強磁性的な最近接サイト間の磁気的相互作用J1と反強磁性的な次近接サイト間の磁気的相互作用J2が競合するS = 1/2の一次元J1–J2フラストレート磁性体は 磁気的相互作用の競合によってスピン密度波相やスピン・ネマティック相などの多彩な磁気相を示す。 LiCuVO4はLiの格子欠陥の問題を回避することが困難であるので、これらの磁気相を実験的に立証すべく高純度な単結晶試料が得られる新しい候補物質が必要となっている。 我々はNaCuMoO4(OH)単結晶試料を用いて23Na核と1H核に関するNMRの実験を行い、本物質の磁気秩序及び磁気ゆらぎを微視的に調べた。 NMRスペクトルの詳細な測定を行ったところ、らせん磁気秩序相がBc = 1.5 T以下で、SDW秩序相がBc以上で実現していることが明らかになった。 加えて、核磁気緩和率1/T1を用いた解析によりBc以上でマグノンが束縛対を形成していることが分かった。 以上の結果はNaCuMoO4(OH)が微視的な観点からも一次元J1–J2フラストレート磁性体の良い候補物質であることを支持しており、 今後高磁場下での実験によって磁場誘起のスピン・ネマティック秩序やそれに対応する磁気ゆらぎが明らかにされると期待される。
水素と銅原子がほぼ同一のc軸座標を持つために磁場をc軸にかけることで磁場に垂直なゆらぎを選択的に調べることができます。ちゃんと高磁場NMRの実験も進めています(文責:那波)。
Kazuhiro Nawa, Makoto Yoshida, Masashi Takigawa, Yoshihiko Okamoto, Zenji Hiroi
Collinear Spin-density-wave Order and Anisotropic Spin Fluctuations in the Frustrated J1–J2 Chain Magnet NaCuMoO4(OH)
Physical Review B,96(17),174433(9))(2017.11)
DOI:10.1103/PhysRevB.96.174433