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プレスリリース
「光閉じ込め」が期待される2次元ダイヤモンド状コロイド結晶の作製|光機能材料化学研究分野

公立大学法人 名古屋市立大学
国立大学法人 東北大学

【ポイント】

  • 基板上での荷電コロイド粒子の交互積層により、ミクロンサイズの粒子の2次元的なダイヤモンド格子状構造を作製しました。
  • 得られたコロイド粒子のダイヤモンド格子は「フォトニック結晶」として応用が期待されます。
  • 高屈折率粒子を用いて本構造を作製したとき、3次元大型結晶の数10%程度の「光の閉じ込め」現象が生じることが、計算により示されました。

【研究の概要】

名古屋市立大学大学院 薬学研究科 コロイド・高分子物性学分野の 藤田みのり 博士課程大学院生、豊玉彰子 准教授、奥薗透 准教授、山中淳平 教授、および 東北大学 多元物質科学研究所の新家(にいのみ)寛正 助教 による、コロイド微粒子の会合による2次元ダイヤモンド格子の形成に関する研究が、英国王立化学会の専門誌である「Soft Matter」誌に掲載されます。当該論文の速報版はすでに、2023年12月 27日付で同誌 Websiteで公開されています。

マイクロメートルサイズのコロイド粒子が、ダイヤモンド格子状に配列した構造は、「光の閉じ込め」が可能な「フォトニック結晶」として働くことが知られており、現在その構築が世界で活発に検討されています。これまでに、複雑な表面構造を持つ粒子を使ったいくつかの構築法が提案されていますが、簡便な作成法は報告されていませんでした。本研究では、新規手法(基板上での荷電コロイド粒子の交互積層)により、ガラス基板上に、3層からなる2次元的なダイヤモンド格子を作製しました。著者らが2020年に国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟で行った、コロイド粒子の会合実験の成果も、本研究に活用されています。また本論文では、高屈折率粒子を用いて当該の2次元ダイヤモンド格子構造を作製したときに、3次元大型結晶の数10%程度の効率で「光の閉じ込め」現象が生じることが計算により示されました。

 

【成果・結果】

図1にダイヤモンド格子の模式図を示します。水色部分の正四面体型会合体が構成単位です。3次元の大型ダイヤモンド格子は、光を閉じ込める「フォトニック結晶」として働くことが知られており、医療用レーザー、UVカット剤などへ応用が考えられます。このようなダイヤモンド格子の光制御能は自然界でも見られ、コンゴウインコの羽は、ケラチン線維のアモルファスダイヤモンド構造が特定波長の光を反射するため、鮮やかに発色します。本研究では、図1の赤色の点線で囲んだ構造を作製しました。

図1.ダイヤモンド格子

コロイド粒子は媒体中で自己集合して、「コロイド結晶」構造を作ります。しかし、等方的な相互作用が働く1成分コロイド系では、空間充填率が高くて安定な、BCC,FCC,HCP構造のいずれしか生成しないことが分かっています(図2)。

図2.1成分コロイド系で生成する結晶構造

これまで本研究室では荷電コロイド粒子の会合体形成(図3(左))や、コロイド粒子が基板上で隙間を開けて規則配列した、2次元荷電コロイド結晶の作製(図3(右))を研究してきました。会合体形成に関して、名古屋市立大学の著者らは、2020年に国際宇宙ステーション・「きぼう」日本実験棟で宇宙実験を行っています。これらの研究成果を組み合わせて、本研究では次のようなダイヤモンド格子の構築法を考案しました。

図3.本研究の基礎となる知見

2次元荷電コロイド結晶の作製では、図4に黄色で示した、FCC格子の(111)面が基板に吸着します。この格子面と、ダイヤモンド格子の対応する面が同じ粒子配置を取ることに着目しました。この2次元荷電コロイド結晶上に粒子を積層して正四面体型会合体を作製すれば、単層ダイヤモンド格子が得られると考え、静電相互作用を利用した構築を検討しました。

