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プレスリリース
疑似固体リチウムイオン電池の3Dプリント製造技術を開発 ~EVから医療用まで、固体リチウムイオン電池を短時間でオンデマンド製造~

発表のポイント

・紫外線硬化樹脂を用いた光造形を利用し、難燃性の疑似固体電解質膜を室温・数分で成膜出来るプリンティング技術を開発。
・正極、電解質、負極のそれぞれの素材インクを使用し、固体リチウムイオン電池を簡便に3Dプリント製造する技術開発に成功。
・ポリマーなどソフト基盤上への成膜やマイクロ電池・大型電池の製作など、様々な基板上にサイズ可変での固体リチウムイオン電池がオンデマンドに製造可能。

概要

 リチウムイオン電池などの蓄電デバイスの幅広い普及に伴い、各々のニーズに応じた蓄電デバイスのオンデマンド製造技術が求められています。東北大学多元物質科学研究所 雁部祥行技術職員、小林弘明助教、本間格教授らは、リチウムイオン伝導性イオン液体電解質の3Dプリント技術を開発することで、固体リチウムイオン電池を室温・短時間でオンデマンドに3Dプリント製造する技術開発に成功しました。
 開発した電解質インク材料は、リチウムイオン伝導性イオン液体、シリカナノ粒子からなる疑似固体電解質材料に紫外線硬化樹脂を混ぜることで、光造形方式による3Dプリントを可能としています。3Dプリントされた電解質膜は十分な構造維持性を有し、燃えにくい性質も示します。この電解質インク材料と正極・負極インク材料を3Dプリントすることで固体リチウムイオン電池を作製し、動作実証に成功しました。今回作製した電池は室温で製造出来るため、例えばポリマーなどの熱に弱い基盤上でもリチウムイオン電池の直接プリント製造が可能です。また、任意の大きさ、任意の形状の電池を製造できるので、車載用電源からウェアラブルデバイスまで、固体リチウムイオン電池の幅広いニーズにオンデマンドに対応し製造する事が可能です。
本成果は2021年11月10日に、英国王立化学会の科学雑誌、Dalton Transactions誌にオンライン掲載されました。 
プレスリリース本文(PDF)

研究の背景と経緯

 リチウムイオン電池は高エネルギー蓄電デバイスとしてポータブル機器や電気自動車の電源として幅広く普及しています。今後益々の市場規模拡大・多様化に伴い、車載用・定置用大型電源からウェアラブルデバイスなどの小型電源、また医療用インプラント(体内埋め込み型)機器用の生体適合性マイクロ電池やプラスチックなどを用いたフレキシブルデバイスなど、蓄電デバイスの様々なニーズに応じたオンデマンド製造技術が求められています。
 オンデマンド加工技術として、3Dプリンタ注1)が注目されており、家庭用から食品・医療・建築などの様々な分野へ応用されております。近年蓄電デバイス研究にも応用され始めておりますが、3Dプリント技術による室温での固体リチウムイオン電池の作製は困難でした。
 本研究グループでは、揮発しにくく燃えにくいリチウムイオン伝導性イオン液体を用いた疑似固体リチウムイオン電池注2)の開発を進めております。また近年では3Dプリント技術の蓄電デバイス応用研究を進めており、令和3年4月には3Dプリント可能な電気化学キャパシタ注3)が作製できることを報告しています。今回、これまで培った知見を融合し、疑似固体リチウムイオン電池の室温3Dプリント製造技術を開発しました。

