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概要

TAGEN FOREFRONT 05

FOREFRONT REVIEW06運動量空間で観測した水素分子の2pσu分子軌道と理論計算の比較、矢印は分子軸方向。標的原子分子の電子コンプトン散乱で生成する非弾性散乱電子と電離電子双方のエネルギーと運動量を同時に測定することにより、電子軌道毎の電子運動量分布を見る電子運動量分光。TERM INFORMATION電子運動量分光理論でしか窺い知ることのできなかった分子軌道の実験的観測と分子理解の深化ミクロの世界を支配する物理法則量子力学極微の粒子である電子の振る舞いを調べる研究は、目に見えないミクロの世界を対象とします。ミクロの世界では、私たちの日常生活での一般常識が通用しない場合が多々あります。例えば、ミクロの世界では、電子は粒子の性質と波の性質を併せ持ち、その位置や運動量は確率的にしか決めることができません。電子はどこかある特定の位置に存在するのではなくて、原子核の周囲の「何処か」に存在し、運動しています。「何処か」といっても、でたらめにではなく、量子力学と呼ばれるミクロの世界の法則に従って存在する、といった具合です。言い換えれば、原子は、境界がぼんやりした電子雲をまとっているようなものです。そして、その電子雲の形を表すものが、量子力学の方程式を解いて得られる電子軌道(波動関数)です。電子軌道は原子の場合は原子軌道、分子の場合は分子軌道とも呼ばれます。ただし、電子軌道を理論的に正確に求めることは一般に困難で、一つの陽子と一つの電子から成る水素原子では解析的に求めることができますが、2個の水素原子が互いに結びついた水素分子ではもはや厳密解は得られません。「電子軌道を理論で厳密に得られないのなら、実験的に見てやろう」。これが、髙橋研究室の最大のモチベーションです。モノの性質を決める電子の運動その動きを見るポイントは「電子衝突」ありとあらゆるモノは、極めて軽い電子と比較的重い原子核でできた原子や分子のかたまりです。電子は、モノの中を高速で飛び回りながら、モノ全体を管理しています。例えば、電子の運動の様子が少し変わるだけで直ちにモノ全体に影響を及ぼし、原子核を揺り動かしたりします。モノが青いか赤いか、電気を通すか通さないか、化学反応を起こすか起こさないか…。こうしたモノの性質を決めるのが電子の運動です。「私たちは、電子の運動を直接的に観察することにより、モノがもつ反応性・機能性の核心とその起源に直接的に迫ることを目指して研究を進めています」と語る髙橋正彦教授。通常の分光実験で測定するものは状態間のエネルギー差であって、電子軌道そのものではありません。髙橋研究室では、これまで理論計算を通じてのみしか伺い知ることのできなかった分子軌道の実験的観測と分子理解の深化に向かっています。「そこでポイントとなるのが、電子と電子の『衝突』です。私たちの研究室は、そうした電子衝突を用いて原子や分子の中で電子がどのように運動しているかを観察する実験手法を開発しています」。自然科学における波動関数の重要性を反映して電子軌道の空間的形状そのものを実験的に観測しようとする試みは古くからなされてきています。近年では、スキャンニングトンネル顕微鏡STMによるC60のHOMO(最高占有分子軌道)の観測やレーザー高次高調波観測によるN2分子のHOMO観測がなされています。「電子軌道の形状を位置空間で観測するそれらの手法とは異なり、我々は運動量空間という逆転した空間で観測します」。ノーベル化学賞を受賞した福井謙一先生のフロンティア軌道理論に代表されるように、分子の性質の多くはHOMOやLUMO(最低非占有分子軌道)といった、位置空間で大きく広がったある特定の分子軌道の形で決まります。運動量空間で波動関数を観測することの利点は、フーリエ変換の性質に依ります。反応性や分子認識など分子の物理化学的性質の多くを支配する、位置空間波動関数の原子核から遠く離れた部分を運動量空間では鋭敏に観測できます。