タンパク質デザインを目指した一分子ソーターの開発
研究の目的
ファージ・ディスプレイ法と蛍光観察装置を組み合わせ、さまざまな配列を持つライブラリーから、目的の特性を持つタンパク質を選択する実験手法を確立する。
焦点深度の大きな光学系を開発し、バルブと組み合わせることで一分子の信号検出の後に試料を回収するシステムを開発しています。
GFPを再構成したファージを一分子選別装置に流し、一個体ごとに観察しながら選別する実験を続けています。
今までに、
①作製したファージを一個体ごとに計測していることを確認した。
②装置から回収したファージを大腸菌に感染させることで、配列情報を読み取れることを確認した。
現在、効果的にファージを回収する方法を模索中です。
マイクロ秒分解一分子 観察法によるタンパク質の高速度ダイナミクスの観察
研究の目的
数十マイクロ秒の時間分解能で、一分子の蛍光強度変化を連続追跡するライン型共焦点蛍光観察装置を開発し、タンパク質の高速ダイナミクスを追跡する。
フローセルとラインフォーカス型の共焦点顕微鏡を用いて、20 マイクロ秒の時間分解能による一分子蛍光観察を可能にした。この時間分解能は、従来の実験装置よりも一桁以上の向上に対応する。しかし、時間分解能を向上させると、測定時間を十分に長く出来ず、せいぜい数ミリ秒の長さの時系列データしか得られないとう欠点があった。
高時間分解能を維持しながら長時間観察が可能な一分子蛍光時系列データ観察装置を開発した。
装置の性能を評価すると、予備的な結果として、10マイクロ秒の時間分解能で10ミリ秒以上のデータの取得を可能にした。この装置を用いることで、分子動力学計算で示されるタンパク質の運動を、実験的な手法によって検証する実験が可能になると考えられる。
開発した装置を用いることで、いくつかのタンパク質についての一分子計測を行い、得られた一分子データを解析するための手法の開発も行った。
プロテインAのBドメイン:得られたデータの線幅を解釈するための理論を構築し、データをほぼ定量的に説明できることを明らかにした。
ユビキチン:定常状態における変性過程の一分子計測を完了し、さらに、溶液混合装置を用いた時間分解能計測の予備実験を行った。
青色蛍光タンパク質:平衡変性過程についての一分子観察を行った。さらに、分子シャペロンであるGroELとの相互作用を計測した。
スタフィロコッカルヌクレアーゼ:一分子計測実験の準備を開始している。
DNA整列固定技術「DNAガーデン」を用いたDNA結合タンパク質の単分子機能解析
研究の目的
DNA結合タンパク質は遺伝子発現の調節などを行い、細胞の機能を調節している。これらのタンパク質は、すごく長いゲノムDNAの中からターゲット配列を驚くほど素早く探し出し、特異的に結合できる。私たちは、蛍光顕微鏡を用いて、DNA結合タンパク質の単分子がDNA上を動く過程(スライディングやジャンプなど)を観察し、標的探索メカニズムの解明を目指している。これまで、独自の手法として、ガラス基板上にDNAを整列し固定する技術「DNAガーデン」を開発した。DNAガーデンと単分子蛍光顕微鏡を用いて、がん抑制タンパク質p53、DNAの形を制御するタンパク質Fis, Nhp6A, HU、改変したゲノム編集タンパク質Cas9等を解析し、報告した。現在、国内外の研究者と協力し、様々なDNA結合タンパク質の解析を進めている。
液-液相分離するタンパク質の計測・制御・設計
研究の目的
タンパク質は、液―液相分離現象を利用し、集団として多彩な機能を生み出すことが分かってきた。液-液相分離とは、分子が低い濃度で均一に溶けている液相と分子が密に集合した液相(液滴)に分かれる現象である。タンパク質が液滴に密集することで高効率な化学反応などが可能になるが、同時に疾患の原因となる不溶性の凝集体を形成するリスクがある。私たちは、(1)計測によるタンパク質の液-液相分離現象の理解、(2)相分離現象を制御できるペプチドの設計、(3)相分離するミニタンパク質の設計を目指している。これまで、がん抑制タンパク質p53の液―液相分離現象の発見、液滴へのタンパク質の選択的取り込み現象や液滴内での分子運動の法則の発見、液滴を制御できるペプチドの設計法の開発などを報告した。現在、光ピンセットを用いた力学測定や相分離するミニタンパク質の設計などに挑戦している。