多元研で活躍する女性研究者紹介

#3 福山 真央

福山真央

 多元研で活躍する女性研究者をインタビュー形式で紹介します。
第3回目は、分析化学、マイクロ・ナノ科学、界面化学、の研究を行っている福山真央講師に、研究者になったきっかけやメインの研究テーマ、休日の過ごし方なども伺いました。

自然現象は説明できるはず

 研究者になるきっかけは・・・

 きっかけは小学生4年生の頃だったと思います。理科にハマりました。今でもよく覚えているのですが、学習塾の理科の先生が、最初の授業で、蛇行した川の流速分布を校庭のトラックを走る子供のたとえで説明したんです。「みんなで並んで手を繋いで校庭のトラックを走って曲がる時に、カーブの外側にいる人すごく速く走るでしょ」って。実際はこの説明は不正確なのですが、その時は、「あ、自然って説明できるんだ」というサイエンスの基本姿勢がストンと腑に落ちました。それ以来広い意味での理科が好きになって、それが今も続いている感じです。

 昔から妄想をめぐらして探究するのが好きだったんだと思います。小学校に入ったばっかりの時、毎休み時間ずーっと1人で砂場を掘っていた時期がありました。砂場を深くまで掘っていったら、地球の中心の方までいけるんじゃないかと思って。でも、多分用務員さんに嫌がられていたと思うんです。次の休み時間には必ず穴が埋まっていたので(笑)。穴を掘って埋められてのイタチごっこをしばらく繰り返していたんですが、ある時、穴を掘っていたら丸々太ったカブトムシの幼虫みたいなのが出てきたんですよ。虫が嫌いだったので、「うわっ気持ち悪っ」と思って怖くなって穴を埋めて、それ以来穴掘りをやめてしまったんですが…。今思うと、用務員さんが私に穴を掘るのをやめさせるために幼虫を砂場に埋めたのかもしれません…。幼虫なんていたことのない深さでしたし…。

 東京大学に進学して工学部の応用化学科に入りました。修士課程から、今も続けている分析化学、界面化学の研究を始めました。ぱっと見訳が分からない現象を、筋道立てて説明することにとても面白さを感じます。ひとつのことを深めてみたいと思っていたので、最初から博士課程には進むつもりでした。砂場での穴掘りのリベンジみたいですね。

グチャグチャな環境での核形成を数字に落とし込みたい

 研究テーマは・・・

 分析化学を専門としています。ある物質が、対象物中にどのような状態でどのくらいあるのかを調べる手法を開発するのが、分析化学の研究です。私たちの身の回りにあるものは、いろいろな物質が混ざった状態にあります。例えば、チョコレート中のカフェインの量を調べたい場合、いろいろな物質が混ざっているチョコレートからできるだけ混ざりものを除いて、きれいなカフェイン溶液にしてからその量を測ります。私は、混ざりものを除く作業をいかに簡便化するか、とか、そもそも混ざりものがある状態のままで定量するにはどうしたらいいか、ということを研究しています。

 最近は、アミロイド※1の核形成を定量する手法を開発しています。アミロイドは色々な疾患で観察されるのですが、いつ、どこで、どうやって形成されるのかいまだによくわかっていません。アミロイドの発生は、食塩の結晶化などと同じで、最初に「核」ができると考えられています。一度核ができると、そこからアミロイドがどんどん成長していきます。私は特に、実際の細胞の中のような、タンパク質がすごく高濃度で夾雑物が大量にある水溶液の中でのアミロイドの核生成に興味を持っています。こういうグチャグチャな環境の中で起こる核生成を定量して、ビシッと明確な数字に落とし込むことで、疾患発症メカニズムの理解や新たな薬剤の創製の助けになればと思っています。

※1.アミロイド:水に溶けない線維状のタンパク質で特定の構造を持つ

新しいことを試すのにとてもいい環境

 研究環境は・・・

 多元研の研究環境は、新しいアイデアの実証段階にいる研究者にとってはとてもいい環境だと思っています。仙台は、適度に都会でごみごみしていないので、落ち着いてじっくり実験や考え事をするのに適しています。実験室のスペースも十分です。私は、学生さんと実験補佐員さんと少人数のチームを組んで研究を進めています。

 また、出産前後に研究所と大学から主に研究費の面で手厚いサポートがありました。このサポートのおかげで今の研究を続けることができました。最近は子供が成長して育児も楽になってきましたが、子供が幼くて育児が大変だったときは本当に助けられました。

休日は家族と過ごしています

 ワークライフバランスは・・・

 今は仕事の関係で家族と離れて暮らしているので、休日は必ず、5歳になる子供と夫が暮らしている家に帰っています。週末は大体子供とどこかに遊びに行っています。毎週金曜日の夜に家に帰って、日曜の夜に仙台に戻ってくる生活なので、とても忙しいのですが、休日は家庭/平日は研究に集中するというライフスタイルです。

「この国のかたち」「坂の上の雲」

 愛読書は・・・

 司馬遼太郎が好きで、よく読みました。特に「この国のかたち」や「坂の上の雲」が好きでした。「坂の上の雲」の前半の、明治時代という新しい時代を舞台にした若者の群像劇が生き生きと描かれていて印象深いです。特に正岡子規が好きで、彼の青臭さとか、楽天的なところとか、俳句への情熱とか、たまに混じるあまり上手じゃない俳句とか、とても魅力的だと思っていました。何となく、写実の精神ってサイエンスの姿勢に繋がるところがあると感じています。

巧を求むるなかれ、拙を蔽ふなかれ、他人に恥かしがるなかれ

 座右の銘は・・・

 座右の銘は、正岡子規の「俳諧大要」に記されている言葉を選びました。俳句のビギナーに向けられた言葉ですが、研究を始める学生さんに贈りたい言葉でもあります。新しい現象と向き合う時は、その現象の専門家ではないですから、心構えとして大事なことだと思います。私自身も初心を大切にしています。

好きな事を積み上げて

 これから研究者を目指す若い学生さんへのメッセージ

 まずは、好きな事を見つけて欲しいです。人生設計や将来の子育てのことを考えると、何歳でこうして、何歳でこうしなければ、のように義務感に苛まれることもあるかと思います。でも私は、その時々で一番いいと思うこと、楽しいこと、好きなことを積み上げ続けて、その結果としてキャリアができていくと考えた方が、人生を楽しめると思っています。

福山真央 Mao FUKUYAMA
東京出身。東京大学工学部卒業、東京大学 工学系研究科 応用化学専攻 博士課程修了。 日本学術振興会 特別研究員、京都工芸繊維大学 大学戦略推進機構系 助教を経て、2017年1月より東北大学多元物質科学研究所 ナノ・マイクロ計測化学研究分野 助教、2021年9月より講師。工学博士。
公益財団法人日本化学会 第11回女性化学者奨励賞(2022年12月)
研究室ウェブサイト

取材日:2023年3月31日