多元研で活躍する女性研究者紹介

#6 陶山 めぐみ

志村玲子

 多元研で活躍する女性研究者をインタビュー形式で紹介します。
第6回目は、金属クラスターの研究を行っている陶山めぐみ助教に、研究者になったきっかけや研究のこと、オフの過ごし方などについて伺いました。

純粋な「科学の世界」に惹かれて

 研究者になるきっかけ、キャリアについて・・・

 父が工学系の研究者ですので、「研究者」という職業にもともと親近感がありました。分野は違うのですが、いいお手本が身近にあったという感じです。

 小さい頃から、自然に科学が好きになっていたように思います。小学校低学年の頃から、実験教室などのプログラムに参加していました。週末になると、科学館の子供向け教室や、米村でんじろう先生のワークショップに電車で通っていたのを覚えています。実験や工作をするのが面白くて、次は何かな?と、いつも楽しみにしていました。自分で手を動かすのが好きだったんです。

 中学、高校時代は化学部に入っていました。実験が好きでした。その頃から、自分で手を動かして実験する「研究」を続けていけたら楽しそうだなと考えていました。

 大学は理学部に進学したのですが、実は、「理学部」にこだわりがありました。工学部は生活の役に立つ研究をするのに対して、理学部は実生活とは距離のある研究をしている、というようなイメージがあったからです。私は、これは何だろう?何でこうなるんだろう?といった疑問を追求する、純粋な「科学の世界」に強く惹かれていたんです。

 学部4年生で配属された研究室で、現在につながる「金属クラスター」の研究を始めました。研究しているうちに面白くなって、もっと深く知りたくなったんです。学部の卒業研究で、着任されたばかりの助教の先生にお世話になったのですが、その方が、金属クラスター研究で著名な先生の研究室出身だったんです。より金属クラスターを深く知るために、第一線で金属クラスター研究している研究室に行こう!と思い、他大学院を受験しました。大学院への進学自体に迷いはありませんでした。将来は、ずっと研究に携わっていきたいと思っていたからです。研究者になるためには博士号が必要ですから、大学院への進学は自分がやりたいことを続けるための過程と考えていました。

 大学の研究室には、自主的に研究を進められる環境があります。実験していて気になることを見つけたら、自分のテーマから少し外れていても調べてみました。裏テーマですね。うまくいった時には、「こんなのが出来ました!」と先生にプレゼンしたりしました。純粋な疑問について調べるのは、遊びのような面白さがあります。学生時代は、面白いことや気になることへの興味で突っ走っていました。

 博士課程を修了して、2023年4月に蟹江研究室に助教として着任しました。ナノ粒子をメインに応用の分野に力を入れていて、企業との共同研究も積極的に行っている研究室ですから、それまでの基礎研究の分野から大きく方向転換することになりました。

「金属クラスター」基礎研究から応用への橋渡しをしたい

 メインの研究テーマは・・・

 私のメインテーマである金属クラスターは、数個から100個程度の金属原子が集まったもので、その表面を配位子や高分子で保護することで安定な化合物として取り扱うことができます。ナノ粒子と錯体の間のサイズ領域の物質群といったところでしょうか。しかし、その性質は非常に興味深く、構成金属原子数(サイズ)や組成、形状、保護配位子といった多くの構造因子を制御することによって多彩な物性を発現させることができます。例えば、金原子25個からなるクラスターの金原子の一つを白金に変えるだけで、化合物の色がオレンジから緑色に変化します。少しの違いで大きな物性の変化を示す、自由度が高くて面白い化合物なんです。もう一つの大きな特徴は、金属錯体*のように、組成を化学式で書くことができ、構造が原子精度で一意に決まることです。実際、ナノ粒子は構成原子数を数えられませんし、構造を原子精度で決めることはできません。

 ナノ粒子は歴史のある研究分野ですから、役に立つ特性やその活用方法についても広く研究されていますが、金属クラスターは研究の歴史がまだ浅く、新奇なものが出来ただけで論文が出るほどの新しい分野と言えます。分からないことがまだ多く、掘れるところがたくさんあるんです。これまで一貫して金属クラスターを研究してきて、自分なりに基礎が分かってきたので、これからは応用に橋渡しできれば面白いな、と考えています。例えば、クラスター単独で発光特性や磁性を示す金属クラスターを集積化させることで、これまでには無い原子精度で精密な新たなナノ材料を生み出すことができると考えています。あるいは、ナノ粒子と金属クラスターを組み合わせることで、双方の特徴を活かした新奇なナノ材料を設計してみるのも面白そうです。もしかしたら、思いもよらない機能が発現するかもしれません。

