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お知らせ
ナノメートルオーダーで位置合わせが可能なナノインプリント技術を nano tech 2026にて紹介

0.8倍の暗視野光学系で精度10nm以下の位置ずれを検出

  • nano tech 2026東北大学多元物質科学研究所ブース(1W-C22)において、中川勝教授らが日本と米国で権利化した特許技術「位置合わせ法、積層体の製造方法、位置合わせ装置、積層体製造装置、及び積層体」の位置合わせ法について紹介します。
  • 本技術は、8倍の暗視野光学系[1]で、合成石英製の上部基板(成形型)に対するシリコン基板(下部基板)の位置ずれを精度10nm以下で検出可能です。
  • 本技術を搭載したナノインプリント装置[2]により、半導体や透明基板のナノ加工が可能となり、ナノ構造体からなるメタオプティクス[3]やメタフォトニクス[4]の積層型デバイス製造への応用が期待されます。

nano tech 2026期間中は、本件発明者の中川勝教授と研究室スタッフが、多元物質科学研究所ブース(1W-C22)にてご説明しますので、ぜひお越しください。本技術を搭載した装置の実機を、共同研究企業の明昌機工株式会社のブース(AT-L06)にてご覧いただけます。

特許情報
特許番号:特許第7768,564号(日本)、US12,485,604-B2(米国)
登録日:2025年11月4日(日本)、2025年12月2日(米国)
発明の名称:位置合わせ方法、積層体の製造方法、位置合わせ装置、積層体製造装置、及び積層体
特許権者:国立大学法人東北大学
発明者:中川勝、原田スバル、早川俊昭

詳細な説明

(1)研究開発の背景

微細加工や積層化においては、ナノ構造体を形成する位置が重要であり、位置合わせのずれが性能に大きく影響を及ぼすことから、10nm以下の位置ずれ量を計測可能な製造装置が必要とされています。従来、ナノ構造体の位置ずれ量の計測は、高倍率での実物観察や、積のモアレ(光の干渉縞)を用いて実際の位置ずれ量を差分周波数として観測可能な低周波信号に変換する方法などが用いられていますが、高精度の位置合わせの計測では、非常に大掛かりで高額な製造装置でしか実現できていませんでした。

東北大学 多元物質科学研究所の中川勝教授らの研究グループは、ナノインプリント成形加工技術の研究開発を行っています。光硬化性樹脂からの蛍光や微小構造体からの散乱光を検出する位置合わせ方法について、画像解析の観点から研究を進め、独立4組検出マークを特徴とする位置合わせ技術を発明しました。研究開発や中小企業での製造に使える、手軽に高精度の位置ずれ量を検出することが可能な、ナノ構造体の製造に資する微細加工用のパターン形成が行えるナノインプリント成形装置を開発することを目標として、2021年より明昌機工株式会社との共同研究を進めてきました。

「独立4組検出マーク」について、0.8倍の暗視野撮像の例を紹介します。

上部基板(成形型の合成石英モールド)に長周期p1と短周期p2を配置、下部基板(シリコン)の表面にも短周期p2と長周期p1の棒状配列体を配置しています。このように、4組の独立検出マークを使用するところが本技術の特徴です。
赤色枠は、位置ずれ量を検出するパターンの認識領域です。黄色枠内の棒状配列体から生じた散乱光を撮像して、それらの周期を余弦波(Cos関数)で解析し、各余弦波の位相差から、上部基板(成形型)と下部基板(シリコン基板)の位置ずれ量を1nmの桁精度で認識できます。

(2)研究内容

実物大の等倍程度の撮像では、1画素に投影されるサイズは5μm程度となるため、10nm以下の位置ずれ量の検出は撮像画素サイズの約2000分の1のずれ量を計測することになります。本技術では、2種類の周期を有する棒状配列体の2組を成形型(合成石英モールド)とシリコン基板のそれぞれに配置し、お互いが重ならないように重ね合わせます。この独立4組検出マークを用いることで、理論上1nm未満の位置ずれ量の検出が可能です。本技術を搭載した装置では、実際に0.8倍の暗視野光学系での散乱光検出で10nm以下の精度で成形型(合成石英モールド)に対するシリコン基板の位置ずれ量を検出できることを確認しました。(図1)

図1. 本技術を搭載した装置での10nm以下に位置合わせ(アライメント)が収束するまでの時間

(3)今後の展開

位置ずれ量の検出技術は、高速撮影と組み合わせることでナノスケールでの振動計測への応用が可能となります(特許出願中)。実際に、今回開発したナノインプリント成形装置において装置振動の抑制に役立ちました。市販のピコメートル(ナノメートルの1000分の1)の変位を計測できるレーザー干渉計[5]と同等の性能を示すことも確認しました(図2)。

