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多元研の若手研究者に聴く|藤枝俊・山﨑優一・小関良卓

多元研の若手研究者に聴く|藤枝俊・山﨑優一・小関良卓

2016年5月18日|多元物質科学研究所事務棟大会議室にて

2016年4月20日、平成28年度文部科学大臣表彰「若手科学者賞」を受賞した機能材料微細制御研究分野の藤枝俊助教と量子電子科学研究分野の山﨑優一助教、そして、東北大学総長賞を受賞し3月25日の東北大学学位記授与式会場で表彰された、有機・バイオナノ材料研究分野の小関良卓助教、多元研に在籍する3人の若手研究者に集まっていただいて、座談会を行いました。 分野の異なる3人が、それぞれの今回の受賞テーマについて、研究者になるきっかけや気分転換の方法など、普段はなかなか話さないいろいろなことを話しました。

#1 どんな研究ですか?

Q1: 小関良卓先生の受賞テーマはどんな研究ですか?

小関良卓:私の研究テーマは、ドラッグデリバリーシステムに関するものです。一般的に、薬を投与すると全身にまわってしまい、患部だけに届けることができません。そこで、ターゲティングという工夫をして、患部に届けられるようにしよう、という研究です。

ターゲットの疾患は「がん」です。体の中にできた「がん」のまわりの毛細血管には、200ナノメートルくらいの隙間が開いています。ということは、200ナノメートル以下のナノ微粒子を血管内に入れてあげれば、がんの近くにある血管の隙間を通り抜けて、直接がんに届けられることになります。この現象は、1980年代からすでに知られていて目新しくはないのですが、これまでは、薬をポリマーなどにくるんで患部まで届けるといった方法が使われてきました。

今回挑戦したのは、薬自体をナノ粒子化する研究です。「再沈法」という手法を使って、抗がん剤をナノ粒子化すると、それまでとは違って、効果が高いナノ粒子を作ることができました。実際には、抗がん剤の誘導体を有機合成して、再沈法を使ってナノ粒子化して、細胞実験を経て、動物レベルの実験まで行いました。

藤枝俊:ナノ粒子の薬を合成するのですか?

小関:今回は市販の抗がん剤を使ったのですが、薬自体を再沈法でナノ粒子化しようとしたら、ナノファイバーみたいなのができてしまったんです。修士で有機合成の研究をしていたので、その経験を活かして、いろいろな置換基を付けてみて、どの置換基をつけると粒が小さくなるか、効果が高くなるかなどを調べました。

藤枝:再沈法というのは、大きい粉の薬を一度溶かして…

小関:そうです。最初は大きい粉の状態の薬を、有機溶媒に溶かしてから、貧溶媒、今回は水を使ったので、水に注入して、ナノ粒子をつくる方法です。

山崎優一:化合物ごとに再沈法の条件は違うんですか?

小関:化合物によってそれぞれ違います。温度や濃度に強く影響を受けますが、そのあたりは再沈法を開発した笠井先生によって、主に色素や電子材料を用いて研究されています。研究室でも初めての細胞実験や動物実験に挑戦

小関:細胞実験や動物実験など研究室でも初めてのことは、先生方にもやり方が分からなかったので、いろんな人に教えてもらいました。細胞実験のやり方を教えてもらうために、一人で京都大学まで行って実験しましたし、それが終わると今度は、東北大学医学部の動物実験施設に行って、医学部の先生に教えてもらいながらマウスの実験をしました。

藤枝:工学部では動物に触れることが少ないから、マウスの実験に抵抗なかった?

小関:マウスの背中にがん細胞を移植して薬の効果を調べるので、最初は抵抗がありましたが、だんだん慣れてきました。実は、修士は農学研究科出身なんです。

山崎:実用性が高い研究ですよね。すごいよね。

小関:そうですね。最終的には実用化されるといいなと思っています。そこにたどり着くためにはやるべきことが山積みで、長い道のりですが。

Q2:山崎優一先生の受賞テーマはどんな研究ですか?

山崎:私のテーマは実用性とは少し別の方向を向いているんですが、「物質がどのように変化するのか」という身のまわりで起こる現象へのシンプルな問いに、本質的な部分から答えを見つけようとする研究です。物質は、原子の集まりである分子で構成されていますが、そもそもの原子は、原子核と電子の2種類だけでできています。この2種類の動きを見ることができれば、その物質がどのように変化しているのか分かるはずです。

その電子が、物質中でどう分布し、どんな速さで運動しているかを、直接実験的に観測する手法を開発しました。 目に見えない電子の動きを調べるために、SF映画に出てくるような電子ビーム使っています。ビリヤードのような実験とよく言うのですが、分子に電子ビームをぶつけて分子中の電子を弾き飛ばして、飛び出す方向やエネルギーを測るんです。すると、電子が分子中でもともとどんな運動をしていたかが分かる。エネルギー保存則や運動量保存則、高校物理で習う基本的な原理です。

小関:サンプルは何ですか?

