4dや5d遷移金属元素化合物はスピン・軌道相互作用と電子相関の協奏現象として多彩な電子相を発現します。クーロン反発力が強い場合にはスピン軌道結合モット絶縁体となり、スピンと軌道自由度が絡んだKitaevスピン液体状態の実現の舞台となります。他方、クーロン反発力が弱い場合にはスピン軌道結合金属となり、トポロジカル絶縁体や半金属として興味深い電子表面状態を実現する期待があります。ところが両者を結び付けるような物質はほとんどありません。
近年、大串研究室で高圧合成を利用しRu3+がハニカム構造を組むRuBr3やRuI3が発見されました。良く知られているα-RuCl3や新しく発見されたRuBr3はスピン・軌道結合モット絶縁体です。ところが同様にハニカム構造を有するRuI3の物性を調べると、なんとどちらかというと金属に近い状態が実現していることが分かりました。今後さらにRuI3の電子物性を調べることにより、スピン軌道結合モット絶縁体とスピン軌道結合金属の間でどのような電子状態が実現しているのか明らかになることが期待されます。R-3(D. Ni et al., Adv. Mater. 34, 2106831 (2022))とP-31cの多形による物性の違いもあるようで、中々興味深い物質です。
Kazuhiro Nawa, Yoshinori Imai, Youhei Yamaji, Hideyuki Fujihara, Wakana Yamada, Ryotaro Takahashi, Takumi Hiraoka, Masato Hagihala, Shuki Torii, Takuya Aoyama, Takamasa Ohashi, Yasuhiro Shimizu, Hirotada Gotou, Masayuki Itoh, Kenya Ohgushi, and Taku J Sato
“Strongly electron-correlated semimetal RuI3 with a layered honeycomb structure”
Journal of the Physical Society of Japan, Vol. 90, 123703 (2021)
(文責:那波)