3. 次世代ディスプレイ・照明材料の開発
3. 次世代ディスプレイ・照明材料の開発
発光ダイオード(LED)をバックライトとした液晶ディスプレイは、消費電力が小さく環境負荷の小さいディスプレイとしてテレビやパソコンなどに広く使われています。バックライトのLEDはGaN系の青色LEDと黄色の蛍光体を組み合わせた白色LEDが使われていますが、カラー表示に必要な赤緑青(RGB)の三原色以外の波長成分はフィルターで捨てられているため、投入した電力の一部は捨てられる光を作るために使われ、損失されています。また、既存の白色LEDでは深い赤色の成分が含まれないため、現状の技術では次世代型の高彩度、広色域ディスプレイを実現することはできません。より忠実な色彩を再現するには、LEDの青色光を赤色、緑色へと変換する蛍光体が必要とされています。
次世代太陽電池材料の研究紹介でも登場した大きさ数ナノメートルの半導体単結晶である量子ドットには、大きさに応じて発光色が変わるというユニークな性質があります。この性質を使うと、同じ物質で必要な色の発光を作りだせ、かつ、大きさの分布の調節で発光波長の広がりが小さく純度の高い発光を達成できます。量子ドットを使って、LEDの青色光を赤、緑へと変換すると、フィルターを通過できない“捨てられる光”を作らず、なおかつ、広い色域が達成できるため、忠実な色彩を再現と省エネルギーを両立する液晶ディスプレイが実現します。既にテレビやタブレット端末への搭載も始まっています。現在使われている材料はカドミウムセレナイド(CdSe)量子ドットであり、カドミウムは我が国やEUで規制対象の元素であるため、カドミウムを含まない新たな材料の登場が期待されています。
私たちの研究室では、可視光の発光を達成できるカドミウムを含まない化合物半導体をシミュレーションにより絞り込み、CuInS2をベースとした量子ドットの合成に世界に先駆けて成功しています。量子ドットの優れた発光特性は、ディスプレイや照明だけでなく、紫外線や赤外線の光源としても利用でき、紫外線を発する酸化亜鉛(ZnO)の量子ドットやそれを使った発光素子も実現しています。現在は、より高性能な可視光を発する量子ドットや、より環境にやさしい新しい量子ドット材料の開発を行い、ディスプレイや各種の光源における省エネルギーの達成を目指して研究を進めています。
Chem. Mater. 18, 3330-3335(2006). (doi: 10.1021/cm0518022)
Chem. Mater. 21, 2607-2613 (2009). (doi: 10.1021/cm802022p)
Appl. Phys. Lett. 100, 061104(2012). (doi: 10.1063/1.3682307)
J. Mater. Chem. C 2, 6867–6872 (2014). (doi: 10.1039/C4TC01144A)