山崎:今回はアセトンを使いました。蒸発させたアセトンに光を当てると、アセトンが分解し始めます。
メチル基がポロポロと1個ずつはずれて、COと2つのメチルができます。その分解反応の起点において、電子がアセトンの周りを大きく広がって運動する様子が観測できたんです。これまでは計算でしか分からなかった現象を、実験的に見ることに成功したわけです。装置の性能を上げていけば、計算からでさえ予測が困難な、メチル基がはずれる時の電子の様子を、ムービーを見るように見ることができると考えています。世界にひとつしかない実験装置を作る

藤枝:僕は研究室を見学したことがあります。実験を始めるときに、まず、実験室の床の基礎工事をしたと聞きました。

山崎:そうなんです。実験装置が数トンの重さになることが分かっていたので、実験室の床が抜けないように、コンクリートを打設して基礎を作るところからはじめました。真空装置は、多元研の機械工場の協力を頂いて自分たちでデザインして、加工してもらいました。奥行2M、幅1.5M、高さ2Mくらいの大きい装置なので、クレーンを使って組み立てましたし、真空容器も計測系も特注品です。ポンプなど市販の部品も使っていますが、世界にひとつしかない装置です。

小関:装置を作るというのは、ちょっとイメージできないです。

山崎:そういう意味では、新しい分析方法を開発するのが私たちの研究であるとも言えるので、その目的のために必要であれば、オリジナルの装置を作ります。ただ、同じ研究分野でも、ここまで大きい真空装置を持っているところはそうないので、外国からも見学に来ますし、見た人には驚かれます。1つのデータのために1ヶ月実験し続ける

山崎:実は、1つの実験データを取るために、1ヶ月実験し続けないといけないんです。

小関:動物実験の場合、1~2ヶ月のスパンでということはありますが、1つのデータのために1ヶ月かかるというのとはちがいますね。

山崎:とても弱い信号を見ているので、1日分のデータでは、ほとんど信号として認識できなくて、少なくとも1ヶ月分くらいのデータを溜めて見る必要があるんです。これまで誰もやったことのない実験なので、まさに暗中模索の状態で、毎日修正しながら実験して、うまく行きそうだったら続けるわけです。

小関:評価方法も自分たちで決めないといけないということですか?

山崎:そうですね、世界で初めての試みですから。真空中で動いている分子に、パルスで出ている光と、光の15分の1くらいの速さで飛ぶ電子を、同時にぶつける実験なので、精度が要求されるんです。実験の手順からすべて自分たちで考えなければならないところは難しいですが、そこは醍醐味でもありますね。

Q3:藤枝俊先生の受賞テーマはどんな研究ですか?

藤枝:僕の受賞のテーマは、磁気冷凍という新しい冷凍方式のための、高性能な材料の開発です。
一般にエアコンなどは、フロン系のガスを圧縮したり膨張させたりする気体冷凍方式を使っていますが、磁気冷凍は、磁性体を使った冷凍方式です。フロン系ガスを一切使わず、効率も良いので環境負荷が少ないことから、実用化が期待されています。

山崎:磁気冷凍の現象は新しいんですか?現象が気になりますね(笑)。

藤枝:-270℃以下の極低温を作る実験室レベルのものはすでに実用化されています。同じ材料を使って、冷蔵庫やエアコンのような室温に近いものを作ろうとすると効果が薄まってしまうので、新しい材料、現象を見つけることが課題でした。そこで僕は、磁場をかけると常磁性から強磁性に相転移する特異現象を示す磁性体に着目して、磁気冷凍に応用できないかなと研究すすめたところ、すごく特性が良いことを発見したんです。

今では、僕が研究したその磁性体が、一番有望な材料だと世界的に注目されているので、早く実用化されないかなと楽しみにしています。1年間、毎日サンプルを作り続けました

藤枝:最初のサンプルを作るところで苦労しました。鉄とランタンとシリコンを溶かして混ぜて熱処理するんですが、鉄とランタンは水と油の関係なのでなかなかうまくいかなかくて、熱処理のための炉も自分で作りました。磁気的な性質を詳しく調べるために高品質のサンプルを作りたかったというのもあって、毎日ひたすら作り続けました。1年かけて、ようやくひとつ、目標とするクオリティーのサンプルができたんです。
大変だったけど、すごく良い発見をすることが出来たし、その後の研究でいろんな展開が生まれたので、苦労が報われました。

