私は昭和41年に札幌に生まれ、昭和60年に札幌北高等学校を卒業し、北海道大学理科Ⅰ類に入学しました。北海道大学理学部化学第二学科の固体化学研究室で、松永義夫先生のご指導のもとで「特異な分子形状を有する液晶性化合物の合成と物性」に関する卒業論文および修士論文の作成を行いました。松永先生からは、有機分子およびその集合体の多様性に関して、分子の設計と合成の楽しさを教えて頂き、研究者として礎を築いて頂きました。
博士過程は、研究場所を変えて、平成3年4月に京都大学大学院理学研究科化学専攻の斉藤軍治先生(現名城大教授)の研究室に進学しました。当時の斉藤研は、有機超伝導体の開発で世界のトップを走っており、多くの大学院生が華々しい研究を行っていました。斉藤先生から、”皆がやっていない新しい事を自分で考えて研究しなさい”と言われ、有機超伝導とはあまり関係の無い、「新規な電子-プロトン連動型の電荷移動錯体の合成と物性」に関する研究を行いました。水素結合性の電荷移動錯体の電子移動状態とプロトン移動状態を系統的に調べる事で、酸化還元特性および酸解離特性と電子・磁気物性の相関に関する研究論文をまとめました。
平成7年2月から、生まれ故郷の北海道に戻り、北海道大学・電子科学研究所の中村貴義先生の研究室で助手として新たな研究をスタートさせる機会に恵まれました。当時、中村研究室には装置も人も無く、中村先生との二人三脚で研究室の立ち上げを行い、有機結晶の導電性や磁性などに加えて超分子化学の手法を導入した新規な分子集合体の開発を行いました。幸いにも、初期に行った電子伝導とイオン伝導が共存したイオンチャネル型の遷移金属錯体の研究成果が、Nature誌に掲載されました。その後、Langmuir-Blodgett膜、ゲル、ミセルなどのソフトな分子集合体を分子エレクトロニクス材料に展開させるための基礎研究を行いました。また、無重力下でのポリマー作製に関する研究を、北海道の上砂川町に有る炭坑を利用した無重力実験施設で、約5年間行いました。縦坑に装置を自由落下させる事で得られる10秒間の無重力状態で、導電性ポリピロールの重合反応などを試みました。同時に、JSTのさきがけ21研究を行うチャンスに恵まれ、分子性導体や磁性体と超分子化学・界面科学を融合させた新規な分子集合体の物性研究を行い、これらが今日の研究の礎となっています。東北大学に赴任する前に、分子性結晶中の分子回転と強誘電性が連動した興味深い分子ローター型錯体の開発に成功しました。今後は、人工分子モーターの開発など、ハイブリッド材料の観点から分子デバイスの実現に向けた新たな研究を進めたいと考えています。
微力ではございますが、本学の発展に少しでも貢献できるように教育・研究に努力して行く所存でございますので、今後ともご支援・ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。