多元研で活躍する女性研究者紹介

#2 川西 咲子

川西咲子

 多元研で活躍する女性研究者をインタビュー形式で紹介します。
第2回目は、高温での材料プロセスに関する研究を行っている川西咲子講師に、研究者になったきっかけやメインの研究テーマ、休日の過ごし方なども伺いました。

地球防衛軍、うまくいってる?

 研究者になるきっかけは・・・

 きっかけは中学生の頃だと思います。バスケ部の仲間と将来の夢について話したとき、写真家になりたいとか、アニメの仕事をしたいとか話していた中で、私は「地球防衛軍になりたい」と言ったんです。人間が壊してしまう地球を守りたい、という意味でした。環境問題をなんとかしたい、と漠然と思ったのが、研究者になるきっかけでした。今でも同級生に会うと、「地球防衛軍うまくいってる?」と聞かれるので、「もうちょいやな」と答えています。

 大阪大学の材料系への進学を決めたのは、大学入試の願書を出す日でした。たまたま目にしたパンフレットで「これや!」って思って、すぐに第一志望を書き直しました。

 大学生の頃は、修士を修了したら会社で働こうと思っていました。同級生と一緒に就活して就職し、鉄鋼メーカーで溶鋼の凝固プロセスの研究に、1年程携わりました。ダイナミックなスケールで物事を動かせる恵まれた環境でしたが、専門的な研究を、もっと自由にやってみたいと思うようになったんです。結局、会社を辞めて半年後に受験して、東京大学の博士課程に進学しました。

 博士課程では、鉄鋼系の研究室で半導体材料の結晶成長の研究をしました。1,600度近くの高温状態で作るシリコンカーバイドという結晶の研究です。博士課程を修了して、計算系の研究室でポスドクをやっていた頃に、今の研究室の柴田教授とお話しする機会があって、東北大学の公募に応募しました。

材料を作るプロセスの高効率化や材料の高品質化を追求する

 研究テーマは・・・

 専門分野を聞かれたら、「高温」と答えています。金属や半導体などの材料を作るプロセスでは、1,000度を越える高温でさまざまな反応が起きます。私は、高温での固体―液体間の界面反応を、光学顕微鏡を使って「その場観察」する、というのを主にやっています。ミクロン(※1)オーダーのスケールでどんな反応が起きているのかも、直接観察をすれば一目瞭然です。高温で起きている現象を明らかにすることによって、材料を作るプロセスの高効率化や材料の高品質化を追求しています。

 1,000度近くの高温になると材料自身からの発光も強くなるので、固体と液体の界面は見えないと盲目的に思っていたのですが、ある日、固体が高温でも透明なら、固体―液体の界面で光が反射して、鏡で見るような状態で界面が見えるかもしれないと考えたんです。物は試しで、金属の溶液の上に透明なシリコンカーバイドの結晶を乗せて、ハロゲンランプを当ててみたら、想像以上に綺麗な界面が見えたんです。「これや!」って思って高温で観察できる専用の顕微鏡を作り、実験をスタートしました。

 固体が透明ではなくても、工夫すると界面反応を見ることができます。例えば、マグネタイトは黒い固体ですが、1ミクロン程の薄い膜にすると少しですが可視光が透過するようになり、マット(※2)と呼ばれる硫化物の液体との界面反応を観察することができました。

※1. 1ミクロン:1000分の1ミリメートル
※2. マット:銅やニッケル等の製錬の中間産物として生成される液状の金属硫化物

設計から任せられる工場が充実しています

 研究環境は・・・

 多元研の研究環境の良いところは、研究所内に、幅広い分野の研究者が集まっていることです。自分から聞きに行くと、みなさん研究分野の違いにとらわれずに教えて下さるので、それで研究が進むことも多いです。

 共通機器が充実していることや、機械工場、ガラス工場、光器械工場が揃っていることも優れている点です。工場は、設備が整っているだけでなく、専門のスタッフがいて気軽に相談できる環境なので、手作りの装置が必要な研究者にとっては大助かりです。私も、多元研の工場で一から設計し、作製していただいた装置を使っています。ちょっとした改良や調整に対応してもらえるのも助かりますし、設計や製作の過程を見ていて新しいアイディアが沸くこともあるんです。

多元研の工場で作製した装置を使って実験しています
  多元研の工場で作製した装置を使って実験しています

スポーツが好きです

 ワークライフバランスは・・・

 内緒ですが、土曜日には実験していることが多いんです。人も少なくて集中できるので、新しいことをじっくりと試してみたりしているんです。

 休みの日は、スポーツ観戦するのが好きです。野球場の雰囲気が好きで、スタジアムにも出かけます。MotoGP をインターネットで観戦するのも楽しみです。日本人の若い選手が、世界を股にかけて活躍する様子を見て刺激を受けています。自分で体を動かすのも大好きで、多元研に来てから始めたバドミントンは、昼休みや夕方の練習に参加して楽しんでいます。

「後は野となれ山となれ」

 座右の銘は・・・

 無責任になれと言う意味ではありません。その時その時に、自分が出来る限りのことを精いっぱいやろう、出てくる結果は自分の力ではどうにもならず神のみぞ知ることなので、「野となれ山となれ」という気持ちに切り替えよう、ということです。

「蒼穹の昴」

 愛読書は・・・

 浅田次郎の文章が好きです。リズミカルで美しい日本語で、風景が感じられるし、テンポもよくて読みやすいです。特に、「蒼穹の昴」が好きです。清の終わり頃の物語で、貧しい家庭に生まれた主人公が、妹思いのいい青年なんですが、すごく頑張って、最終的には西太后に仕えるという話です。他の小説や短編も好きですし、機内誌のエッセイは飛行機で出張するときの楽しみの一つです。

いっぱい失敗をしたらいいと思います

 これから研究者を目指す若い学生さんへのメッセージ

 失敗から学ぶことは多いと思います。私自身も、たくさん失敗しました。学生の頃、共同研究先から20枚ほど提供して頂いた高価な単結晶の基板を、破損したこともあります。真空ではない包装のままの状態で真空の保管庫に入れて帰宅したら、次の日の朝全部バリバリに割れていました。転んでもただでは起きない性格なので、破片を集めて予定よりも回数を増やして実験することができたのですが、どう考えても大失敗でしたね。

 教員になってから学生さんと話していると、先生という名前が付いただけで偉い人のように思われることがあるのですが、今に至るまでたくさん失敗してきました。失敗を乗り越えて次に活かして欲しいです。

川西咲子 Sakiko KAWANISHI
大阪府出身。大阪大学工学部卒業、同大学院工学研究科博士前期課程修了。JFEスチール㈱での1年の勤務の後、東京大学大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻博士後期課程修了。東京大学生産技術研究所 日本学術振興会特別研究員(PD)を経て、2015年12月より東北大学多元物質科学研究所 材料分離プロセス研究分野 助教、2023年3月より講師。工学博士。
東北大学 プロミネントリサーチフェロー(2022年2月~)
National Renewable Energy Laboratory Visiting assistant professor(2019年5月~2022年3月)
研究室ウェブサイト

取材日:2023年2月14日