図4.FCC格子とダイヤモンド格子の比較

図5に模式図を示します。2層目の粒子は1層目粒子の作る正三角形の中央、3層目の粒子は2層目粒子の直上に位置する必要がありますが、粒子間静電相互作用の大きさを調節して、付着位置を制御できました。粒子として、直径が1ミクロン程度の正及び負に荷電したシリカ粒子を用いています。

図5.2次元ダイヤモンド格子の作製法

図6に構造の3次元画像の断面(左)と、断面の拡大写真(右)を示します。共焦点レーザー顕微鏡により撮影した画像で、左の画像の1辺は 50マイクロメートルです。粒子の直径は約 1ミクロンです。このように、正負の粒子を交互に積層する簡便な手法で、2次元ダイヤモンド格子構造を作製することができました。

図6.本研究で得られた2次元ダイヤモンド構造。共焦点レーザー顕微鏡写真。左の画像の1辺は 50マイクロメートルです。粒子の直径は約 1ミクロン。

 

【期待できる効果】

本研究成果は、フォトニック結晶やコロイド粒子を利用したセンサーとして、バイオや診断、環境の分野での活用が期待されます。

【用語解説】

コロイド(colloid)
「コロイド」とは、ナノメートルからマイクロメートルサイズの分散相(粒子に限らない)が媒体に分散した系の全体を指し、「コロイド分散系」と同義である。物質を分散させることがコロイド科学の中心課題であるため、その逆の、凝集・会合に関しても、長年研究が行われてきた。コロイド粒子は適切な条件を選ぶと、分散液中で自発的に集合して、さまざまな秩序構造を形成する。多数の粒子が形成する規則配列構造(コロイド結晶)については、半世紀以上にわたる研究成果が集積されている。また近年、数個から10個程度の少数の粒子系が作る、「クラスター」(会合体)の研究も活発である。コロイド結晶およびクラスターのいずれについても、原子・分子系の相転移のモデル系としての基礎的研究から、複雑構造を持つ新規材料への応用研究まで、幅広い検討が行われている。特に近年、異方的な相互作用を持つ粒子が開発され、また、多成分コロイド系の構造形成の研究が進展した結果、様々な新規構造が作製されている。

フォトニック結晶(photonic crystal)
屈折率が光の波長のオーダー(可視光線では、400nmから800 nm)で周期的に変化する構造体を、フォトニック結晶という。結晶内部の光の伝わりかたを、構造によって制御できる。基本研究とともに応用開発がさかんに進められており、一部で実用化されている。ダイヤモンド格子型の構造を持つフォトニック結晶は、「光の閉じ込め」が可能であることが理論的に分っており、リソグラフィー法などでダイヤモンド構造が作製されているが、コロイドの自己集積では、大型の結晶が自発的に生成する利点があるため、世界的に活発な研究が行われている。

 

【研究助成】

科学研究費補助金 基盤研究(C) (17K04990, 21K05008)
医療創薬デザイン人材養成フェローシップ(JPMJFS2141)

 

論文情報

“Formation of Two-Dimensional Diamond-Like Colloidal Crystals Using Layer-by-Layer Electrostatic Self-Assembly”(静電的な自己組織化積層による2次元ダイヤモンド状コロイド結晶の作製)
(名古屋市立大学 大学院薬学研究科)藤田みのり、豊玉彰子、奥薗透、山中淳平
(東北大学 多元物質科学研究所)新家(にいのみ)寛正
Soft Matter  (英国王立化学会)
DOI番号:10.1039/D3SM01278F

 

名古屋市立大学
東北大学
光機能材料化学研究分野

問い合わせ先

(研究に関する問い合わせ)
名古屋市立大学 大学院薬学研究科 教授 山中 淳平
名古屋市瑞穂区田辺通3−1
TEL:052-836-3444 
E-mail:yamanaka*phar.nagoya-cu.ac.jp(*を@に置き換えてください)

東北大学 多元物質科学研究所 助教 新家 寛正
仙台市青葉区片平2-1―1
TEL:022-217-5671
E-mail:hiromasa.niinomi.b2*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

(報道に関する問い合わせ)
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名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
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東北大学 多元物質科学研究所 広報情報室
仙台市青葉区片平2-1―1
TEL:022-217-5198
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)