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プレスリリース
偏光顕微鏡と透過型電子顕微鏡を組み合わせた相関顕微鏡法により高分子球晶の観察と自動検出に成功|高分子物理化学研究分野

 プラスチックやゴムとして知られる高分子材料は、軽量性・成形加工性・柔軟性などの優れた物性を生かして、フィルム・繊維・食品容器・飲料ボトルなどに幅広く使われています。ポリエチレンなどの結晶性の高分子材料の内部には、ナノメートルからマイクロメートルに渡る階層構造が形成されています。マイクロメートルの領域では、微結晶が球状に自己組織化した「球晶」が形成されるのが一般的です。球晶のサイズが小さくなると高分子材料の透明性や耐衝撃性が向上するといったように、球晶の数と大きさ、それらの分布は材料の諸物性と密接に関係しています。これまでは主に偏光顕微鏡 (POM) により球晶の観察が行われてきましたが、可視光を光源としているため、数マイクロメートル以下の球晶を観察することは困難でした。
 東北大学 多元物質科学研究所の丸林弘典 講師、陣内浩司 教授と日本電子株式会社は共同で、POMと透過型電子顕微鏡 (TEM) を組み合わせた相関顕微鏡法により、数マイクロメートルの微細な球晶まで観察するとともに、球晶の構造パラメータの自動検出に成功しました。
 本研究の成果は、2021年12月22日、Microscopy誌オンライン版に掲載されました。

成果のポイント

・TEM観察では試料を100 nm程度に薄くする必要がありますが、ミクロトームで超薄切片を作製すると試料が変形してしまう場合があります。本研究では、試料変形の見られたTEM像について、同一視野のPOM像を参照することで補正を行い、試料変形の無いTEM像を得ることに成功しました。
・POMに比べてTEMは高分解能ですが、視野が狭いという弱点がありました。本研究では、数百枚のTEM像を正確に繋ぎ合わせることで、広域TEM像 (数100マイクロメートル四方) を作成しました。
・POM像と広域TEM像との相関を解析し、POMによる分子配向情報、TEMによる詳細な形態情報など、それぞれの手法の長所を組み合わせることで、数100マイクロメートルの粗大な球晶から数マイクロメートルの微細な球晶まで検出することを可能にしました。
・取得した広域TEM像から、畳み込みニューラルネットワークを用いた物体検出システムにより球晶を高速に検出し (100個の球晶の検出に3秒)、目的の領域内における各球晶の大きさの分布と空間充填率(相対結晶化度)を算出することに成功しました (図1)。
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図1. 畳み込みニューラルネットワークを用いて広域TEM像 (250 μm四方) から高分子球晶を自動検出した結果.赤枠は検出された球晶とその幅・高さを示す。

今後の展開

 POM–TEM相関顕微鏡法は、材料中に不均一に分布した結晶を分析する際に有効であり、例えば、複合材料中のフィラー(添加剤)表面で優先的に形成される高分子結晶の観察・分析が期待されます。また、畳み込みニューラルネットワークを用いた高分子結晶の自動検出法は、手動処理よりも非常に高速で強力であるため、大量の画像データの解析が必要な動的観察や3次元観察において威力を発揮すると期待されます。

論文情報

“Correlative light and electron microscopy of poly(ʟ-lactic acid) spherulites for fast morphological measurements using a convolutional neural network”
Yuji Konyuba, Hironori Marubayashi, Tomohiro Haruta, Hiroshi Jinnai
Microscopy, 2022, 00(0), 1–7
DOI:10.1093/jmicro/dfab058
URL:https://doi.org/10.1093/jmicro/dfab058

関連リンク:
日本電子株式会社
高分子物理化学研究分野(陣内浩司研究室)

問い合わせ先

(研究に関すること)
東北大学 多元物質科学研究所
教授 陣内 浩司(じんない ひろし)
E-mail: hiroshi.jinnai.d4*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
Tel: 022-217-5329