山崎:いろいろやったら、ある条件でうまくできた、でもできた理由は二の次というのは私と対極ですね!
私は何故できるのかに興味があってしょうがない(笑)。

藤枝:うまくできない、なんでかな、これかもしれないな、やってみようの繰り返し。結局、うまくいった理由も分からないから、最初の数年は1割くらいしか成功しなかった。だんだん出来るようになりましたが、当時はそうやって研究していました。結局、経験的に編み出した方法が、すごくいいやり方だということが、後になって科学的に分かったんです。

山崎:科学的直感ですね(笑)。

藤枝:当時は、その磁性体の研究をしているのは僕らのグループくらいだったのですが、磁気冷凍の有望材料だということが分かってからは、世界中のいろんな人が研究を始めています。みんながサンプルを上手に作れるようになって、研究がもっと発展して欲しいので、僕が苦労したサンプルの作り方は、いろいろ詳しく調べて論文にして発表しました。あまりにも材料を作るのが大変だと、実用化もできないですから。

山崎:実用化の可能性はありそうですか?

藤枝:着実に近づいていると思います。気体冷凍の技術は長い年月をかけて発達してきた成熟した技術ですが、私の開発した材料はすごく性能が良いですし、磁気冷凍には、気体冷凍にはないメリットがあるので、
うまくマッチした用途があれば実用化出来そうだと思っています。

#2 きっかけ、これからのこと、メッセージ

小関:私は、大学は宮城大学食産業学部の第一期生なのですが、大学2年の夏休みに、大学の先生から「研究室に実験しに来ませんか」と誘われたことがきっかけです。

その研究室では、土の中にいる菌から、生理活性物質を取り出す研究をしていました。夏休み中ずっと土の中から放線菌という菌をとりながら、「あー面白いな、修士にいって研究したいな」と思っていました。卒業して一度就職したのも研究職でした。企業にいた経験もあって、実用化とか役に立つ研究をしたいというのがあります。なぜそうなっているのか?というのも興味はありますが、どちらかというと、物をつくって提案する研究が面白いですね。

藤枝:僕は、高校のときから漠然と、研究の仕事をしたいなと思っていました。
岩手大学を卒業して、東北大の修士に入ったときに、同期の人が、卒論終わったばかりなのに、投稿論文を書いていたんです。びっくりしたんですが、僕も投稿論文を書くことを目標にしました。結局1年間はサンプルを作り続けたんですけど(笑)。修士が終わるころに投稿論文を出せて、すごく嬉しかったですし、充実感がありました。そのときに、「研究者はいいな」と明確に思いました。ずっと、もやもやと思ってはいたのですが、論文を出したときに再確認した感じです。

山崎:私も、最初に論文出したときは、それまでの人生で経験がないほど価値があることだと思いました。論文を書けるのは、世の中のすべてを知っている仙人のような人なんだと思っていたけど、そうじゃなかった。「自分の研究は自分しか知らないし、世界中の誰よりも自分がよく分かっていて、最先端の成果を出したということなんだ」と先生方から励まされながら論文を書いて、認められたときはすごく嬉しかったです。論文は、自分が死んでも残るし、研究の形跡がずっと残っていく。どんなに小さなことでも「科学に貢献できた」と実感できて、素晴らしい職業だなと思いました。

小関:私も、始めて論文が通ったときすごく嬉しかったです。

藤枝:最初の論文はいつですか?

山崎:大学4年のときです。
といっても実は4年にあがるときに留年して、仮配属で研究テーマをもらったので、既に2年ほど研究していましたが。成績も就職も不安だったけど、せっかくだから頑張ろうと思ったんです。先生が、やりやすいテーマを与えてくれたんだとは思いますが、本当にうまくいって、調子に乗りました(笑)。

藤枝:大学の研究室には、そういう魅力がありますよね。学生が研究室に来て、テーマを与えられて、最初はよく分からないまま取り組むんですが、数ヶ月経つと別人のように成長します。そういう教育する力があると思う。それと、教員になってから気付いたんですが、先生も学生からモチベーションをもらっています。
研究に対しては、先生も学生も同じ挑戦者だから、学生が頑張っているのを見ると、こちらも頑張ろうって思います。

山崎:同じ目標に向かう仲間がいるのはすごく心強いですね。自分が向かっている問題に対して、先生も協力してくれるし、学生もいっしょに頑張ってくれる。

藤枝:これは学生に言っていいのかな?(笑)

Q5:どうやって気分転換していますか?

