

本成果は、タンパク質液滴からアミロイド線維が形成する過程を理解するうえで、液滴の大きさとアモルファス凝集体との競合が重要であることを示しました。細胞の大きさは数マイクロメートルから数十マイクロメートル程度であり、細胞内のタンパク質液滴も数ナノメートルから数マイクロメートル程度の大きさです。そのため、本研究で用いた微小油中水滴系は、従来の試験管内実験よりも細胞内環境に近い特徴を持つと考えられます。

今後は、アルツハイマー病に関わるタウタンパク質や、パーキンソン病に関わるαシヌクレインなど、他の疾患関連タンパク質でも同様の競合過程が起こるかを調べることが重要です。また、創薬候補物質がアミロイド線維だけでなく、アモルファス凝集体の形成にもどのような影響を与えるかを評価することで、タンパク質凝集疾患に対する新しい薬剤評価法や治療戦略の開発につながることが期待されます。

本研究で示されたように、微小空間におけるタンパク質凝集過程の理解には、実験データと数理モデルを組み合わせた定量的な解析が重要です。こうした確率論的な反応過程解析は、実験データのばらつきも含めて、より精密に行うのに膨大な計算を必要としますが、将来的には量子・古典ハイブリッド計算をはじめとする先端計算技術の活用も視野に入れることで、創薬・生命科学研究のさらなる発展につながることが期待されます。

謝辞

本研究は、JSPS科研費(JP22K18316、JP24KK0104、JP23H01995、JP24K22008、JP24K01508、JP25K02243)、JST創発的研究支援事業(JPMJFR211Y、JPMJFR233R)、JSTさきがけ(JPMJPR20E5、JPMJPR24KA)、物質・デバイス領域共同研究拠点」の共同研究プログラム、文部科学省先端研究基盤共用促進事業 (JPMXS0440600022)、European Research Council(DiProPhys 101001615)、Marie Skłodowska-Curie grant MicroREvolution(agreement no. 101023060)、Frances and Augustus Newman Foundation、Finlay familyの支援を受けて行われました。

 用語説明

注1.アミロイド線維:タンパク質が規則正しく並んでできる細長い線維状の凝集体です。多くの神経変性疾患との関連が知られています。

注2.アモルファス凝集体:タンパク質が無秩序に集まってできる固体状の凝集体です。アミロイド線維に比べて構造の規則性が低い状態です。

注3.マイクロ流体デバイス:髪の毛ほどの細い流路を使って、微小な液滴や少量の液体を精密に扱う装置です。

注4.タンパク質液滴:細胞内でタンパク質などの分子が集まり、液滴のような状態をつくったものです。膜を持たない細胞内構造の形成に関わります。

注5.蛍光回復測定(FRAP):蛍光標識した分子の一部を光で退色させ、その後の蛍光の回復を測る方法です。分子がどの程度動けるかを調べることができます。

注6.ラマン分光測定:光を当てたときの散乱光を調べることで、分子の構造や状態を解析する方法です。

 

論文情報

“Size of Biomolecular Condensates Dictates Fate in Liquid-Solid Phase Transitions through Amorphous-Amyloid Competition”
Junka Kawakami, Taiki Ozawa, Yoko Maruyama, Honoka Ishikawa, Yuto Oshita, Kota Yamauchi, Koichi Kobayashi, Shinji Kajimoto, Takakazu Nakabayashi, Shunsuke Tomita, Tanushree Agarwal, Tomas Sneideris, Kichitaro Nakajima, Kentaro Shiraki, Hideki Taguchi, Akihide Hibara, Tuomas Knowles, Eri Chatani, Yuta Mizuno*, Yumiko Ohhashi*, Mao Fukuyama*
*責任著者:東北大学多元物質科学研究所 准教授 福山真央、東京科学大学総合研究院細胞制御工学研究センター 特任講師 大橋祐美子、産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター 主任研究員 水野雄太
Journal of the American Chemical Society
DOI:10.1021/jacs.6c02816

 

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学多元物質科学研究所
准教授 福山 真央(ふくやま まお)
Email:maofukuyama*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること)
東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
TEL:022-217-5198
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東京科学大学 総務企画部 広報課
TEL:03-5734-2975
Email:media*adm.isct.ac.jp(*を@に置き換えてください)

産業技術総合研究所 ブランディング・広報部 報道室
TEL:029-862-6216
Email:hodo-ml*aist.go.jp(*を@に置き換えてください)

神戸大学 企画部広報課
TEL:078-803-5106
Email:ppr-kouhoushitsu*office.kobe-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)

大阪大学 工学研究科総務課 評価・広報係
TEL:06-6879-7231
Email:kou-soumu-hyoukakouhou*office.osaka-u.ac.jp(*を@に置き換えてください)