Research
研究背景と目的
生体由来の微量な試料などを解析するとき、微少量の液体での実験が必要になります。このような考え方をどんどん進めていき、ナノメートル・マイクロメートルの空間(ウェルや流路)を利用して化学操作を集積化する研究が大きく発展しています。特に化学分析や生化学分析を小さくしていく分野はLab on ChipやMicroTASと呼ばれ、非常に多くの研究者が分析手法の研究の発展に貢献しています。微小空間や微小液体操作法を駆使することで、単一分子の化学や単一細胞の化学、人工細胞への挑戦など、従来にない新しい学問分野が開拓されつつあります。プロテオミクスやゲノムシークエンスなど、従来からある分析法を極端に高効率することも研究対象です。また、「小さくできること」「運べること」「たくさん同じものが作れること」「電子回路やアクチュエータと融合できること」などの特徴を活かし、「ロボティクス」「バイオインフォマティックス」「ビッグデータ」など先端科学分野と「化学」の融合を進める分野として大きく発展を遂げようとしています。
大きく応用が広がる分野ではありますが、分野の継続的な発展のためには、基礎研究が欠かせません。特に、「ナノ・マイクロ空間で何が起こっているのか?」ということには、分からないことがたくさんあります。当研究室では、このナノ・マイクロサイズの微小空間でおこる化学現象、あるいは微小空間を利用した計測化学を研究対象としています。微小空間での溶液化学・界面化学の現象解明や新しい手分析法の研究を進めつつ、微小空間化学の学問体系の確立、応用分野への貢献を目指しています。
研究手法
微小空間を対象として実験するためには、微小空間を作り出さなければなりません。当研究室では、Soft Lithographyと呼ばれるシリコンゴム加工法や、PhotolithographyとChemical EtchingやMoldingを用いる方法などの微細加工により、ナノ・マイクロ化学実験デバイスを日常的に作製しています。ガラス・シリコン・金属・プラスチック・シリコンゴムなどを組み合わせて、様々な用途に応じたデバイスを作製できる環境を整えています。
研究テーマ
1. マイクロ流体を用いたタンパク質線維核形成の解析
タンパク質線維形成はアルツハイマー病、ALSやパーキンソン病などの多くの神経変性疾患を理解するうえで重要だと考えられています。線維形成の最初期過程である核生成がごく微小で非常に起こりにくい現象であるがゆえに核生成の観察・解析が難しく、その化学的な描像は明らかではありませんでした。我々は、マイクロ流体デバイス中で多数の並列実験を同時に行うことで、タンパク質線維核生成の1イベントレベルでの検出方法を開発しました。本手法により線維核生成の化学反応速度論的に記述することが可能になりました。将来的には体液中の核の検出につながり、診断技術への利用が可能になると期待しています。また、近年注目の集まっている細胞内液液相分離と線維形成の関係についても明らかになると期待します。
[1] Fukuyama et al. Analytical Chemistry, 2023, 95, 26, 9855.
2. マイクロ水滴を用いたバイオ分析法の開発
2000年代よりマイクロメートルサイズの油中水滴(マイクロ水滴)をマイクロ流体デバイス内で高速に生成・操作し、化学・バイオ分析に利用するDroplet microfluidicsとよばれる技術が大きく進展してきました。1細胞分析や微量バイオマーカー検出などに利用されており、ライフサイエンス分野において、大きなブレークスルーを起こすポテンシャルがあります。我々はこれまで「自然乳化」と呼ばれる特殊な乳化現象を利用してDroplet microfluidicの新しい前処理操作を開発してきました。本手法ではマイクロ水滴を特定の界面活性剤の入った有機相と接触させるだけの簡便な操作であり、分析スループットの飛躍的な向上が可能になると期待します。また、本技術により微小な生物物理現象(細胞内液液相分離など)を生体外での再現が可能になり、ドラッグスクリーニングへの技術応用に繋がると期待します。
[1] M. Fukuyama et al. Analytical Chemistry, 2015, 87, 7, 3562.
[2] M. Fukuyama et al. Analytical Chemistry, 2017, 89, 17, 9279.
[3] M. Fukuyama et al. Lab on a Chip, 2018, 18, 356.
[4] M. Fukuyama et al. Analytica Chimica Acta, 2021, 1149, 1, 338212.
[5] 福山ら 分析化学, 2022, 17, 7, 319. (日本語解説記事)
[6] M. Fukuyama et al. Langmuir, 2023, 39, 22, 7884.
[7] M. Fukuyama Bulletin of the Chemical Society of Japan, 2023, 96, 11, 1252. (Award account)
3. ポータブルイムノアッセイ装置を用いた簡易バイオ分析法の開発
近年、環境分析や食品分析、臨床検査等の分野では、その場分析・ポイント・オブ・ケア・テスティングのニーズが高まっています。我々は、蛍光偏光イムノアッセイ(FPIA)とマイクロ流体デバイスと組み合わせることで、操作容易なポータブルイムノアッセイ装置を開発してきました。本装置を用いることで、ヒト血清中のバイオマーカー, 抗Covid-19抗体やエクソソームなど、様々な試料を30分以内に測定できるようになりました。(本研究は北大・東工大・Tianma Japan株式会社・小松大との共同研究です。)
[1] O. Wakao et al. Analytical Chemistry, 2015, 87, 9647.
[2] M. Fukuyama et al. Analytical Chemistry, 2020, 92, 21, 14393.
[3] K. Nishiyama et al. Biosensors and Bioelectronics, 2021, 190, 113414.
[4] K. Takahashi et al. Lab on a Chip, 2022, 16, 2971.