藤枝:平日は、同じ部屋にいる佐藤俊一研究室のスタッフ等と、毎日一緒にお昼ご飯を食べに行っています。夜も他の研究室の先生方とよく食事に行きます。

研究の話をするわけではないんですが、専門分野の異なる人といろんな話をするのが、いい気分転換になっています。多元研には色々な分野の研究室があるので、幅の広い交流を楽しんでいます。あとは、車ですね。ジープに乗っているんですが、通勤の短い時間だけでも運転するのが楽しいです。

山崎:休みの日はドライブ?

藤枝:残念ながらドライブはあまりできてません。毎週日曜日はプールに行って、必ず1~2キロ泳ぎます。疲れきるまで泳ぐと気分的にすごくリフレッシュしますし、時々タイムを計ると、確実に速くなっているので、それがまた楽しいです。

山崎:私は運動してないな。高橋研では、毎日、ティータイムがあるんです。秘書さんがコーヒーを淹れてくれて、スタッフと学生みんながセミナー室に集まっていろんな話をします。研究の話はほとんどしませんが、最近だと学生の就職活動の話とかリアルな話ができます。日曜日は、もうすぐ6歳になる息子の遊び相手をしています。最近は天気がいいので、公園に行って、一緒にソリ遊びをしたり、バドミントンしたりして、月曜日は筋肉痛になってますよ。

小関:運動してますね(笑)。お2人の話を聞いていて、リフレッシュしなくちゃいけないなと思いました。ドクター3年間はずっと張り詰めていたし、今は、立ち上がったばかりの新しい研究室なので、まだ張り詰め期間が続いている感じがしています。昨日、学生と一緒に書類棚を組み立てて、やっとダンボールが無くなったところです。

写真左:まだ何もない実験室。もうすぐ装置が入る。| 写真右:研究室の中央に配置した長机でスタッフ、学生と。

ティータイムの話がありましたが、笠井研でも、みんなが集まって話ができるように、部屋の真ん中に長机をおいたんです。そこにお皿を置いてお菓子を入れておいたら、だんだんみんなもお菓子を入れてくれるようになりました。休日は、土曜日は仕事ですね。日曜日は寝ています。買い物行くぐらいかな。

藤枝:ぜひ、若手会(多元研を職場とする若手の交流の会)にきてください。

小関:まだ緊張しちゃって、あまりリフレッシュにならないかもしれません(笑)。これからのこと

Q5:これからどんな研究に挑戦したい?夢や抱負をおしえてください。

小関:今研究しているテーマの最終目標は実用化ですが、個人的には、そのテーマの中でも、特に興味があるところがあるので、そこを、理学的に深く突き詰めていきつつ、次のテーマにつながっていければいいなと思っています。

藤枝:僕は、現在は磁気冷凍とは違う研究を主にしています。化学的な手法で材料を作ったり、放射光を使ってものを評価したりして、新しいことに挑戦して研究の幅を広げようとしています。いままでと違うエッセンスを勉強して、新しい手を生やし、新しい目付けたいと思ってます。将来的には、それらを駆使して、新しい「ものづくり」をしたい。自分の代名詞になる物質、機能性材料を作るのが目標です。

山崎:私の場合は、中心にあるテーマはずっと同じ、シンプルな物理の研究です。誰もが疑問に思うような基本的な問いに科学的な答えを示すのが、僕の研究テーマです。化学反応の根本原理を明らかにして、その原理を複雑な反応に応用していくのが夢です。自分なりのポリシー、信念を研究をにうまく表せたらいいですね。研究者をめざす方へ

Q6:将来研究者になりたいと考えている方へメッセージをお願いします!

山崎:シンプルに、自分の信念と情熱を持って頑張ってください!

小関:高校生くらいまでは、学校で授業を受けて、答えのあるものに対して、正しい答えを導き出すスキルを身に付ける勉強をしていると思のですが、研究者になると、いま現在誰も知らないこと、先生も知らないことを、自分なりにアプローチして見つけなければなりません。答えがないことを見つけようとするのが「研究」だということを、意識して頑張ってください。

藤枝:「研究者になりたい」という気持ちを大切してほしいです。研究していていろいろな問題が出てきた時に、最初の「なりたい」という気持ちが原動力になります。もう一つは、一人で勉強して、研究していれば研究者になれるわけではないということ。いろんな人との出会いがあって助けられているんだなと、実感しています。人との出会いや繋がりを大切にしてほしいです。