発表のポイント
概要
東北大学多元物質科学研究所の渡部聡助教、天貝佑太助教、稲葉謙次教授(生命科学研究科、大学院理学研究科化学専攻 兼任)、およびサン・ラファエル研究所(イタリア)のシティア教授らの共同研究グループは、JST戦略的創造研究推進事業において、あらゆる生物の生育に必須な金属イオンである亜鉛イオンが、細胞内での正常なタンパク質の品質管理に関わるという亜鉛の新しい生理的役割と分子機構を初めて明らかにしました。細胞内では、ERp44と呼ばれるシャペロンタンパク質が、細胞内で作られるタンパク質の品質を監視する役割を果たしますが、ERp44とその対象となる様々な未成熟タンパク質との相互作用が、亜鉛イオンによって促進されることが分かりました。また細胞内でのERp44の正常な細胞内局在と機能には、細胞のゴルジ体に局在する亜鉛トランスポーターによって亜鉛がゴルジ体に取り込まれることが必要であることが分かりました。さらに亜鉛イオンが結合したERp44の立体構造をX線結晶構造解析によって決定し、亜鉛によるERp44の構造機能制御の仕組みを原子レベルで明らかにしました。
これらの成果によって、亜鉛イオンがシャペロンタンパク質を介して細胞内でのタンパク質品質管理を行うという全く新しいタンパク質品質管理の仕組みが明らかになりました。本研究の発見は亜鉛イオンの生理的な役割をより深く理解することにつながり、亜鉛不足が原因となって発症する亜鉛欠乏症や種々の疾病のメカニズム解明に向けた基盤となることが期待されます。
本研究成果は、2019年2月5日に英国科学誌Nature Communicationsに掲載されました。
プレスリリース本文(PDF)
【正常細胞】
【亜鉛不足時】
図1亜鉛とpH によるタンパク質品質管理の仕組み
亜鉛は、ZIPファミリーによって細胞内に取り込まれ、さらにZnTファミリーによって分泌経路中のゴルジ体に取り込まれる。ERp44は小胞体とゴルジ体間のpH変化を利用して、未成熟な抗体などのタンパク質ゴルジ体で捉え、小胞体に逆輸送することを過去に報告した。今回の成果によって、ERp44は亜鉛イオンと結合することによって、基質タンパク質をより強固に捉え、さらに高効率で逆輸送することを明らかにした(上図)。しかしながら、亜鉛不足状態になると、ERp44は、未成熟タンパク質を十分に捕獲できなくなり、基質タンパク質が不完全な状態で過剰に分泌されてしまう様子も観察された。
論文情報:
“Zinc regulates ERp44-dependent protein quality control in the early secretory pathway”
Satoshi Watanabe#, Yuta Amagai#, Sara Sannino#, Tiziana Tempio, Tiziana Anelli, Manami Harayama, Shoji Masui, Ilaria Sorrentino, Momo Yamada, Roberto Sitia*, and Kenji Inaba*(#:共筆頭著者, *共責任著者)
Nature communications
DOI: 10.1038/s41467-019-08429-1
関連リンク:
生体分子構造研究分野(稲葉研究室)
東北大学
東北大学 大学院 生命科学研究科
東北大学 大学院理学研究科・理学部
高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所
SPring-8 大型放射光施設