* 金属錯体:1個の金属原子(または金属イオン)を中心に、配位子と呼ばれる原子(分子団)が結合した化合物


  

多元研には、いろいろなバックグラウンドを持つ研究者が在籍している

 多元研の研究環境は・・・

 今の研究室には、異なるバックグラウンドを持つ人が多くいます。「ああ、こういう考え方があるんだ!」という新しい発見がたくさんありますし、逆に、「陶山さんはそういう考え方をするんだ」とよく言われます。研究会で発表すると、思いもよらない質問が飛んできたりします。「え?そこ気になりますか?」と新鮮な驚きがあって、近い分野同士で異文化交流をしているように感じるほどです。

 研究所全体では、さらに多様なバックグラウンドを持つ方がたくさんいらっしゃるので、交流会のなどの機会にお話するだけでも楽しいです。視点の違いをいろんな人から吸収して、視野が広がりました。

 最近、多元研に導入されたクライオ電子顕微鏡を使って金属クラスターの構造解析に挑戦しようと考えているのですが、専門の先生方や技術職員の方が在籍しているので、すぐに相談できるのがいいですね。新しく面白いことが分かりそうな気がして、今からとても楽しみです。

ニューイヤーコンサートを聴かないと年が始まらない

 オフの時間の過ごし方は?・・・

 音楽が好きで、家でいつも聴いています。小説を楽曲化しているYOASOBIは必ず新曲をチェックしますし、曲調が独特なKing Gnu などいろいろ聴くのですが、両親の影響と、私自身小さい頃からピアノを習っていたこともあって、特にクラシックをよく聴きます。チャイコフスキーのバレエ音楽やショパンのピアノ曲、オーケストラも好きです。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤーコンサートは毎年必ず聴きます。聴かないと新年が始まらない!就職と同時に一人暮らしを始めたのですが、ホームシックになる事があっても、音楽があると落ち着きます。サン=サーンスの白鳥を聞くと頭痛が治ったりして、私の生活に深く紐づいているんです。

思い立ったら行動しよう

 座右の銘、大切にしている言葉・・・

 「思い立ったら行動しよう」と心掛けています。実は、とても悩んでから結論を出すタイプなんです。

 小さい頃はもっと積極的だった気がするのですが、大人になってからは、入ってくる情報が多いせいか、結論を出す前に、いろいろな可能性を考えてしまうようになりました。研究に関しては、まず手を動かすことが習慣化しているのですが、今の自分はこれでいいのか?みたいなことを、ついつい考えてしまうんです。就職を機にこれまでの研究から少し分野を変えたばかりで、不安があるからかもしれないのですが、マイナス思考にならず、もっと積極的に行動しようと心掛けています。

映画の原作を読んで主題歌を聴きます

 愛読書や最近読んでよかった本・・・

 小さい頃から本が好きなのですが、引っ越す時にほとんど実家に置いてきちゃいました。紙の本が好きなので、文庫化される前に単行本を買って読みます。特にミステリー系が好きで、湊かなえ、東野圭吾、辻村深月、伊坂幸太郎をよく読みます。

 最近映画化された、辻村深月の「かがみの孤城」も面白かったです。映画化するという情報を耳にすると、きっと楽しいんだろうなと思って原作を読むんです。映画は観ません。原作を読んで映画の主題歌を聞くのが好きなんです。映画を観た人と話すと、内容も音楽も知っているのに話が噛み合わない、という状況がたびたび発生します。

気の向くままに

 これから研究者を目指す若い学生さんへのメッセージ

 私自身、気の向くままに、面白いことや気になることへの興味だけでここまで来ています。うまくいくのかどうかは、5年あるいは10年先にならないと分かりませんが、今は楽しいです。悩んだり不安になったりすることがあっても、自分がやりたいと思うことを、自信をもって続けてほしいです。

陶山めぐみ Megumi Suyama
東京都生まれ。立教大学理学部化学科卒業、東京大学大学院理学系研究科化学専攻博士課程修了、日本学術振興会特別研究員 (DC2)、2023年4月より東北大学多元物質科学研究所 助教。博士(理学)。

研究室ウェブサイト

取材日:2024年1月9日