研究概要
高田研究室は、放射光X線により物質中の電子構造をナノレベルで可視化し、新しい機能を持った材料を開発する設計指針を確立することを目標としています。急速に発展する放射光X線の光源特性を活かした先端計測技術と計測データの解析手法を独自に開発し、ハードからソフトマターまで多様な新機能性材料に応用研究を展開しています。
現在の主な研究テーマは、以下の通りです。
- 次世代放射光施設(ナノテラス)の推進
- X線可視化技術の高度化による構造科学の革新
- 軟X線顕微鏡の開発および生体試料への応用
- 軟X線オペランド分光法の開発及び表面界面反応プロセスへの応用
- 軟X線光源・光学素子・検出器など要素技術の開発
1. 次世代放射光施設(ナノテラス)の推進
現在、高田研究室は最先端の軟X線放射光光源である「次世代放射光施設(ナノテラス)」(図1)を強力に推進しています。次世代放射光施設が実現する未踏の光に、これまで私達が独自に開発を進めてきたX線回折・顕微・分光法の計測手法及びマキシマムエントロピー法などの画像再構成の解析手法を適用することで、X線ナノ可視化技術の革新を目指します。また、学術と企業が課題解決に向けて1対1の強固なチームを作る新しい産学連携の形「コアリション(有志連合)・コンセプト」を通じ、次世代放射光施設をオープン・イノベーションのゆりかごとし、新産業創成に繋げることを目指しています。
2. X線可視化技術の高度化による構造科学の革新
物質の性質・機能は、物質中の電子の分布や動きによって決定されます。従来の構造科学は物質中の原子配列を明らかにしてきましたが、高輝度放射光X線を用いたX線回折実験にマキシマムエントロピー法という解析手法を組み合わせることで、物質中の電子密度分布や静電ポテンシャルを精密にマッピングすることに成功しました(図2)。これにより物質中の原子間・分子間相互作用を可視化することができます。これまでに、金属有機構造体(MOF)、フラーレン材料、超電導体、誘電体、マルチフェロイクス、ボロン化合物、セラミックスといった多岐にわたる機能性材料を計測対象としてきました。
3. 軟X線顕微鏡の開発および生物試料への応用
生物試料の観察には一般に可視光を用いた可視光顕微鏡が使われますが、波長より細かな物体を見るのは困難です。一方で、可視光よりも1桁以上波長が短い軟X線を用いた「軟X線顕微鏡」は可視光顕微鏡より1桁以上高い空間分解能を持ち、可視光では見えない物体を見ることができます。そのためには、波長程度の機械精度を持つ光学素子、軟X線に感度を持つ2次元検出器などが必要で、これらの要素技術の開発と合わせて軟X線顕微鏡の開発とその生物試料への応用を行っています(図3)。
4. 軟X線オペランド分光法の開発及び表面界面反応プロセスへの応用
「オペランド計測」とは動作中のデバイスや不均一触媒を直接観測し、その動作メカニズムを解明する計測手法です。私達はSPring-8 BL07LSUにおいて数Torr の気体雰囲気下でのオペランド計測を可能にする雰囲気軟X線光電子分光システム(図4)を東京大学物性研究所と共同で開発し、工業的に重要なCO2水素化反応を初めとした触媒反応のオペランド計測の研究を進めています。また、測定可能ガス圧の向上や時間分解計測を初めとした次世代放射光施設に向けた開発を現在行っています。
5. 軟X線光源・光学素子・検出器など要素技術の開発
軟X線は可視光と異なり物質を透過しないため、軟X線を自在に扱うには軟Ⅹ線専用の光源、光学素子、検出器が必要です。例えば、光学素子は軟X線を反射して光路を曲げるための斜入射ミラー、分光するための斜入射反射型回折格子などが必要です。また干渉作用を利用した多層膜反射を用いると、特定波長の軟X線を直入射で反射させることができ、斜入射ミラーに比べ明るい光学系を実現することができます。この原理を利用した直入射・高反射率結像鏡や低入射角・高回折効率回折格子の開発に力を注いでいます(図5)。また、シンチレータと誘導放出抑制(STED)技術を組み合わせた軟X線超解像技術の開発も行っています(図6)。