子の運動量分布ないしは運動量空間全電子波動関数の二乗振幅強度を直接的に与えることを示したX線非弾性散乱実験が歴史的に有名ですが、コンプトン散乱はX線の代わりに高速電子を励起源としても起こります。そうした電子コンプトン散乱で生成する非弾性散乱電子と物質から飛び出した電離電子の双方を同時計測法により検出し、異なるイオン化エネルギーを持つ物質内電子毎に分けて運動量分布を測定することが、電子運動量分光の実験原理です。「電子を外からぶつけると、モノの中の電子は弾き飛ばされます。ぶつけられる前の電子の運動の様子が違えば、飛んでいくスピードや方向が変わります。だから、電子の弾き飛ばされ方を調べれば、モノの中の電子のスピードがわかる、というのが実験のからくりです」。ビリヤードで手玉を打って静止している的玉に当てると、それぞれがそれぞれの方向とスピードでビリヤード台の上を転がっていきます。髙橋研究室が進めるミクロの世界のビリヤードゲームでは、的玉がモノの中で飛び回っている電子ですので、衝突の結果出てくる電子はビリヤード台から飛び出てしまう場合がしばしばあります。その飛び出し方の激しさの具合を調べれば、モノの中で電子が持っていた運動の方向と大きさが分かります。電子の3次元的なビリヤードゲームを、ミクロの世界の電子のスピードガンとして使っています。高エネルギー電子線を励起源とするコンプトン散乱の運動学的完全実験。最外殻電子から内殻電子まで束縛電子毎に分けて分子軌道一つ一つの空間的形状を運動量空間で時間分解イメージングすることが特徴。1960年前後に核物理反応の理論家から提案された手法。フロンティア軌道理論化学反応の方向性が特定の分子軌道の形によって決まるとする理論。福井謙一らが1952年に提案した。最高被占分子軌道(HOMO)と最低空軌道(LUMO)を合わせてフロンティア軌道という。この理論は、反応する化合物のHOMOとLUMOの対称性と位相が合致するように反応は進むというHOMO?LUMO相互作用の理論へと発展した。X線コンプトン散乱物質によって散乱されたX線のなかに、その波長が入射X線より長い方にずれたものが含まれる現象。アーサー・コンプトンが1923年に発見した。X線の波長変化は、光子と物質内電子との衝突の際のエネルギー保存則と運動量保存則を用いて説明できる。同時計測法検出した二つの信号が一つの事象から生じたものか、あるいは二つの事象からそれぞれ独立に生じたものかを判別する計測法。一つの電子コンプトン散乱から生じた非弾性散乱電子と電離電子は検出時間に必ず相関を持つが、そうでない二電子は時間相関を持たずランダムになる性質を利用する。髙橋研究室では、これまで理論計算を通じてのみしか伺い知ることのできなかった分子軌道の実験的観測と分子理解の深化を目指して日々研究を進めています。分子軌道の形そのものを実験的に観測する電子運動量分光髙橋研究室では、分子軌道の形を運動量空間で観測する目的に、コンプトン散乱に基礎を置く電子運動量分光を利用します。コンプトン散乱といえば、光の二面性(波動性と粒子性)のうちの粒子性を実証したと共に物質内の全電読書、釣り、囲碁、散歩、いろんなものに興味がありますいろんなものに興味があります。まず読書。歴史・時代小説から評論・時事ものまで乱読しています。雑学好きなんです。そして、釣り。仙台に来て素晴らしい釣り仲間に恵まれました。ビギナーズラックだったのですが、1999年東北大生協釣り大会優勝。釣船に乗れば酔うし、餌も自分で付けられないぐらいだったんですが、そこからはまってしまいました。英国オックスフォード大学への留学時にも囲碁をよくやりました。当時の英国には英語で書かれたよい解説書がなかったので、下手の横好きの私でも「MasahikoSensei」と呼ばれていました。そして、散歩。晴れた日にはブラ散歩で通勤することも多いです。でも何故か痩せません。MY FAVORITE髙橋研究室では電子のみならず、物質内での原子核の運動を見るミクロの世界の原子核のスピードガンの実現も目指しています。37 TAGEN FOREFRONTTAGEN FOREFRONT38