研究の内容

 今回の研究では、これまで研究を進めてきた疑似固体電解質材料に着目しました。疑似固体電解質は、構成成分であるリチウムイオン伝導性イオン液体、酸化物ナノ粒子の成分比を調整することで、(疑似)固体粉末状・ゲル状を作り分けることができます。疑似固体電池では酸化物ナノ粒子の成分量が多い固体状の材料を用いますが、今回はゲル状の材料に着目し、そこに紫外線硬化樹脂を混ぜることで、光造形方式による室温3Dプリントが可能なインク材料となることを見出しました。
 今回開発した電解質インク材料は、疑似固体電解質が持つ高いリチウムイオン伝導性・難揮発性・難燃性を有しており、また光造形方式3Dプリントによる高速かつ高い成形性を有しています。この電解質インク材料とコバルト酸リチウム正極インク・チタン酸リチウム負極インクを使用し、3Dプリントのみで疑似固体リチウムイオン電池を作製することに成功(パッケージ部分は除く)し、100回以上の安定な充放電動作を実証しました。

今後の展望

 今回開発した技術及び材料は、ポリマーなど熱分解性のあるソフトマテリアル上に室温で3Dプリント造形が可能であり、生体適合性マイクロ電池やフレキシブルデバイスへ応用できます。また3Dプリンタの設計によりマイクロからメートルサイズまで任意の大きさ、任意の形状の電池を造形できるため、ウェアラブルデバイスや車載用電源など固体リチウムイオン電池の幅広いニーズにオンデマンドに対応し製造する事が可能です。さらに蓄電デバイスのインク化技術の知見を活かし、エネルギー密度の大きな正極インクなどの開発や、電解質インクの種類を変更することで、マグネシウム蓄電池など次世代・次々世代二次電池への応用が期待されます。
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図 (上) 3Dプリントで造形した疑似固体リチウムイオン電池の模式図と3Dプリントの様子。(左下) 作製した電池の充放電特性。安定して100回以上の充放電動作が可能であった。(右下) 着火試験の様子。作製した電解質膜は着火せず高い安全性を示した。

用語説明:
注1.3Dプリンタ:立体物を表す3次元データをもとに様々な形状を造形する機器。低価格帯な3Dプリンタとして、樹脂を熱で溶かしながらプリントし放冷して硬化させる熱溶解積層(FDM)方式と紫外線で硬化する樹脂(紫外線硬化樹脂・UVレジン)を用いた光造形(SLA)方式が知られている。

注2.疑似固体リチウムイオン電池:リチウムイオンが伝導する電解液を酸化物ナノ粒子と混合することで固体状(疑似固体)にし、それを電解質に用いたリチウムイオン電池。電解液に難燃性・難揮発性・低融点(室温で液体)の特性を持つイオン液体を用いることで、全固体電池同様の高い安全性を有する固体リチウムイオン電池をより簡便に製作できる。
当研究グループの関連するプレスリリースについては下記をご参照ください。
「燃えにくい新規電解質を用いた高安全なリチウムイオン二次電池の試作に成功」(2018年2月16日)

注3.電気化学キャパシタ:活性炭などを電極に用いた蓄電デバイス。電極の表面に静電気が蓄えられることで蓄電する。リチウムイオン電池などの蓄電池と比べてエネルギー密度は小さいが出力密度が大きい。
当研究グループの関連するプレスリリースについては下記をご参照ください。
「固体蓄電デバイスの3Dプリンティング製造法を開発~ウェアラブルデバイス電源の基盤技術として期待~」(2021年4月1日)

本成果は主にJSPS科研費奨励研究(19H00277、20H00949)により得られました。

論文情報:
A photo-curable gel electrolyte ink for 3D-printable quasi-solid-state lithium-ion batteries
Yoshiyuki Gambe, Hiroaki Kobayashi, Kazuyuki Iwase, Sven Stauss, Itaru Honma
Dalton Transactions
DOI:10.1039/d1dt02918e

関連リンク:
東北大学ウェブサイト
エネルギーデバイス化学研究分野

問い合わせ先

東北大学多元物質科学研究所 
助教 小林 弘明 (こばやし ひろあき)
E-mail:h.kobayashi*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)

教授 本間  格 (ほんま いたる)
E-mail:itaru.homma.e8*tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください) 
電話:022-217-5816/5815

東北大学多元物質科学研究所 広報情報室
E-mail:press.tagen*grp.tohoku.ac.jp(*を@に置き換えてください)
電話:022-217-5198