図2. 市販のレーザー干渉計による位置ずれ量の検出と、本位置合わせ技術を搭載したナノインプリント装置(明昌機工製作)での取得画像から計測された位置ずれ量の同時計測の結果を表す図

可視光照明の検出系では、合成石英製の平面光学素子(フラットオプティクス)の重ね合わせに、近赤外照明の検出系では、シリコン基板の重ね合わせにも利用可能です。装置振動の抑制技術の進歩により1nm分解能、さらには原子レベルの0.1nm分解能での位置ずれ量検出技術の創出も可能になると考えています。可視光や赤外光を変調するメタオプティクスやメタフォトニクスでの積層型デバイス製造への貢献が期待されます。

図3. ナノインプリント装置(明昌機工製作)を用いて、光硬化性樹脂を成形し、成形体をレジストとして残膜除去・シリコンのドライエッチングにより得られたシリコンナノディスク(東北大学で製作)の走査型電子顕微鏡写真(左)とシリコン基板の写真(右)

補足説明

[1] 暗視野光学系:撮像光学系において暗視野照明を用いていること。偏斜照明を利用して、通常の照明条件(例えば透過や反射)では良好なイメージングが難しい標本のコントラストを強調する手法。本発明では、可視光領域に対して透明な合成石英製の成形型と不透明なシリコン基板の表面に、微細加工を施し、そこから発生する散乱光を検出する方法を利用している。

[2] ナノインプリント成形装置:ナノメートル(nm)単位の微細な凹凸パターンを持つ成形型(モールド)を基板表面に配置された液状の光硬化性樹脂に押し当てて、紫外線照射により硬化させて、成形型のパターン形状を転写・複製する装置。最近では4nm世代向けの最先端の半導体用露光装置がキヤノン株式会社から発表されている。この半導体露光技術の応用で、安価かつ大面積・大量生産が可能なため、光学デバイス(マイクロレンズ・回折格子・光学センサー・光通信部品)、バイオ・医療デバイス(DNA解析用バイオチップ・細胞培養用基材)、電子デバイス(半導体回路素子・光・電気回路素子)、マイクロ流体デバイスやMEMSなど、幅広い分野で低コスト・低消費エネルギーな微細加工技術として注目されている。

[3] メタオプティクス:ナノスケールの構造体により光の波面・偏光・振幅を自在に制御し、従来の屈折・反射光学を超える機能を実現する革新的な研究分野や光学素子・部品を表す。従来の幾何光学では、球面レンズなど曲面や厚みで光の進行を制御していたが、メタオプティクスでは、屈折率の高い材料からなるナノスケールの構造体を密度と配置を制御することでフレネル型の平面レンズ(メタレンズ)などが実現されている.レンズ機能以外のメタオプティクスはメタサーフェスと呼ばれる。

[4] メタフォトニクス:自然界には存在しない人工的なナノ構造を持つ材料(メタマテリアル)で光子を生成・制御・検出・利用する研究分野。人工ナノ構造によりこれまで自然界には存在しない光学特性(負の屈折率など)の実現が可能になる。通信分野では5G/6G無線通信技術や低消費電力な光集積回路などが、イメージングでは回折限界を超える超解像イメージングや超薄型のメタレンズやホログラム技術などが、センシングでは高感度な分子検出やバイオセンサなどが、量子技術では量子光源の効率向上や量子フォトニクスへの応用などでの技術革新が期待されている。

[5] ピコメートルの変位を計測できるレーザー干渉計:一般的なレーザー干渉計は、原理的に数十ピコメートル(pm, 10-12 m, 1兆分の1メートル)の測定感度を持ち、ピコメートルからサブナノメートルの分解能で変位を計測することができる。半導体製造装置、原子間力顕微鏡のステージ制御、超精密加工機械、ナノ構造素子の開発や製造など、極めて微小な変位や表面形状の測定が求められる最先端分野で利用されている。空気の揺らぎ(媒体の屈折率の変動)や機械振動などがレーザー干渉計での干渉縞の変動に大きく影響するため、高精度な測定にはこれらの環境要因を低減する技術が必要になる。

本研究成果は、2023年度の成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech近畿局)に採択された「ナノインプリントにおける10ナノメートル以下の超高精度位置合わせ技術の開発」(代表者 明昌機工株式会社)の支援を受けて実施されました。

問い合わせ先

(本技術に関すること)
多元物質科学研究所 教授 中川勝
Email:masaru.nakagawa.c5*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関すること) 
多元物質科学研究所 広報情報室
Email:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)