AlN薄膜における紫外発光帯強度と
欠陥密度の相関性 

Correlation between the violet luminescence intensity and defect density in AlN epilayers grown by NH3-MBE

■はじめに

III族窒化物半導体AlxGa1-xNを用いた高効率深紫外線発光素子の実現を目指します。

発光波長250nm〜200nmの深紫外線半導体発光素子の高効率化は、殺菌処理に用いられる医療用水銀ランプの代替やPCBなど安定有害物質の分解処理のための環境保全装置への適応、次世代高密度記録光源の実現をもたらします。しかしながら、現在、実現されている紫外線領域の発光デバイスの発光効率は非常に低く、多くの研究グループでその改善の手法が模索されています。

"半導体薄膜中で何が発光を阻害しているのか(非輻射再結合中心)?"その答えを探します。


■窒化アルミニウム(AlN)の発光特性
ターゲットマテリアルとして、先ずは、直接遷移型半導体としては最大のバンドギャップエネルギ(6.04eV)をもつ窒化アルミニウム(AlN)に焦点を当てました。
AlNの発光波長は200nmにも迫り、UV-C領域の発光・受光素子を実現します。しかし、AlNは高融点 (3487K)化合物であり、高品質単結晶の育成が非常に困難なため、従来は、高い絶縁性・熱伝導性・耐熱性を活かした陶器やコンセント、送電線の絶縁材料、放熱板など「耐熱絶縁材料」としての利用に限られてきました。
そんな中、我々は、NH3-MBE法を用いたAlN結晶の成長に挑み、高品質AlNを得ました。これにより、AlNの発光特性をより詳細に調査することが可能になりました。
AlNセラミクスの応用
AlNの発光は真空紫外線領域にあり、通常の光学系では発光を検出することができません。我々は、それに対応すべく新たに光学系を構築し、その発光スペクトルを観測しました。
左図にNH3-MBE法により様々な条件下で成長されたAlN薄膜のCLスペクトルを示します。(ただし、スペクトルはバンド端付近(NBE)の発光強度で規格化してあります。)
6eV付近には、励起子に関連した強いNBE発光が観測され、得られた薄膜がまさにAlN結晶であることを示しています。
これに加えて4.6, 3.8, および3.1eVをピークとする紫外発光帯(VL)が観測されました。バンド端付近の発光強度に対する深い準位からの相対発光強度は、V/III比の増加、成長温度の増加に従って減少する傾向を示しました。
 AlN薄膜のCLスペクトル
[Appl. Phys. Lett. 90, 241914 (2007).]


■紫外発光帯強度とAl空孔型欠陥との相関
窒化ガリウム(GaN)結晶では、Ga空孔型欠陥(VGa)の形成時に結晶に取りこまれる何かとの複合体(VGa-X)が非輻射再結合中心として振る舞うことが当グループにより明らかにされVGaと酸素の複合欠陥は黄色発光帯(YL)として観測されることが知られています。このアナロジーから、AlN結晶においては、Al空孔型欠陥(VAl)が非輻射再結合中心を構成する要素となり、また、VAlもしくはその複合欠陥が紫外発光帯の起源となる可能性が考えられます。
そこで、我々は、VAlとVLとの相関に注目しました。
結晶中の空孔型欠陥は陽電子消滅測定(筑波大学 上殿准教授)により直接的に観測することが可能です。中性または負に帯電した空孔型欠陥(ここではVAl)の密度やサイズをSパラメータという指標により検知することが可能です。

左図にNBE発光に対するVLの相対発光強度とSパラメータのV/III比および温度依存性を示します。
VL相対発光強度とSパラメータの関係
[Appl. Phys. Lett. 90, 241914 (2007).]
SパラメータはV/III比150で最も小さく、この条件において成長ストイキオメトリが保たれていることを示唆しています。
4.6eV発光帯の相対発光強度依存性は、Sパラメータのそれと非常に良く一致していることから、この発光帯はVAlに起因していると考えられます。
一方、3.8eVおよび3.1eVの相対発光強度は低V/III比・低成長温度で顕著に増大する傾向を示しており、これらの発光帯はVAl単体ではなく、それと何らかの複合体に起因すると考えられます。我々は、これをVAlと酸素の複合欠陥であると結論づけました(左図参照)。

上述のように、我々は世界で初めてAl薄膜中の点欠陥を陽電子消滅測定により観測し、紫外発光帯強度とAl空孔型欠陥密度には相関があることを示しました。

更に、我々は、紫外発光帯強度が弱い(VAl密度が低い)AlN薄膜の低温CLスペクトルにA、B/C自由励起子発光、およびA自由励起子の第一励起状態を観測しました(参照)。
VAlは非輻射再結合中心を構成するのか?これが次の課題です。
VL発光帯の起源
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