パイロクロア反強磁性体は相互作用の競合によって非自明な基底状態や磁気励起を示す興味深い物質群である。特に、古典スピンが等方的な反強磁性的相互作用で結合している場合にはスピン液体状態を示す。この古典スピン系に期待される振る舞いは基底状態における無限縮退に起因しており、パイロクロア反強磁性体固有のものである(R. Moessner and J. T. Chalker, Phys. Rev. Lett., 80, 2929 (1998); Phys. Rev. B, 58, 12049 (1998).)。しかしながら、実際の物質群では余分な摂動により多くの場合磁気秩序やスピングラス転移を示してしまう。本研究では新規パイロクロア反強磁性体Na3Mn(CO3)2Clの構造的、磁気的性質を示す。興味深いことに中性子回折実験では0.05 Kまで磁気秩序の兆候を示さなかった。全磁気エントロピーの1/4程度が0.5 Kでも残っていると見積もられること、磁気散漫散乱は十分に発達していることから基底状態近傍において縮退度が大きくなっていることが示唆された。したがって、本物質は古典パイロクロア反強磁性体に期待されるような興味深い磁気励起や磁気秩序を実現しているかもしれない。
こういう構造の古典パイロクロア反強磁性体もあるよという提案です。厳密にいえばパイロクロア構造とは異なりますが…(文責:那波)。
Kazuhiro Nawa, Daisuke Okuyama, Maxim Avdeev, Hiroyuki Nojiri, Masahiro Yoshida, Daichi Ueta, Hideki Yoshizawa, and Taku J Sato
Degenerate ground state in classical pyrochlore antiferromagnet Na3Mn(CO3)2Cl
Physical Review B,98(14),144426(8))(2018.10)
DOI:10.1103/PhysRevB.98.144426